第62話 だがこれ以上隠し事はするな。

東の話を聞いた。

やはり全て俺の想像通りだった。

あのルルと千明と俺が3人で話をした日。


あの時東はツネノリを「0と1の間」と言う時が止まった場所に連れて行っていた。


「僕はツネノリの才能を引き出してあげたかった」

そう東は言った。


外の世界から来た勇者の俺と人間でありながら研究の末にほぼ全てのアーティファクトを装備できるようになったルルの子供であるツネノリには生まれながらにして勇者としての可能性とアーティファクトを使いこなせる才能があった。


「だが、勝手な事をしたら君は間違いなく怒る」

「当然だ」


「だから僕は0と1の間でツネノリに師匠をつけて稽古をつけて貰った」


そう、東の奴は時が止まった場所にツネノリを連れて行き散々稽古をつけていた。


「師匠は誰に頼んだ?」

「もうツネツギは気づいているんだろ?」


「ザンネか?」

「ああ、彼は稀な才能の持ち主だ。ツネノリを強くするのにはもってこいの人材だ」


ザンネと言うのは北の国にいる王族の1人。

自称天才で何でも少しやってしまえば出来るようになると言うイヤミな奴だ。

俺とルルの結婚式も神父をちょっと練習したとか言って見事にやり切っていた。


「よくザンネが引き受けたな」

「ツネノリの話をしたら快く引き受けてくれた。ザンネは教え方も上手かったよ」


俺はツネノリにザンネを会わせた事は一度あったはずだが、小さくて覚えていないだろう。

ザンネの説明をする。


そう言えば、初めて会ったツネノリがザンネに対してイヤに懐いて居た事を思い出した。


「それで…俺は二刀流が使えた?」

「天才にちょっと教わって使えるなんてツネノリも天才なんだね!!」

驚くツネノリに千歳がはしゃいで褒める。


「いや、ちょっとじゃないな。東?」

「ああ、10年かかったよ」


簡単に言ってくれる。

その事が俺を余計にイラつかせる。


「10年?」

千歳が驚いて東とツネノリを交互に見る。


「ああ、最後まで修行が完了したら散歩に連れ出した時のツネノリに戻したからね。本人は何も覚えていないよ」

「やはりか…、でも夢で見たと言っていたぞ」


「それは身体が覚えているんだよ」


身体の記憶か…

それにしても俺のツネノリが東に連れまわされて散々修行をさせられていたのかと思うと腹立たしい。


「先にこっちを聞く。それで?ルルはなんて?」

「ああ、さっきのツネノリの戦いを見せながら説明をしたら笑って喜んでいた」


だろうな…


「母さん…」

ツネノリは若干のショックを受けている。


「だが、こうも言っていた「ツネノリの為を思えば普通には出来ない経験をさせて貰って、私達の元から出て行った時の姿で戻して貰えたのだから問題は無い。だが私とツネツギの親心からすれば許しがたいものがある。だが私は全てをツネツギに任せる。ツネツギが怒って殴りかかってきたら甘んじて受けよ」とね」


ルルらしい回答だ。


「母さん…」

今度は少しホッとした言い方。

ツネノリも一応落ち着いたのだろう。


「次だ、修行は全部で何年だ?」

「え?」

ツネノリが慌てて俺を見る。


「ツネノリ、東がちょっとで済ますわけがない。コイツは徹底的にお前を仕込んだはずだ」

「嘘でしょ?」

それには千歳がドン引きしていた。


「…40年だよ。このまま身体が思い出さない事もあるから誰から何の指南を受けたかは秘密にしておくよ」

「お前…、ルルには言ったのか?」


「ああ、今と同じことを言った。そうしたらルルも「ツネノリが目覚めればそれはそれ、目覚めなければそれもそれ」と言っていたよ」


何かこうまだモヤモヤする。

正直東を許せない。

だが、仕事上の事もある。まだこのセカンドガーデンでの事もある。

俺は怒るに怒れない空気になっていた。


「サイテー!!」

そう言って立ち上がった千歳が東に思い切りビンタをかました。


「ツネノリの為?才能を引き出したい?そんなの知らない!!」

そう言って怒った千歳はもう一発東を殴る。


千歳、そいつ…神様…

俺は千歳の剣幕に引いてしまい何も言えなくなるし怒りの気持ちは何処かに行ってしまっている。


「お父さんやツネノリのお母さんの気持ちとか考えなかったの?」

千歳は言うたびに東の頬をビンタする。


「ツネノリの気持ちは考えなかったの?元通りにするからそれでいい?内緒にしておけばそれでいい?そんな考えサイテー!!」


「千歳…もういい」

ツネノリがいたたまれなくなって千歳を止める。


「ツネノリは黙って!良くない!!ツネノリが良くても私は良くない!!」

もう、ツネノリの為と言うより千歳の腹の虫が収まらない話になっている。

そして千歳は泣いている。


「まずツネノリにちゃんと謝って!!

そして心から反省して!!

私はジョマが正しいなんて思っていないし、間違っているとも思う!でもジョマもジョマのルールで神様してて私に立ち直る機会もくれたし、お父さん達と和解するチャンスも、ツネノリと仲良くなる機会もくれた!」


…北海のやり方?

そうだ…確かに過激な方法だったが、こんな事が無ければツネノリの秘密も明らかにならなかった。

何だ?北海は俺達憎さや、ただの嫌がらせ行為でやっているわけじゃないのか?


「ジョマには最後に謝って貰う!でもその前に東さんはツネノリに謝って。そして父さんにも謝って!父さんだって怒りたいのに立場とか世界の事とかあって我慢しているんだからね!!それでちゃんと私に怒られた事まで全部含めてツネノリのお母さんにもちゃんと報告して!!それで謝って!!」



「千歳…、君の言う通りだ」

東はそう言うとキチンと立ち上がってツネノリに頭を下げて謝った。


「東さん…」

「ツネノリ、全て千歳の言う通りだ。君の可能性をという言葉で僕はとても申し訳ない事をした。すまない。」


「東さん…、確かに今聞くととても怖い話ですが、それでもそれが無ければ俺達はさっき生き残る事が出来なかったはずです。だから俺はもうこの件で東さんに何かいう事はしません」

そう言ってツネノリは真っ直ぐ東を見て「顔を上げてください」と言い、涙目で東を睨みつけている千歳に「ありがとう」と言って頭を撫でている。


「ツネツギ、僕は申し訳ない事をしてしまっていた」

東は、次は俺に謝ってきた。


「もういい。俺も一発殴った。それ以上に千歳が殴った。だからもういい。だがこれ以上隠し事はするな」

「ああ、そうするよ」


「千歳」

俺は千歳に声をかける。


「何?」

「まず、ツネノリの為に怒ってくれてありがとう」


「うん…」

千歳はツネノリから離れて俺を見る。


「千歳、だがお前は東を何べんも殴ったんだ。その事について謝りなさい」

「はい」


そして千歳は東の方を見て「ごめんなさい」とキチンと謝った。

東は「千歳のお陰で目が覚めた。僕は間違った事をしていたんだ。教えてくれてありがとう」と言う。



「ツネツギ…、僕はルルの所に行ってくる。後は家族水入らずで過ごしてくれ」

「ああ、そうするよ」


「食事は保護した200人のプレイヤーがログアウト後に店で食べたりするから今日はどこも満員だ。諦めてホテルのディナーを食べてくれ」

「そうだな、ここの食事は美味しいから子供たちも喜ぶ」


「じゃあみんな。また」

そう言って東は消える。


「あー!!」と千歳が大騒ぎをする。


「どうした?」

「東さんにツネノリの戦っている映像貰い忘れた。ツネノリ見たいでしょ?」


ああ、確かに…ツネノリも気になるだろうな。


「そうだね。千歳…」と言って現れた東はテーブルに映像を置いて帰って行った。

「東さん、何でも見ているし聞いていて、神様なんだね」と千歳は驚いていた。

その神様をベシベシと殴ったのはお前だよとは思ったけど言わなかった。


俺とツネノリは風呂に入って汗を流してきた。

ツネノリの身体に目立った外傷が無くて一安心したが、風呂から出たら千歳に練習台わりに回復の人工アーティファクトを使わせてみようと思った。


その千歳だが、俺達が風呂に入っている間に何べんもツネノリの戦いぶりを見て感動していた。こいつブラコンだったのか?


ツネノリは初めて見たけど初めての気がしないと言って自分の戦いぶりに見入っていて、今度から「二刀流にしてみようかな」と言っていた。


「ああ、ツネノリ。父さんは…止めはしないがな、一言だけ言っておく。多分東が用意したお前の師匠はな…剣も使えるし拳も使えると思う

色々試してみなさい」


「うん!わかった!!」

これで明日からポイントアップ期間終了までの目標が出来た。


千歳の方は回復の人工アーティファクトは問題なく使うことが出来た。

ツネノリの傷を治せたことに喜んでいて俺に「私の分も貰ってきて」と言い出した。


3人での食後、俺は2人に了承を得てからゼロガーデンに回復のアーティファクトを貰いに行く事にした。

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