伊加利 千歳の章④人として、私らしく。

第51話 お父さん、ツネノリ…、私に時間を頂戴。

朝、目を覚ますと9時になっていた。

横を見るとツネノリも起きたところだった。


「おはようツネノリ」

「おはよう千歳」


「お、2人とも起きたか?」

父さんは私たちが起きたのを見にきた。


「おはよう父さん」

「お父さん、おはよう」

「ああ、おはよう2人とも」


父さんの顔はどこか晴々していた。

一瞬、私はさっきまで父さんの胸で泣いた事が夢だったのではないかと思い聞いてしまった。


「お父さん?夜中の事は夢?」

「いや、現実さ」


良かった…、じゃあ私はキチンと謝れたんだ。

そう思ったら嬉しくなった。


私を見たツネノリが状況を理解できないと言った顔で私を見る。


「昨日、うなされていたのをあやして貰ってそのまま寝た話」

まあ嘘ではない。


「ねえ、ツネノリ…、お父さんて凄いね」

私は思ったままを口にしてしまう。

普段なら恥ずかしくて言えないのだが、昨日のおかげか私は素直にそう言った。

ツネノリは嬉しそうな顔をする。


「そうだろ?千歳にもやっと伝わったか」

満足そうにそう言うとサッと身支度を済ませてしまう。

私は一応女の子なので、身支度に時間がかかってしまったが2人とも嫌な顔をしないで待ってくれていた。


食後、外に出ると人だかりが出来ていた。

私達は人だかりを見に行く。


それは昨日の4人組が傷だらけの姿で縛り上げられていて、周りを沢山のプレイヤーが囲んでいた。


「え?何してるの?」

気持ち悪い…

とにかくそれしか思えない。


「千歳…」

父さんが心配そうに私を呼ぶ。

でも私の心は一つのことで一杯になっていた。


「お父さん、ツネノリ…、私に時間を頂戴」

そして私は前に進む。

目の前には昨日私が殺してしまった男の人がいた。


男の人はログアウト中なのだろう。

何も言わず目には光もない。


私はそれでも謝りたい。

謝らねばと思った。


その時、男の人の目が変わった。

自分の現状を確認する為にログインをしてきたのだ。


「…お前…昨日の…」

男の人は私に気付くと馬鹿にしたような目で私を見る。


「何だよ、文句言いにきたのかよ?」

「違う」


「じゃあ何だよ?笑いにか、俺はそもそもお前の事は殺せなかっただろ?」

「違う」


「折角ログインしても縛り上げられたままで、しかも目の前には昨日俺を殺した女…、最悪の気分だ」


…男の人の悪態は止まらない。

それでも私の考えは変わらなかった。


私は深々と頭を下げる。


「あ?」

驚く男、周りからのどよめき。


「ごめんなさい。あの時は必死だったの。

殺したくなんてなかったの。

だからごめんなさい」


私は謝った。

自己満足かも知れないけど謝った。


「なんだそれ?ここはガーデンだぞ?

死んでも生き返る。

だから俺たちだってコイツらを殺したんだ。

だから謝んな」


「そんな事は関係ない。

私があなたに謝りたかっただけ。

ごめんなさい」

私はもう一度深く頭を下げて謝る。


「謝んな!!」

男は突然キレだす。


「千歳、行こう」

ツネノリが私を迎えに来る。


「おい!お前は謝らないのか?」

男はツネノリに絡む。


「お前は俺以外の3人を斬り殺したろ?謝んないのかよ!!

まあ謝っても許してなんかやらないけどな!!」


「黙れ」

ツネノリは光の剣を出すと男の眼前に突き出す。


「千歳は優しいからキチンと謝ったんだ。

俺にはお前が人の言葉を話す魔物にしか見えない。

だから謝ることもなければ許す事もない。

これ以上何かを言うなら切る」


そう言うツネノリの圧に圧倒されたのだろう。

男は何も言えずにうな垂れる。


「千歳、ツネノリ…」

父さんが迎えに来てくれる。


「東」


父さんがそう言うと私たちの足元には召喚の光が出来ていた。

次の瞬間、私達は初めて見る街に飛ばされていた。


「ここはセンドウの街。

近くにセンドウの洞窟と言う場所がある。

ここではランク8までの魔物が出る。

今日はここでランク上げをしよう。

先にスタッフカウンターと宿屋、食事処の説明をしておく。

着いてきてくれ」

私が聞くより早く父さんがそう言って歩き出す。


スタッフカウンターに挨拶を済ませると父さんはセンドウの状況を聞く。

センドウもあまりな事とVR枠の初心者が1人来ている事を教えてくれた。


宿屋と食事処の説明の後、父さんは私のところに来て「千歳は凄いな。自分のルールに則ってキチンと謝った。偉いぞ」と声をかけてくれた。


ツネノリは「危ないからあまりああ言うのは…」と心配してくれた。


街外れに来たあたりで聞き覚えのある声で放送が聞こえた。


「もしもーし、運営のジョマでーす。

昨日からごめんなさい。

運営にかなりの苦情が届いているの。

だからプレイヤーがプレイヤーを殺した際のポイントは無しにします。

ただ少し処理に時間がかかるから、ガーデンの中での時間で次の24時まで待っていてね。

それまでは各自良心に従ってプレイヤー殺しなんてやめてくださいねー」


その後もジョマのアナウンスは何回も入る。


「最悪だ…」

父さんが憎らしそうに言う。


「何が良心に従ってだ…、暗にランクアップしたいなら今が最後のチャンスだと言ったに過ぎないぞ」

「父さん…」


「大体、そんな調整はアイツらなら秒で修正が可能だ。

普通なら「今からポイントは入らなくなります」で良いはずだ。

それをわざわざ今日一日の猶予を持たせた。

その意味はなんだ?」


「ツネツギ」

「東!?どうした!」

父さんが空に向かって話し出した。

相手は東さんらしい。


「北海のアナウンスは聞いたね?

その北海から正式に依頼がきた」

「何!?」


「「運営として出来る限りの殺人を止めて欲しい」と言っている」

「ふざけるな!お前達なら一瞬だろう?」


「だが北海は運営としてセカンドに本日中とアナウンスを出してしまったし、運営として僕たちに願い出ている。今更変更も出来なければ周りを守る事も致し方ない」


「くそっ、それで!?どうする?」

父さんの憤りが見ていてよくわかる。


「済まないが片っ端から君達を現場に飛ばす。それで被害者を守るんだ」

「殺し合いをしていたらどうすんだよ?」


「まずは未だに殺した事も殺された事も無い者と殺された事しか無い者を優先で守る。

外敵を排除したら都度センターシティに飛ばして保護をする。

殺し合いの最中の連中には喧嘩両成敗だ。

倒してしまってくれ。

倒した先から新しく作った「マキア」と言う牢獄に飛ばすよ」


「マキア?牢獄?」

「ああ、僕の世界には牢獄なんて不要だが、仕方ないから用意したんだ。

今はまだ魔物は配置していないから好きなだけそこで殺し合って貰おう。

脱獄してもセンターシティまで20日は歩く場所だ」


「わかった」

「東さん、待って!」


「千歳?」

「殺し合いの人達にも戦いたくない人だっているかも知れない!

何か頭の上に目印とか出せないかな?」

私は無駄な戦いはとにかく止めたい。


「良い考えだ千歳。

それでは頭の上にこのイベント中のみ光る球を表示するよ。

勿論君達だけにしか見えない。

オレンジ色なら敵意有り、倒すべき者で…。

青色なら敵意無し、守るべき者だ」

良かった、これなら何とかなる。


「それでは早速で済まないが、VR枠のプレイヤーがセンドウの洞窟にいるから瞬間移動をしてもらう。

現れてすぐに戦鬪になるかも知れない。

覚悟してくれ」


「ツネノリ?」

「いいよ父さん」


「千歳?」

「うん…、頑張る」


「東、やってくれ」

「わかった」


そして私たちの足元には召喚の光が現れる。

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