第50話 こんな事が許せるわけがないよな。

とりあえず千歳が起きなければ話にならない。

ツネノリにはひとまず寝るように言う。


「でも父さん」

「大丈夫だ、今日は少なくとも明日の昼前までは居られるはずだ。

お前はよくやってくれた。全てが嬉しい反面…息子が成長しすぎて寂しさもある。

今くらい俺の子供に戻ってくれないか?」


俺はそう言ってツネノリを見て微笑む。

ツネノリは嬉しそうな顔をした後「俺、もう17なんだけどな?」と言ったので「何歳になっても俺の息子だ」と言うとわかったよ父さんと言ってベッドに入る。

疲れていたのだろう、あっという間にツネノリは寝てしまった。


「東」

「わかってる。ツネノリはそっちの9時まで眠らせてあげよう」


「頼む、後はロケーションと佐藤君の話だ」

「ロケーションか…何処にする?」


「ここから離れていればいい。少なくともこのポイントアップの間はここの連中に会わないようにしたい。千歳が思い出す」

「ああ、わかった。センドウの街にしよう。あそこならランク8までの魔物も出るしここからは5日かかる」


「センドウか…洞窟で修行だな。それで佐藤君だ」

「地球の神に頼んで外の世界でもそれとなく監視をするよ。

おかしな動きを見せたらその瞬間に旅に出て貰う」


「そうしてくれ」

「後はログイン先もこのままフナシで大丈夫だと思う」


「ツネツギ、君は一連の行動に関してどう思う?」

「北海だろ…、周到な女だ。周りを巻き込んで逃げ道を塞ぐ…

多分、セカンドを滅茶苦茶にする。

セカンドのプレイヤーをサードに引っ張る。

ツネノリと千歳を滅茶苦茶にする

全部今の所計画通りに運んでいるだろうな」


「僕はあの女が正直怖い…」そう東が言ったところで「いやぁぁぁっ!!」と叫び声をあげて千歳が飛び起きた。


「千歳!」

「え!?」


俺はそうして千歳に駆け寄って抱きしめる。

こうして娘を抱きしめるなんて小学生の頃…10歳くらいまでだ。

その後は気づけば距離を置かれたし、去年のアレコレからこの一年は会話すらまともになかった。


「お父…さん?」

「ああ、遅くなった。済まない。

怖い思いをしたんだな。全部聞いた。

安心しろ俺がここに居る」


俺はいっぺんに畳みかけるように千歳を安心させる。


「お父さん、ツネノリと同じ暖かさで一瞬わかんなかった」

「そうか?」


「でもお父さんの方がちょっとおじさん臭いかも」

「そうか…」


そうか…、何か加齢臭に効く道具を買わなきゃな…

セカンドから日本に戻ったらドラッグストア行かなきゃ。

いや、東に臭いを消させるか?

そんな事を一瞬考えたが千歳は止まらない。


「私…人を殺しちゃったよ」

「ああ、知っている」


「ごめんね」

「何で謝る?」

千歳は泣いていた。


「娘が人殺しって嫌でしょ?」

「お前がここで命を落とす方が嫌だから何とも思わん。それよりもあの新人君を守ったのだろう?」


「ああ、佐藤?」

「感謝しながら帰って行ったぞ」


「あいつ、学校のクラスメイトなんだ」

「ああ、さっき知った。東の指示でフィクションを混ぜながら状況の説明をして仲間に引き入れた」


「え、あいつ弱いよ」

「ああ、それでもこの状況で何もしないのは色々とまずいって話だ」


「そうか」

そう言いながら千歳はまだ泣いている。


「お父さん」

「何だ?」


「ツネノリって優しいんだよ。私が責任を感じないようにアーティファクト砲でトドメを刺してくれたの」

「ああ」


「力も凄くて、私をお姫様抱っこしたまま下山してくれたの」

「ああ」


「何か、辛くて怖かったのに抱っこして貰っていたら暖かくて寝ちゃったんだ」

「ああ」


「あんなに格好いいお兄さんが居るなら教えてくれれば良かったのに」

「そうか」


千歳がダラダラと思った事を口にする。

俺は千歳の父親だから千歳の考えがわかる。


「千歳、何が怖い?何が嫌だった?思っている事を溜め込んでしまった事を言ってみなさい」

「え?」


「千歳は本当に言いたいことは我慢するからな。

だから言っていいんだぞ。

ツネノリの事も1年間もよく我慢したな。

別にすぐ言ってくれて良かったんだぞ」


みるみる千歳の目に涙が溜まる。

「お父さん!!お父さん!!お父さん!!!」

千歳は何回も俺を呼びながら力いっぱいに抱きしめてくる。


「私ね、血を見るのも嫌なの!!

だから拳にしたのに殴ったら人が死んじゃったの!!

殺したくなかったの。本当なら謝りたいの!

それなのにあの人に一晩中殺されていた人たちが仕返しを始めちゃったの。

悲鳴が聞こえたのに助けられなかったの」


そうか…助けたいのに助けられない。殺したくないのに殺してしまった。

「ああ、わかる。お前は優しくて正義感が強い…芯の強い子だ、こんな事が許せるわけがないよな。気持ち悪いよな」


「うん、うん!そうなの!!

殺しちゃった人が苦しんだ時の顔が頭から離れないの!

他にもポイントが勿体ないからって仲間に殺してくれって言った人が居たの!

その人、頭をこん棒で殴られてグチャグチャになったのに殴った方も平気で他の仲間と談笑をしてるの!!」


「お父さんと東が目指した世界はこんな世界じゃない。それはわかってくれ」

「わかる!!私わかるよ!!!今のこの世界がおかしくなってるだけだよね!!」


「そうだ、そうだよ千歳」

俺も力を入れて千歳を抱きしめる。

もう千歳は声にならない声で泣きじゃくっている。


俺はこの状況でこれ以上のことが出来ない事に怒りを覚えた。

魔女め、絶対に目にもの見せてやる。


「ねえ」

少しして泣き止んだ千歳が俺の膝の中で話しかけてくる。


「何だ?」

「ツネノリって…あ、2人で呼び方を話したの。2人の時はツネノリで他の人が居る時は兄さんって呼ぶつもり。ツネノリって一度寝ると中々起きないタイプ?」


ああ、千歳は大泣きしたのにツネノリが起きなかったことを気にしたのか。


「今は東の力で寝かしている。明日の朝まで起きないさ」

「そっか、こうやっている所を見られるのはちょっと恥ずかしいし、ヤキモチやかれちゃうかもしれないしね。まだ起きないならさ…、お父さんもう少しこのままでもいい?」

何か急に子供返りしていないか?

まあ、俺もここ数年は千歳との距離に悩まされたからこんな日があってもいいかもな。


「ああ、いいぞ。ここの所ずっと一緒に居られなかったからな」

「ふふふ、お父さーん」

そうして千歳は俺の胸に頭をつけてゆらゆらと揺れる。

しばらくするとまた質問をし始めた。


「ねえ、お父さんは私が無視してる時辛かった?」

「当たり前だろ」


「母さんには相談したの?」

「いや、しなかった」


「向こうの奥さんには?」

「しないさ」


「へぇ、お父さんって凄いね。」

「嫁さん達の方が余程凄い。俺が何も言わなくても顔を見て察してくれていた」


「へぇ、凄いね。」

「ああ」


「ツネノリのお母さんにも会ってみたいな」

「会うか?これが終わったら一度行ってみるか?ルルも喜ぶぞ」


「うん、行ってみたい」



そしてまたしばらく揺れる。


「お父さーん」

「なんだ?」


「何でお母さん達に相談しなかったの?」

「俺と千歳の問題だろ?2人で解決しないといけないと思ったんだ」


「そっか」

「ああ、そうだ」


そう言うと千歳が向きを変えて思い切り抱きしめてくる。


「お父さん」

「何だ?」


「…………ごめんなさい」


………

………………

おっと、これはまずい。

一瞬泣きそうになった。

そしてかなり嬉しい。



「お父さん?」

「お互い様だ。変な心配をかけさせて済まなかった。許してくれ」


親だろうが子供だろうが関係ない。

俺はキチンと謝る時は謝る。


「ありがとう」

そう言って千歳は鼻をすする。

泣いているようだ。


「俺の方こそありがとう」


そうして気が済んだのか千歳はそのまま寝た。

千歳をベッドに戻して窓から外を見ると綺麗な朝日が見えた。


東、この世界は綺麗だ。

何故北海はこの世界を滅茶苦茶にしたいのだろう?

もしかしたら俺達はそこにたどり着かないと勝てないのかもしれないな。

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