第52話 ジョマは何をしてくれるの?

光が晴れると目の前に必死に逃げる女の人が居た。

「いやっ!もういやっ!!」

女の人は半分錯乱している。


頭の上の球は青色、この人は守るべき人。


父さんが身を乗り出して女の人の肩を抱く。

「運営だ!助けに来た。落ち着け!」


「う…運…営…?」

「ああ…、君はVR枠のプレイヤーだな?助けに来た。俺たちも君と同じVRだ」

父さんがそう言うと女の人は涙を浮かべて座り込む。


「怖かった…、ずっと追いかけ回されて殺され続けて…。頭がおかしくなるかと思った。

ログアウトして戻ってきても殺され続けていた事もあった…の…」

「済まない。本当に済まない。だがもう大丈夫だ」

父さんはそう言って女の人を安心させる。


「今も追われているのか?」

「多分…、ずっと逃げてたからよくわからない…。

この世界には何が起きているの?」


「ツネノリ、お前は彼女が走ってきた方を見て襲撃に備えろ。

千歳、お前は付近の魔物に注意するんだ」

父さんは私に魔物を任せてくれて、人間はツネノリに任せてくれる。


「父さん、わかったよ。

千歳?やれる?」


「うん、魔物なら平気」


私達が付近を見ている時に父さんは佐藤にしたと言う、ガーデンでは保守派と改革派の戦いになっていて、改革派の失態を埋めるために私達3人が保守派として各地のプレイヤーを守っている話をしていた。


少しするとツネノリの先から話し声が聞こえた。

3人組の男で頭の球はオレンジ色だった。

「あ、居た〜。もう〜逃げちゃってさ〜」

「今日までしかポイント貰えないんだから死んでよ〜」

「撃つよ〜」

それぞれがそんな事を言いながらツネノリに向かって行く。

1人のプレイヤーは武器が銃だったので遠くからツネノリを狙う。

ツネノリは盾を張りながら相手を睨む。


「東さん!」

ツネノリが東さんを呼ぶ。

そして何かを話した後、「わかりました!やらして貰います!!」と叫ぶと右手で盾を張りながら左手を前に出す。


まさか…


「【アーティファクト】!」

そのまさかでツネノリの腕からはアーティファクト砲が発射されて今回は3人にクリーンヒットをしていた。


1人は直撃で死んだようだったが、残り2人は足腰が立たない感じで蹲っている。

ツネノリは盾から光の拳に変えて思い切り殴りつける。


あっという間に動かなくなった3人は東さんの手でマキアの牢獄に飛ばされていた。


助かった女の人は「ありがとうございます」と泣きながら私達に感謝をしてくれた。

落ち着いた所で父さんが「今からセンターシティで君を保護します。飛んだ先のスタッフの指示に従って、今日は美味しいものを食べてゆっくりとセンターシティを楽しんでください」と声をかけてあげていた。


私はツネノリに気になった事を聞いた。

「東さんと何を話したの?」

「ああ、アーティファクト砲を撃ちたいけど洞窟は崩落しますか?って聞いたんだ」


「それで?崩落しないって?」

「崩落しても俺達は守るって言ってくれた」


おいぃぃぃ…、神様ぁぁぁぁっ…

それでいいんですか?


「いいんだよ、千歳。

洞窟はすぐに直せるしね」

「え?え?聞こえてた?」


「ああ、聞こえていたよ」

東さん…、本当に神様なんだよなぁとしみじみ思った。


「次だ、東!」

「次はサッガサの森だ」


そして私達はサッガサの森に来ていた。

東さんの話だと、森の中には6人の保護対象が居て、敵はかなり居ると言っていた。


「俺は1人で動く。

千歳とツネノリはペアで動け。

東!見ているよな?全員のナビゲートを頼む」

そう父さんが言うと走って行ってしまった。


「千歳」

ツネノリが私を呼ぶ。


「千歳は保護対象を守る事だけ考えるんだ。倒す事は俺がやる」

「ツネノリ…」


私達は森の奥に進む。

手には光の盾を出し続けている。

そもそも、この光の盾にしても思う所がある。


「ねえツネノリ?」

「なんだ?」


「本当にこの盾って出していると剣が出せないのかな?」

「なに?」


「何か違う気がするんだよね。

モヤモヤすると言うか、気持ち悪いと言うか…

こう、盾を小ぶりにして剣を短めにするとか…

【アーティファクト】」


なんとなくだが違和感はあった。

父さんの剣と盾を見ていてもそうだ。

その思いから今試してみた。


すると小ぶりの盾と剣が同時に出せた。


「ほら出た」

「なんだと!?」

ツネノリは驚いている。


「千歳は凄いね。ツネツギすらたどり着かなかった「勇者の腕輪」の深い部分にたどり着いたね」

東さんの声が聞こえてきた。


「どう言う事ですか?」

「「勇者の腕輪」は光の流量が成長度によって決まっているだけで、別に剣を出すと盾が出せないとかそんな事では無いんだ。

まあ使い手が気付けばそれで良し、下手に言っても怪我の元にしかならないから僕からは言わないんだけどね。

だから千歳は拳が作れただろ?」


成る程…

後で父さんに自慢しよう。

そう思って居たら東さんから敵が近いと言われたので気を引き締める。


茂みの向こうに2人の保護対象が4人の男女から攻撃を受けていた。


「必死に逃げないで死んでよ」

「そうそう、そうしたら俺達は交互に殺し合って効率的にポイントを集めるからさ」

「何だったら最後に俺たちを殺させてあげるよ。そしたら皆ハッピーだろ?な?」


何がハッピーだ気持ち悪い!

効率的に死ぬとか殺すとか気持ち悪い!!

私は光の拳を作って相手を睨む。


だが次の瞬間…、あの殺してしまった男の顔が思い浮かんできてしまい身体が震えてしまった。


「あれ?」

「千歳?平気か?無理はするな…、お前は保護対象を守ってくれればそれでいい。

4人如きに俺はやられない」


ツネノリはそう言ってさっきの私みたいに光の剣と盾を出す。


「やめるんだツネノリ。

君なら出来るかも知れないがここでバトルスタイルを変えるのは良くない。

怪我の元になる。

今は今まで通りの戦い方をしなさい」

東さんがツネノリを制止する。

ツネノリは言われた通り、いつもの光の剣を出して身構える。


そしてあっという間に4人の男女を斬り殺す。

4人がマキアの牢獄に飛ばされたのを見てからツネノリがこっちに戻ってきて2人に「もう大丈夫」と話しかけていた。

保護対象はカップルだったようで男の人が彼女を守れないで情けないと言っていたのをツネノリが「これから鍛えればいいんです」と落ち着かせてからセンターシティに送られた。


「ツネツギが4人保護して10人をマキアに送ったよ」

東さんがそう教えてくれる。


時間はかかるけど、この調子で行けばみんなを助けられる。

私がそう思っていた時、信じられない声が聞こえてきた。


「アハハハ、東ったらだらしない」

「ジョマ!?」


「はぁい、千歳様。元気?昨日はちょっと過激な目に遭ったから今は落ち込んでるかな?そういう時に東とかそこのお兄様とかお父様ってすぐに安静な所で落ち着かせようとするでしょ?男って駄目よね~」

「何を言っているの?」


「ああ、今は良いの。こっちの話。

それよりもだらしないのは東よね。今セカンドで守らなきゃいけないプレイヤー、千歳様達が保護している誰も殺していなかったり誰にも殺されていなかったりするプレイヤーはざっと200人居るの。このペースで守り切れると思っているのかしらね?」


「200人?」

「ええ、そうよ。

東ってば失敗した時とか考えて総数も言っていないのね。本当ダメな男」


そうか、仮に失敗しても総数を知らなければ東さんは十分に成功だと言ってくれるのか。



「千歳様、私ね…東のそういう所が嫌いなのよ」

「そうなの?」



「ええ、情報を小出しにすると言うか相手を無駄に気遣うって言うか…好きじゃないのよね」


「それで、ジョマは何をしてくれるの?」

「アハハハ、千歳様も段々と良い感じになってくれたわね。

私がしてあげるのは2つよ。

1つは千歳様が元気になれるようなショック療法。

もう1つはうまく行けば全員を守れるようにしてあげる」


そう言うと私の足元に召喚の光が出てきた。


「これはジョマ?東さん?」

「私よ、お兄様とお父様は先に飛ばしてあるからそこで合流してね」

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