第2話 そんな人間素晴らしくも何ともないよ!!
帰宅するとお母さんはお昼ご飯の支度をしてくれていた。
伊加利 千明、私のお母さん。
お母さんとアイツは職場結婚でお母さんがアイツに惚れ込んで交際と結婚を申し込んだと聞いた時には驚いた。
何と言うか、お母さんの方がモテそうでアイツは普通なのだ。
お母さんは特別非常勤と言うよくわからない立場で会社に籍は残っている。
毎月少額だがお給料も支払われていて私が学校に行っている間にたまに仕事に行くと言っていた。
何をしているのかは、これまた開発上の秘密と言うことで教えてもらえなかった。
「千歳、お母さん…今日はお仕事に行かなきゃいけない日なの、午後2時間くらい家を空けるから」
「うん、おっけー、気にしないで。宿題の残りでもやっておくよ」
お母さんの作ってくれた冷やし中華を食べながらそんな会話をする。
「ねえ千歳」
「何?」
「お父さんの事、何か誤解していないかしら?」
突然お母さんがそんな事を聞き始めた。
「去年の夏頃からよね?お父さんの事をアイツって呼ぶようになったの…、ただの反抗期には思えないのよ」
「……」
お母さんはあの事を知ったら何て思うんだろう?
ショックで寝込むかな?
離婚を考えるかな?
今の生活はどうなるんだろう?
私、高校生になれるのかな?
そんな事ばかりを考えてしまう。
「お父さんはとても素晴らしい人なのよ?いつも私達のことを考えてくれるし、仕事では世界中の人の事を考えてくれている」
「…っ!」
そんな事ない!
素晴らしくなんてない!
世界中?家族?
そんな事を考えている奴が浮気なんかしない!
外に子供を…それも私よりも大きな子供を作ったりなんてしない!!
「…母さんは…」
「何?千歳?」
「お母さんは何もわかってないのよ!
アイツがどれだけの事をしているのか!!」
私は苛立ちから我慢できずに声を上げた。
「千歳?何を知っているの?」
「アイツには…」
言うべきか?
言ってしまうか?
普段の私ならここで言わない事を選択する。
でも、今日は朝から嫌な事が多すぎた。
今日の私は言ってしまった。
「アイツには私より年上の子供が居るの!!
そんな人間素晴らしくも何ともないよ!!」
沈黙。
言ってしまった。
お母さんはきっと泣いてしまう。
我が家は離婚かも知れない。
それでもいい。
もう私は限界だ。
「…千歳…、あなたツネノリくんの事を知ったのね!?どうやって!?」
!!?
え?
ツネノリ?
誰それ?
お母さんはアイツが外で子供を作った事を知っていたの?
「お母さん?お母さんこそアイツが外に子供を作っていた事を知っているの?」
私は思わずショックで口走ってしまった。
「千歳!お父さんの事をそんな言い方をしないの!!」
お母さんが見た事ない顔で私を怒鳴りつける。
「お母さん…、なんで?アイツの肩を持つの?アイツはお母さんと私を裏切っていたんじゃないの?」
私は我慢の限界だ。
「千歳!違うのよ!お父さんは私達を裏切ってない!」
「どうしてそんな事を言えるの!?」
「私はお父さんの全てを知っていて、交際を申し込んで結婚もしてもらったの!
だからお父さんは裏切っていないわ」
なんと言う事だ、お母さんは知った上でアイツを選んでいた…
この人も、アイツが既に人のものなのに手を出したのか?
なんて不潔なんだろう…
そして…今私の中には新たな怒りが芽生えていた。
「じゃあ、なんで私は何も知らなかったの?」
「それはまだ千歳には難しい話だからお父さんと千歳が高校生になるまで黙っていようって決めていたのよ」
高校生?
中学生と何が違うの?
多少年を取っただけじゃない。
「数年で何が変わるの?意味わかんない!」
私はそう言って部屋に駆け出して篭る。
「千歳!?」
部屋の前でお母さんが私を呼ぶ。
だが返事はしたくなかった。
「返事はしなくていいから聞いて。
今晩、きちんとお父さんと3人で話をしましょう?
その時にお父さんの仕事のことも、ツネノリくんの事も、お母さんがどうしてお父さんと結婚できたのかを説明するから」
「うるさい!!!」
私は聞きたくなくて怒鳴った。
今や両親は不潔だと感じていた。
気持ち悪い。
「千歳…」
と言うお母さんの弱々しい声が聞こえた後、しばらくして小さく「行ってきます」と聞こえてドアが閉められ鍵がかかる音が聞こえた。
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