セカンド ガーデン

さんまぐ

伊加利 千歳の章①ログイン。

第1話 あのダメオヤジの事は正直私もわからない。

8月21日

頭にくる。

今日は朝から嫌なことが多い。

夏休みの登校日だったのだが、通学路ではスマホを操作しながら運転の自転車に邪魔だと言われて舌打ちをされたし、途中の公園では子供が泣いているのに無視して談笑を楽しむ母親を見たりした。

そして学校に着くなり私を目の敵にしている同級生が話しかけてきた。

もうその瞬間から嫌な予感がしてそれは見事に的中をする。


「千歳ちゃん、昨日有名なラーメン店で千歳ちゃんのお父さんを見たよ。

なんかお店の人に「簡単でいいから」って頭下げてレシピを聞いててビックリしちゃった。

千歳ちゃんのお父さんってあの「ガーデン」を販売してるゲーム会社に勤めてるんだよね?

何でラーメン屋さんで頭下げてるの?」

と言って話しかけてきた。


あのダメオヤジの事は正直私もわからない。

肩書きは超有名ゲーム「ガーデン」の開発部で副部長の肩書を持っている。

あまり親の金銭事情には踏み込みたくないので聞かないが、有名ゲームを販売している会社の副部長さんと言うおかげでウチの家計はそこそこ潤っているようだった。


だが何をしているのかわからない。

その一言に尽きる。

ゲーム会社のイメージとしてはソフトを作る人売る人等に分かれるとは思うのだが、ウチのダメオヤジはゲームを作るはずの開発部なのに日に数時間は外に出てラーメン屋のレシピを聞いていたり、有名なスイーツ店でレシピを聞いたり、有名家具屋に家具の寸法を記したデータが欲しいと頭を下げて回っているらしい。

意味がわからない。


だが、私も14歳。

そんな事でいちいち父親を「ダメオヤジ」等と呼んだりはしない。

ダメオヤジと呼ぶ理由があるのだ。


去年の夏にたまたまリビングでダメオヤジの後ろを通った時にスマホに届いていた一枚の写真を見てしまった。


その写真は何処か外国だと思う。

山の中で、ニュースで見たようなどこかの国の民族衣装を着た男の子がポーズを取っている一枚の写真。


男の子は私より年上の高校生か大学生くらいに見える。

ただそれだけで驚いたりはしない。


その男の子はダメオヤジに似ていたのだ。


え?浮気してるの?

こんなに大きな子供がいるの?


そう一瞬思ってしまった。

私もすぐに疑う程子供ではないが、伊加利家の親戚付き合いは希薄で、叔母さんの御代さんは39歳で子供はまだ6歳だ。

私は御代さん以外の親戚をロクに見たことがない。

どうやっても親戚の子供という線は希望的観測が強過ぎる。


結局、私は自身の頭の中に浮かんできた「父親は浮気をしていて他所に子供がいる説」を否定できなかったのだ。


それ以来、母さんの前では「アイツ」本人の前でも「ねえ」としか呼ばなくなった。


朝からダメオヤジの話題を振られて苛立った私はクラスメイトには「仕事で使うみたいよ。でも開発段階の秘密だから答えられないんだって」と数年前に聞いた時に教えられたテンプレートの回答でやり過ごす。

多分この子は「父親がラーメン屋さんで頭を下げていた」事で何とか私をみんなの笑い者にしたいのだろう。

だが甘い。

いちいち反応なんてしてやるか。


私は母さんと私を裏切ったダメオヤジを許す気はない。


登校日に朝からの下らない会話。

本当に嫌になる。

帰ってから何かイライラを吹き飛ばすモノを考えないとダメだと思った。

夏休みも残り10日。

何とか笑顔で終わらせたい。

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