第3話 普段なら本当にやらないのだ。
お母さんが出かけた後、リビングに行ってテレビを見ても、録画を見てもパソコンで動画を見ても5分もしないで嫌になったし気分は少しも晴れなかった。
頭の中にはずっと汚らしい親と私の兄かも知れない男の事が住み着いていた。
「兄か…」
同級生が歳の離れた兄が優しいと自慢していた事。
その兄を見た別の同級生が恋をしてしまった事なんかを思い出した。
この兄は私の事を知っているのであろうか?
知っていたらきっとダメオヤジの事を不潔で許せないと思っていると思う。
そう思うと、この兄も被害者なのだろう。
あの去年見た写真を思い出す。
よくよく考えてみると不思議な写真だった。
景色も服もあまり見た事無いものだったが男の子は紫色の髪で目も紫色に見えた。
ピンポーン
家のチャイムが鳴る。
一瞬煩わしさから居留守を使う事も考えた。
だが、再配達を頼むのも気が引けるしこれ幸いとお母さんから話しかけられるのも困るので受け取ることにした。
荷物は結構な大きさで宛先は私だった。
「何この荷物?」
中を見たらVRの端末が入っている。
何でこんな物が?
更に中には1枚の紙が入っていた。
「モニターご当選おめでとうございます」
「この度アンケートにお応えいただきましてありがとうございました。
厳正なる審査の結果、伊加利千歳様がご当選されましたので、「セカンドガーデン」のVR端末をお送りさせて頂きます」
何これ?
私アンケートになんて答えてない。
普段ならこう言うものは相手に電話をして送り返すのだが、相手はダメオヤジが関わっている「ガーデン」なのでVR端末の箱を開けてみる事にした。
「仮に問題が発生してもあの不潔夫婦がなんとかするでしょ?」
中を見ていくとログインIDとパスワードとメモ。
「モニター版なので基本設定は必要御座いません。
モニター版の為、当初アンケートにお答え頂いた通り8月21日の午後2時~3時の間にログインが可能な方に限定をさせて頂きました。
必ず指定時間にログインをお済ませになってください」
そしてログインしなかった場合には虚偽の申告をしたとして損害賠償請求される事と、VR端末の代金を支払わねばならない事が書いてあった。
「何よこれ、今日の3時がタイムリミットなのに今届くの?今は1時半よ…、これ再配達してたらアウトじゃない。
これ、ログインしなかったって言ってお金請求する詐欺かも…」
普段なら本当にやらないのだ。
だが、ムシャクシャしている。
もしこれで高額請求が家に届いても困るのは私よりもアイツらだ。
そう思った私はVR端末を手に取っていた。
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