ハーレムエンド?(1)
現在、僕に熱烈に言い寄ってくる5人の女性(うち1名は妹)と1人の男子がいる。
1人の男子は省くとしても、同時に5人の女性に言い寄られるなんて、まさに奇跡だ。ファンタジーとしか思えない。
そして、その5人のうちの4人が、滅多にお目にかかれないランクの絶世の美女なのだ(残りの1名はゴリラ顔)。
そして、彼女(&彼)らは、僕の誕生日に一同に介する事になった。
まさにハーレムである。ハーレム……それは男であれば、一度ぐらいは夢みるものではないだろうか。可愛い女性たちが、自分を取り合って、あーだこーだと喧嘩する様子を生で見ることを……。アニメや漫画、ラノベの主人公のように、苦笑いして『あ、あはは。困っちゃったなあー』なんて言ってみたくなるものではないだろうか。
夢のハーレム。
正直にいうと、僕だってそれを夢みていた一人である。消費者としてハーレムもの創作物を楽しんでいた際、主人公が周囲のかわいい女の子たちに、別の女の子と仲良くすることで、焼き餅を焼かれたりした時には、主人公に自分を投影し、『うひゃひゃあーい。うひゃひゃーい』とニヤケていたものだ。
何だかんだでハーレムとは、最高である! 憧れである!
しかし、ハーレムには負の面だって、ある……。
フィクションでの『ハーレムもの』は十中百九、ラストを上手く終わらせる事が出来ないのではないだろうか。ハーレムものは、話を終幕させることがとても難しいジャンルなのだ。ハッピーエンドになった名作は大抵、主人公はライバルの女性たちと別れ、そして物語の最初から登場していたメインヒロインなる女性と結ばれる。ハーレムものは、こうした終わり方が王道であり、僕には無難かつ唯一無二にも思える。
しかし、現在の僕にとってのハッピーエンドは、このハーレムから抜け出すこと……すなわち全員から嫌われることにある。ハーレムの負の面……それは、深淵よりも深い。好意を寄せて欲しくない相手から、好意を寄せられる場合だってあるのだ。そうなるとまるで、地獄のように、苦しい。
ハーレム・ヘル。
僕を慕う6名の誰もが、僕にマイナスの影響を与えてやまず、うち、何名かは僕の生命を脅かすほどである。
はっきりと拒絶の意志を示しているにも関わらず、彼女達は僕への想いを捨てない。これは、まさにストーカーを越えるストーカー。ネオストーカーとでもいえるのではないだろうか。
これは、僕のそんな彼女達との日々を綴ったハーレム(裏)日誌における、誕生日のことだ。
この日、アパートで独り暮らしをしている件が、モンスター娘とゴリラ女なるカリスマにバレてしまった。ずっと内緒にしていたのにバレたのは、前の席に座っている友人に一人暮らしの不便さをボヤいたところ、翌日には広まっていた、という経緯だ。油断していた。そして、モンスター娘がさっそくアパートに遊びにやってきた。最初こそ信憑性はなかったが、彼女はアイドルの仕事を行っているそうで、姉妹が、たまに入れ替わった上で、通学もしてくるらしい。つまり二人一役を演じているという。僕はその真偽を確かめようと彼女のクラスを連日して訪れたことがあった。すると、確かに、そこにはモンスター娘の真似ごとをしている瓜二つの女子生徒がいたのだ。
見分け方は簡単。モンスター娘は、誰もしないような事を平然と実行する。一方、偽モンスター娘は、口だけなのだ。そして、僕の誕生日と知ってか知らずか、今日、部屋にやってきたのは、本物のモンスター娘(=姉)の方だった。
「わあぁぁ。これがダーリンの新しい部屋なんだ。へえええ。いいところに住んでるじゃない」
「おいこらああ。なにやってんだー」
「引っ越しのお祝い代わりに、壁にマジックで『うんこ』って落書きしてんだよーん。あはははは。ダーリンごときにはいい部屋過ぎるから、ダーリンにピッタリになるまで貶めてやるんだよーん」
「やめええい。何するんだー。やめろーーやめろーーやめろーー」
早速ではあるが、こいつ……いきなり、しでかしたっ! 絵まで描いている。
僕はタオルを濡らして、モンスター娘の落書きをゴシゴシ消そうと試みるも……消えない。
「あはははあははは。油性だから消せないよーだ。おいおい。こんなところに『うんこ』があるぞー。くっせーくっせー」
「お前が、今、自分で描いたんだろぉおおおお」
僕がそう叫んだら、彼女は突然、プルプルと震え始めた。
「ど、どうしたの?」
「うぅぅぅ……うぅぅうううううう」
「どうしたの? 具合でも悪くなった?」
本当に苦しそうに見えたので、僕は少し心配になった。
彼女は、顔を赤面させて、か細い声で言った。
「お、おしっこしたく、なっちゃった」
「だったらトイレは、あっちのドアって、おーい!」
僕は信じられない光景をこの目で見た。なんと、彼女はその場でパンツをずりおろし、用を足し始めたのだ。
普通であれば、酔っ払っているのか、もしくは危険なドラッグでラリっているかを心配するところだが、これこそが彼女の日常であり、今日も平常運転なのである。
僕はこんな彼女と、一刻も早く縁を切りたいのだが、中々切らしてくれない。
「どこで、オシッコしてんじゃああああああ」
「ぷっはあああ。マーキングだよ。マーキング。他のメスが、私のナワバリに入ってこないようにマーキングをするのって、必要な事でしょ?」
「いつから、僕の部屋はお前のナワバリになったんじゃああああ。掃除しろ! ちゃんと掃除しろよっ! ふざけんなああああっ」
まじで、オシッコ臭くて、たまらない。僕は窓を開けて換気した。一方のモンスター娘は大きく、溜め息を漏らした。
「なんだよー、ダーリン。全く……ギャグのわからない人だなあー」
「ギャグで人んちの部屋でションベンするなあああああ! もうお前、帰れよっ」
「ムカっ! 掃除しろと言ったり、帰れと言ったり、私は一度に二つのアクションはとれませーん」
「だったら、掃除してから、帰りなさいっ!」
「ヘイヘイ……」
僕は睨みをきかせて、彼女がゴシゴシと掃除するのを監視した。
掃除も終わりそうになったところで、ガチャリとドアノブが開き、他の女性が入ってきた。
篠田さんだ。
モンスター娘と闇娘の対面は今日が初めてだ。一体、どういう経緯で、彼女がこのアパートの住所を知ったのかは謎だが、やってきた理由については察しがついていた。実は昨日から携帯電話会社への料金が払えなかったことで、メールや電話の使用が停止されていた。おそらく、そのことが彼女に直接、会いにくるという決断をさせてしまったのだろう。もしくは、僕の誕生日を覚えていてくれたからか……。
2人の女が見つめ合った後、モンスター娘の方から口を開いた。
「あー、あんたーは、篠田じゃないか」
「あ……あなたは、な、なな、なんでここにいるのですかっ」
「あのぉー。お二人とも、お知り合い?」
「知り合いだよ、ダーリン。知り合いも何も、私はこいつのことをたっぷりと……」
「やめてください。思い出したくもない。私はずっとあなたにやられた事をメモしているんです。この、根性ひね曲り女っ! 臥薪嘗胆ですっ!」
どうやら、二人とも、僕の知らないところで、面識があるらしい。
しかし、どういう接点で、なのかは分からない。僕は訊いてみることにした。
「あの……どういう仲なの?」
この質問には、モンスター娘が応えた。
「私たちは『あ・うん』の仲だよー。私が『あ』といえば、こいつが『うんこ』って言う方のね」
「言わないわ。そんな下品な単語は言いません。私をあなたと同じくらい、低俗なレベルに落とさないでください。そして、あなた、もう帰りなさい。ここはあなたがいていい場所ではないのですよ」
「はああ? 私を怒らせたら、どうするか、分かってる、よね?」
「ど……どうするのですか?」
「またパンツの中にミミズをいれっぞおっ!」
「ひぇええええ。やめて。思い出させないでくださいっ」
篠田さんは、両手で体を覆い、ガクガクと震えながら、膝をついた。
………………。
端的にいえば、どうやら二人の間で、序列が出来ている様子である。そういえば、篠田さんは、黄金色の茶菓子なる手切れ金を、モンスター娘に届けに行くとか言っていた時があった。あの後、彼女はモンスター娘に接近し、返り討ちにあったか、もしくはモンスター娘の方から彼女に接触して攻撃したかの、どちらかだろう。そうこうしていると、再び、ドアが開いた。
「お兄ちゃん、しばらく泊ーめて。家出してきちゃったの。……あれ? この人たちは?」
「おお。妹よ。遊びに来たのか。ちょっとこっちにおいで」
「うん。あと、今日はおたんじょう……フガーフガーフガー」
僕は、部屋の隅にあったガムテープを妹の口に張り付けた。そして、妹の腕を後ろに回させて、ガムテープでグルグル巻きにした。床に倒し、足もグルグル巻きにする。
突然の出来事で油断していたのだろう。妹は顔を真っ赤にしながら、必死で何かを僕に言いたそうにしているが、僕は完全無視することに決めた。
「おまえ、口チャックな。つーか、口ガムテープな。おまえが何かを言うと、ややこしくなるから」
妹をガムテープで拘束したのには理由がある。
妹の僕への想いを知られて、彼女らに敵視させたくないからだ。これは兄としての妹への愛情でもある。
篠田さんは、妹を見つめて言った。
「まあ、可愛いですね。でも、宜しかったのですか? 口にガムテープを貼ったりして?」
「うん。口は災いの元だからね。そして、妹は災いを呼ぶ体質にあるから」
「初めまして。私、あなたの事をよーく知っていますが、お会いするのは今回が初めてですよね。篠田と申します。あと、後ろの手と、足ですが……」
篠田さんは僕からガムテープを受け取ると、妹の手に更に巻いていった。
「縛り方が甘いですね。このタイプのガムテープは強度が非常に脆弱なので、もっとキツめに何重にも縛らなくちゃ、だ・め・で・す・よ」
「ムームームー。フガーフガーフガ―」
妹は必死で何かを訴えている様子だが、僕は引き続いて、完全無視の姿勢をとった。
なお、モンスター娘は、僕と妹の間の事情について相談した事もあり、僕の悩みを知っているからか、あえて何も関わってこなかった。
……と思ったら、先程の油性マジックを手に取ると、妹に近づいて、額に何らかの絵を描いた。見ると、『オマ○コ』の絵だ。
「フガーフガー」
「おい。おまえーは、子供かああ! 小学生かああ! 僕の妹の額になんてものを描いてくれるんだ。いや、小学生と言ったけど、今時の小学生でも、こんなの描かないぞ」
「フガーフガー」
モンスター娘は、悪ふざけとばかりに顔中に『正正正正正正正正正……』とも描いていく。
「ええい! やめーい。この『正』は何を意味させたくて書いたのかは、なんとなく分かるが、僕はあえて言わない。ツッコまないぞ」
「えー。なんでだよー。ケチンボ」
「黙れ。小学生、以下っ!」
僕に続いて、篠田さんもモンスター娘を睨み、抗議した。
「あなたはやはり、最低の人間ですわ。義妹さんに何て事を。私の義妹さんに!」
………………。
僕は、すぐに篠田さんに突っ込んだ。
「あのー。なんなの、義妹って……。『ぎ』って、そこ発音しちゃわないよね、普通は……」
「あら? そうなのです? 私、勉学にうとくて」
「うそだ! 僕よりずっと頭がいいくせに、間違うわけがない!」
つまりは、確信犯である。その意図は、言わずと知れた、モンスター娘への威嚇である。僕を渡す気はないぞ、という。
そうこうしていると、再びドアノブが回され、今度はセーラー服姿の、男子が入ってきた。
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