操のピンチ!(3)
翌日、4日ぶりに僕は学校に行った。久し振りだからだろうか、モンスター娘が授業中もピッタリと、僕にくっついてきていてウザかった。別のクラスなのに。
そして放課後、僕は岐路についた。ふと、何らかの危険の訪れを察知し、振り向いたところ、柔道着姿の先輩がいた。
………………。
「おいおいおい。よく、俺が後ろからこっそりと近付いていたのを察したなー。天性の才能があるっ」
「こんなとこで何してるんっすか。先輩は今、部活動じゃないのっすか?」
「ランニング中さ。そしたら、校門から桜田君が出てくるのが見えたから、あの芝陰でこっそりと隠れて待ち伏せしていたのさ」
「怖えええ。マジで怖えええんで、もう僕には近寄らないでもらえないっすか?」
「お、おい……つれないなあ……」
僕は先輩を無視して、そのまま歩いていった。そして、事件は起きた。
いきなり、黒いスーツを着た大男たちが僕を掴んできた。そのまま、近くに停められていた、ジープのような車の後部座席へと連れ込まれた。
すると、そこに見知った女性の姿があった。
「ごきげんよう。鬼ごっこはもう終わりですわ。偶然を装ってお会いしようと日々努めてましたのに全然、お会いできないのですもの。もう私、強硬手段をとらさせて頂きます」
「ちょ、ちょっと。篠田さんっ!」
後部座席に乗っていたのは、篠田さんだった。
彼女は、手にしていたハンカチを僕の口に持ってきた。
薬品の匂いがしたと思った次の瞬間には、僕の意識は遠のいていった。
気が付くと、電灯のついていない暗い部屋にいた。たくさんの虫の鳴き声が聴こえるので、おそらく自然の多い場所に違いない。
手足を動かそうとするも、すぐに縛られている事に気付いた。ぼやけた頭で、一体何が起きたかと思慮をめぐらせて、すぐに篠田さんに拉致られたという結論に行き着いた。
そして、目の前に人が立っている事にも気づき、過大な反応をしてしまった。そして、その人の表情を見て僕は、更に驚いた。
「ひぃぃぃぃ」
窓から射し込む月明かりに照らされ、口だけが半笑いになっている事が分かるが、顔の上半分が暗くて見えない。
「うふふふふ。やっと目覚められましたか。薬の効き目から……いえ、愛のテレパシーで、もうそろそろ目覚められるだろう、と思っていました」
「薬の効き目って言ったじゃないっ! テレパシーって何? 何なの? 篠田さんっ!」
彼女がしゃがむと、ようやく顔の上半分も見えた。思いの他、目がうるうると涙ぐんでいた。
「ずるいですよ。私をこんな気持ちにさせておいて、逃げてばっかりで……あなたって本当にずるい男……」
「逃げていたことは、分っていたんだね……。というか、ここはどこなの?」
「ここはうちの別荘です。私たちはこれから、永遠とも思える時間を過ごすのです」
「え? え? どういう事?」
「もう……これしか道はないのです。私はあなたを誘拐するという事件を起こしてしまいました。もうおテントウさまには顔向けできません」
「まだ、おテントウさまに顔向けできるよ! だから、僕を解放してー」
「分りました」
彼女は頬を赤らめて、天井を見上げながら、僕の学生ズボンのジッパーを下ろした。
「そこだけ解放してどーすんの! どうすんのさ! 今解放すべき場所はそこじゃない。僕の手と足を解放してよ」
「やーですよ。でも、一つだけ。一つだけ、お願いを聞いてもらえたら、外してあげますよ」
「それは、一体なに?」
彼女は僕の耳元に顔を寄せて、囁くように言った。
「私と同じ棺桶に入ってください……」
「え? え? え?」
ペロリと舌で耳を舐められた。ドキンと心臓が高鳴る。
一緒に棺桶に入るというのは、つまるところ死んでほしい、という事か? そんなー。僕はまだしたい事がたくさんある。連載を休みまくっている漫画家の最終話を見ずして死ぬというのか! そんなの嫌だっ。
しかし、すぐにそれは杞憂だとわかる。
「うふふふ。つまりは、私なりのプロポーズです。今日、あなたをこちらにお招きしたのは、既成事実を作るためですよ」
そう言って、篠田さんは僕のワイシャツのボタンを手にして、ゆっくりと外していき、僕の服を脱がせた。
顔を高揚させながら、はぁはぁと、吐息を漏らしている。
「好きなんです。狂っちゃうくらいに好きなんです。好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き大好き。私の全部を上げるから、あなたの全部、私にください。……駄目ですか?」
「だ、だだだだ、だめじゃ……ない……けど」
「だったら、いい……の、ですか? 私の事、食べてくれますか? 今が、旬なんですよ……。きっと美味しく召し上がってもらえると思います」
僕は返事に悩んだ。相手は闇娘だ。しかし、僕自身の中で育んできた彼女への想いがまだ僅かながら残っているようだ。そして、それがたった今、圧倒的な早さで勢力をぶりかえしている。脳内でGOサインを出すように、指示しているのだ。
そして満場一致で一つの結論が出たっ!
「い……いいです。どうぞ、篠田さんを……食べさせてくださいっ! 僕、食べまーすっっ!」
「キ、キスをします……私、今からキスしますからねっ!」
「う……うん」
彼女はそういって、僕に唇を近づけてきた。僕は目をつぶった。
しかし、唇と唇がいつまで経っても触れ合わなかった。
うっすらと目を開けると、そこには、苦しそうにもがく篠田さんと、彼女の口をハンカチで抑えている先輩の姿があった。
「せ、先輩!」
篠田さんはバッタリと倒れた。
「ふふふ。君を眠らせただろう薬を逆に嗅がせたのさ。机の上に薬の瓶を置いたままにしているなんて、不用心だねえ。さあ、助けに来たよ、桜田君! これで安心だっ」
「た、助けに来たって? ど、どうやって?」
「ははは。実は君が路上で拉致られる姿を見て、すぐに救助に向かったのだよ。しかし、すでにジープのドアが閉まって、走り出していたものだから、ジャンピング&スライディングで車の下に潜り込んで、しがみついていたわけさ。でも、ウトウト眠くなってしまってね。ついさっき起きたところなんだよ」
「あぶねーーー。よく死にませんでしたね。というか、車の下にもぐりこんで、どこにしがみついていたのか分かりませんが、よく寝れましたね」
「ナマケモノは木にしがみついて寝てられるだろう。人間に出来ない道理はない!」
「いえいえ、ナマケモノが出来ても人間にできるとは限りませんからー」
それにしても、横になっている篠田さんを見ていると、僕は急速に冷静に戻っていった。今、僕は、こんな場所に拉致してきた女と、『既成事実』を作ろうとしていたのだ。
危ない、危なすぎる……女の一瞬の色香に騙されて人生に失敗した男なんて、星の数ほどいる。
「た、助かりました。先輩、では僕の手足の縄をほどいて……って、何してるんですかっ!」
「いやあー大した事ではないぞ」
「『いやあー大した事ではないぞ』じゃありませーん。なんで服を脱いでるのですかっ」
「桜田君……俺を食べてくれ。俺だって今が旬なんだ! 食べ頃なんだ! いや、逆に桜田君、君を食べさせておくれ。こんな絶好かつゴージャスなディナータイム、二度とお目にかかれねーんだー。うわああああい。うわああい」
「やだああああー。やめてえええ。って、全身亀甲縛りで、なおかつ、パンティー穿いてるし!」
「がおーう、がおがおがおがおがおがおーーう」
女物の下着で亀甲縛りな先輩が、野獣のような物真似をして、こちらに迫ってきたところ、先輩の背後で、影が立ち上がった。影は何やら花瓶のようなものを持ち上げると、そのまま、先輩の頭に振り下ろした。
ガシャンと大きな音が響く。
影の正体は、篠田さんだ。先輩はそのまま、ばったりと倒れて気絶した。
「な、なんで……すか、この……や、野獣は……。ど、どこから入ったの……。け、警察に電話、電話しなくちゃ」
篠田さんは意識が朦朧としているようだ。目を半開きで、ふらつきながらも、スマホのボタンを押し、そのままバッタンキューし、再び気絶した。その拍子に、スマホが僕の足元に滑ってきた。
ちょうど着信先、つまり警察の人が通話口に出た。僕は、助けてくださーい、とスマホに向って叫んだ。
住所等は分らないものの、スマホの逆探知とでもいうのだろうか、まもなく警察がやってきた。どうやら山の中の一軒家に僕たちはいたようだ。
「大丈夫かね、君」
「た、助かったー」
警察に、縄をほどかれ、僕は、一気に肩の荷が下りた気がした。
目の前には、パンティを穿いた亀甲縛りな先輩と、そんな先輩の下半部に、顔をうずめている篠田さんの姿があった。
「こ、これは一体……一体、ここで何が起きていたというのだね?」
「それは……僕にも、よく分からないのです……」
篠田さんと先輩は、二人とも逮捕されそうになった。しかし、僕が単なる遊びの延長でこういう事態になったと証言した事もあり、大事には至らなかった。
こうして、僕のハーレム(不認可)に、美少女2人だけでなく、美男子ガチムキな先輩も加わった。
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