第5話 彼女の世界

私は朝起きるとまず顔を洗う。そうしないとどうもスッキリしない。それから寝癖をなおす。肩までで切りそろえた髪の毛は夜の間に遠近散乱している。それから殺しに行く。理由は特にないが、強いて言うならば暇だから。今はすっかりそれが癖になった。スマホを開いて数分、私は立ち上がる。よし、行くか。

家を出るとまだ朝の肌寒さが残っている。これがどうも好きじゃない。やけにジメジメしていて気持ちが悪い。ポケットに手を入れた。


道路の真ん中で逆立ちをしてみても、誰も私に気が付かない。でも信号が青になったら端に寄らなきゃ。車に惹かれたら死ぬからね。その点、自分で殺さない人たちは楽だな。代役が勝手に殺しといてくれるんだから。羨ましい。私だって家でゴロゴロしてたいときもある。そこまで活発でもないが引きこもる系統の人間でもない。

「あ、いた」

私はターゲットを見つけるとそそくさと近づく。なるべく早く済まそう。それで二度寝をしよう。ポケットに入れた手を引き抜くとそこには銃がある。重力を全く感じない物体を握るのはなかなかなれない。まあ、慣れる程使うのもどうかと思うが。そう考えると、もしかして私はこの感覚がしっくりこないことに安心感を覚えているのかもしれない。まあ、どうでもいいか。

私は子供を連れて歩いていた恐らく父親であろう男の心臓に銃を当てると引き金を引いた。音はあまり大きくはないが、そいつから飛び散った血が私に被さってくる。これは、もう慣れた。男はさっきと変わらない様子で子供と楽しそうに歩いていってしまった。

「あんな奴が父親なんて、ねぇ」

私は誰にも聞こえない愚痴をこぼした。それから、家に帰ろうと歩き出した。

朝の日課が一つ、済んだ。

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