第4話 あなたは見える

彼女は自分で人を殺す。言葉ではなく、自分の手で人を殺していく。それが偉いかというとそうではない。もちろん他人を傷つけるのは良くないことだし、しないに越したことはない。でも人間は人を殺す。あなたもそうだ、今だって誰かを殺している。何気なく書いた文章が、絵が、写真が言葉が、人を殺していく。でも気づいていないだろう。

「君は曖昧だよ」

僕は就寝しようとベッドに向かい先客として寝ていた少女に言う。返事はない。しかし少女の顔は緩んだ。

本来なら攻撃意思の具現化達の顔をはっきり確認することはできないが、これは例外だ。彼女の顔はしっかり見える。ほくろの一つまでも鮮明に。それは彼女が意思ではなく、実態だからだろう。

「また、殺してきた」

「そう」

彼女の声はよく通る。ストンと落ちるように。だからというわけでもないが、僕は彼女が言ったことに対して大した反応こそしないけれど頭には入ってきた。

「今度はなんで?」

彼女は悪びれるわけでもなく答える。

「そんなの、理由なんてないことくらいあなたが一番知ってるでしょ」

人を殺すことに理解があるような言い方だが、あながち間違っていないのかもしれない。僕はきっと周りの人間よりも死に近い。それは感覚的な部分もそうだが、物理的にも。実際、今目の前にいる彼女も死と同じようなものだろう。彼女に死との境界などあってないようなものだ。人を殺しに行くとき、彼女は死になる。

「可愛い女の子だったよ」

「そうか」

「でも自分が大好きだから、人を認めないの」

「ああ」

「もったいないね」

「そうだな」

彼女の顔は、血で染まっていた。それを拭い取ろうともしない。きっと何も感じないのだろう。そのようなものに対する嫌悪感も。

「なあ、今回はいつまでそれでいるんだ?」

「ん、もうそろそろだよ。殺したいやつもいないしね」

彼女はベッドから出て部屋を出ていった。殺したいやつもいない。

でもきっとそれも、

僕がベッドに倒れようとしたとき、彼女がまだ部屋の前に立っていることに気がついた。背を向けてただ止まっている。

「どうした?」

「言い忘れた」

彼女はくるりと振り返る。そして悪戯な顔をした。

「今は、ね」

そう言うと今度こそ彼女は部屋から離れていった。その姿が見えなくなってしばらくして、僕はつぶやいた。

「知ってた」

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