佐藤とバイト

幻典 尋貴

佐藤とバイト

 実は私はゲームのモブキャラである、と言う話を同僚の佐藤に話したら笑われた。

 コンビニのバイトで一年後輩の佐藤は、コンビニ内では後輩だが、年齢的には一年先輩という面倒くさい立ち位置ながらも、彼の性格のお陰もあり同級生のように話せる友人の一人であった。

 そんな佐藤に最近の外出自粛生活の中で溜まっていた思いを話したところ、笑われた。

 もちろん、こんなことを言うのは恥ずかしかったし、他の友人には言えないなとも思っていた。が、わりと真剣に思い悩んでいたので笑われたのは結構頭にきた。

 佐藤いわく「皆一度はそんなことを考える」らしい。そんなことは分かっている。それでもそう思ってしまったらそうとしか思えないのだ。

 例えば、バイトのシフト。

 私がバイトをしているコンビニは割とシフトの融通が効く方であるが、それ故に欠員が出ることもしばしばあった。そんな時は電話が来る。概ね『今日はシフト入れますか?』とこんな風に。そう聞かれたとき、私は“はい”としか答えられない。もちろん重要な用事が入っていた場合は断るが、こう言う電話の時に限って予定は無いのだ。それは断れない。

 だが、“はい”と言うたびに自分がないような気がしてしまう。つまり、モブのようだ。

 何となく“社会の役に立っていない”と言う感情がそう思わせるのだろうなと結論を付けたところで、終礼の時間になる。

 まだニヤニヤとしている佐藤に「お先」と言い、制服を脱ぎ、店を出る。

 真っ暗な空を見上げると、白い星が光っていた。


 白い星の形が反転した文字のように見えることに気づく。


 否、文字そのものだ。


 少し前に出ると、見えない壁にぶつかった。


 数分かけて文字を読み、気付く。


「やっぱり私はゲームのモブキャラだったのか」


 空に輝く白い文字は、こう並んでいた。


 ――本日をもってこのサービスは終了しました。

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