【短編】聖女になった幼馴染を勇者が寝取ったと宣言しにきた結果、恐怖の聖女様が舞い降りた

ハートフル外道メーカーちりひと

聖女になった幼馴染を勇者が寝取ったと宣言しにきた結果、恐怖の聖女様が舞い降りた

『帰るから! 絶対帰ってくるから! 帰ったらクロノのお嫁さんにしてね!』

『うん! 俺、ソフィアの事、ずっと待ってる!』


 そんな言葉を交わしたのはいつの事だろうか。

 

 

 

 クロノとソフィアは幼馴染だ。この村に生まれ、同じ日に生を受けた二人はいつしか惹かれ合うようになった。

 

 片や平凡な男に、片や美しい少女に成長したが、二人の想いは変わらず、『十六になったら結婚しよう』という幼い頃に交わした約束を果たすつもりだった。

 

 そんな彼らを引き裂いたのが一つの知らせ。この世界では十三になると大人として扱われ、その区切りとして教会で祭事が行われる。ここまで成長できたことを感謝し、神に祈りをささげるのだ。二人もその習慣に従い、十三を迎えたときにその祭事へと参加した。


 しかしその時、予想もしない事が起こる。ソフィアが祈りを捧げた途端、神の象が光り出し、威厳ある声が響いたのだ。曰く『その者は聖女。勇者と共に魔王を滅せよ』と。その時よりソフィアは元々得意だった回復魔法に加え、神聖魔法まで使えるようになった。聖女を除き、神聖魔法を使えるのは最高位の神官のみ。故にソフィアが聖女となったのは疑いようもない。

 

 これは大ごとだ。なにせ、魔王といえばこの世界の誰もが知る巨悪。魔物を増やし、人間を滅ぼそうとする悪夢のような存在である。

 

 その魔王を倒す為に立ち上がった者が、同じく神に祝福されし”勇者”。既に”聖戦士”、”賢者”と共に魔王軍と戦っており、最近その一角である四天王を倒したという話だ。

 

 その新たな仲間がソフィアだという。村人たちは喜んだ。自分の村から世界を救う者が出たのだ。名誉な事である。

 

 しかし、ソフィアは嫌がった。クロノと離れたくない。そんな想いからだった。

 

 嫌がる彼女だが、そうはいっても世界の危機なのだ。半強制的に彼女は連行され、勇者の待つ王都へと向かった。その別れの時に交わしたのが冒頭の言葉である。

 

 

 

 何故クロノがこの言葉を思い出したかというと、目の前の男のせいだ。

 

「ふっ、まだ理解していないようだね。もう一度言ってあげよう。ソフィアは僕のモノだ。君には悪いが、諦めて欲しい」

 

 黒髪ツンツンヘアーの少年。彼が勇者らしい。魔王討伐に成功し、凱旋したとの事だ。ソフィアとは旅の最中に想いを交わし、今度結婚するとの事。

 

 寝取られた、という訳である。

 

 クロノはショックを受けた顔になり、次いで悲しみの表情になる。

 

「……そうですか。ソフィアと…………。悔しいですが、勇者様にはかないません。ソフィアを幸せにしてあげてください」


 拳を震わせながら言う。そんな彼に対し、あくまでクールな勇者。フンと鼻を鳴らし、自信を感じさせる声で言い放つ。


「言われずとも幸せにするさ。物分かりが良くて良かった。君には悪い事をしたね」

「いいえ。……どうかお幸せに」


 頭を下げて勇者を見送る。その様子に勇者は満足し、去っていく。「じゃあな。二度とソフィアには近づかないでくれよ」との言葉を残して。

 

 しばらく頭を下げていたクロノだが、勇者が見えなくなるとようやく頭を上げる。そして息を吸い込み、吐き出すように呟く。








「よかったああああああ。勇者様、ありがとうございます」








 助かったーという感じの笑顔だった。それもそのはず。だって、彼には既に――

 

「あ、クロノー! こんなところにいたー!」


 既にカワイイ彼女がいるのだから。

 

「もー、クロノ。十時って約束したじゃん」

「ごめんごめん。急用が入っちゃって」


 マリィという名の少女だ。一年前に実家を出て、町で暮らすようになって出会ったのだ。

 

 ……言い訳をさせてもらえば、一年は待ったのだ。だが、いくらソフィアが美人だとしても三年は無理。ただでさえ遠距離恋愛は破局しやすいのに、約束したのが十三の時だ。

 

 そこから三年も経てば性格も好みも変わる。自分が好きなままだったとしても相手がそうとは限らない。むしろ想い続けている方が異常だ。事実、ソフィアは勇者に寝取られていたではないか。

 

 既に未練は無い。確かにソフィアは美人だった。金髪の美しい美少女だった。対し、マリィは割と平凡な容姿。十人に聞けば十人がソフィアの方が美人と評するだろう。

 

 しかしそれでもクロノはマリィが良かった。今ではソフィアに負けないくらい……いや、それ以上に惹かれていた。何故なら――

 

(アイツ胸ちっちゃかったからなぁ。三年経った今もBあるかどうか……。それに比べ、この圧倒的なデカさよ)


 歩くたびにゆさゆさと揺れる。その度にクロノは内股になったものだが、今は慣れたものだ。色々と男にしてもらったからだ。

 

(しかし、あの勇者さまもご苦労な事で。わざわざ村を出た俺を探しに来るなんて。……隣のアンナちゃんに手を出した事まで知られてないよね?)


 まあ結婚するらしいので知られても問題ないのだが。昔のソフィアであれば大問題である。ちょっと他の女に見とれてただけでお尻が真っ赤になるくらいぺんぺんされたので、手を出したとなるとどうなる事やら。ナイフでザクザクとかだろうか。

 

(ま、どうでもいいや。今日はヤらせてくれるかな。生理だったら口でしてもらおう)


 割と最低な事を思いつつマリィの尻を触る。「もー、エッチ!」と怒られるが、そこまで嫌がってはいない。ちょっと尻軽なところがある彼女だが、こういうところは最高だった。クロノは確信した。今日はイケる、と。

 

 そんな事を考えながらデートする彼だが、オシャレなオープンカフェでお喋りをしていた時、何やらものすごい悪寒が彼の中を駆け巡る。

 

 

 





「……クロノ。誰? その女」








 ……ギギギと固い動きで声の方へ顔を向ける。そこには、金髪の美しい少女がいた。

 

 クロノは一目で分かった。幼い頃に結婚の約束を交わした少女――ソフィアであると。三年の間にさらに美しくなり、胸以外は立派に成長している。あわやソックリさんとも思ったが、瞳のハイライトを無くし、静かに怒る姿は面影たっぷりであった。

 

(やっべええええええ!! ……って、そうだ。結婚するんだよな。勇者と。なら別にいいじゃん)


 落ち着きを取り戻す。さて、どうしようか。さっきは勇者の手前、未練があるように演技した。さわやかそうに見えて根はインケンっぽかったので、寝取った風味を味合わせて気持ちよくお帰り頂きたかったからだ。ならば彼女へも同様の対応をすべきだろう。

 

 本当は軽ーく『結婚おめー』とか言った方がソフィアの罪悪感を刺激しないだろうが、後で辻褄が合わないのは困る。またインネン付けに来られてはたまらない。故に苦渋に満ちた表情を作り、吐き捨てるように言った。


「ソフィア、か。聞いたよ。勇者と結婚するんだってな」

「っ! 何それ! 誰から聞いたの!?」

「勇者からだよ。さっきわざわざ伝えにきてくれた。義理堅い人だね」

「そんなの嘘! 私、クロノ以外と結婚するつもりなんてない!」


 ……え? 結婚しないの? どういう事?

 

「そりゃ、好きっては言われたよ。けど断った。結婚を約束した幼馴染がいるからって……」


 どういう事? ねえどういう事? 勇者様、言ってた事と違うくない?

 

「やっぱり……。追って来て正解だった。あの人、そういうトコあるもん」


 ソフィアの発言と合わせて疑問に思うクロノだが、次の瞬間ピーンと来た。

 

(あの野郎、外堀から埋めようとしてやがるな!!)


 色んなところで結婚すると吹聴し、祝福ムードを作る。そして皆の同調圧力をもって攻めるつもりなのだ。彼女の両親とて勇者という将来性マックスの若者ならば反対すまい。村人は言わずもがな。国中が祝福するともなれば流石の聖女とて「キモイので無理です」なんて言うのは無理だ。

 

(しかも勇者アイツが来たせいで聖女コイツも来たらしいじゃん! クソッ、余計な事しやがって!)


 聖女が来るともなれば大々的に布告されるはず。その時ソフィアが例の約束を果たすというのなら応えるつもりだったのだ。三年も想い続けているという重い女、しかも聖女。そんな彼女にノーサンキューする勇気はクロノには無い。女関係を全て切るのは勿体ないが、命には代えられない。

 

 なのにアイツが来たせいで『えへへ、来ちゃった』とばかりに急な訪問となってしまった。しかもデートの真っ最中という最悪の時に。その日Xデーの為に練っていた作戦は全部無駄と化した。

 

「まあ勇者様の事はいいや。それで、誰? その女」


 キッと表情を凍らせるソフィア。クロノの股間がキュッと縮んでしまう。なにせ相手は魔王を倒した聖女だ。自分などひとたまりもあるまい。ナイフザクザクよりも恐ろしいオシオキをされそうだ。

 

 どうしよう? どうしたら丸く収められる?

 

 クロノは考えた。考えに考え抜いた。

 

 『待てませんでした』と素直に謝る? ダメだ。許してくれたとしてもオシオキが待っている。

 

 『この子? 妹だよ』……ボツ。そもそもソフィアは自分の家族構成を知っている。

 

 『関係ねーだろ! テメー俺の母親かよ!』……一番ダメ。逆ギレしていいのは相手が弱い時だけ。

 

(……そうだ! これで行こう!)


 何かを思いついたクロノは苦しそうな表情を作る。そして吐き捨てるように言った。

 

「……恋人だよ。今日、恋人になったんだ」

「「え?」」


 疑問符が二か所から聞こえる。一人は当然ソフィアとして、もう一人はマリィだ。お付き合いを始めて八か月なので、マリィには嘘だとバレてしまうのだ。

 

 だが、そんなものは織り込み済み。テーブルの下でマリィの足をちょんちょんとつつくと、彼女は訳知り顔になる。それを確認したクロノはさらに続けた。

 

「君が結婚すると聞いてね。なら俺も待つ必要は無いかなって」

「何それ……。けど、もう嘘だと分かったでしょ? なら……」

「……マリィはね。君がいない間も俺を支えてくれてたんだ。ずっと好きだって言ってくれてて。けれど、君がいたから断った。なのに、それでも好きって、健気に……。だから――」


 一つ息を吸い込み、ソフィアの目をまっすぐと見る。


「だから、マリィを裏切る訳にはいかない。嘘だって分かっても、吐いたつばは飲めない。ソフィア、君には悪いけど……」

「そんな……!」

 

 ぽろぽろと涙を流すソフィア。三年間想い続けてきた彼女だ。同じく想い続けたらしい相手に対し、簡単に『別れて』とは言えないのだろう。涙を流すだけで、何も言ってはこない。

 

 まあそれを見越した作戦なのだが。

 

 唯一の欠点はマリィに暴露されたら全部オシャカになる事だが、幸いにして彼女は何も言わなかった。以前彼女に『聖女っているだろ? 実は昔、俺と結婚の約束してたんだぜ?』『何それー。嘘ばっかー』『ホントだって。まあ今はお前が一番だけどな』なんてやり取りをしていたからだ。お陰でただの昔の女と取ってくれたようだ。流石は尻軽である。


「……分かった。ごめんねマリィさん。お幸せに……!」


 走り去っていくソフィア。悲しみのあまり無意識に魔力強化しているようで、地面がすごい事になっている。足跡がクレーター状態だ。

 

(やったあああああ!! 上手くいったあああああ!!)


 心の中でガッツポーズを決める。生の喜びをかみしめるあまり、涙さえでてくる。奇しくもそれは悲しみの涙のように見えたようで、いつの間にか周囲に集まっている野次馬たちの涙を誘っていた。聖女様の悲恋、みたいに噂されるのだろうか。

 

 


 翌日。

 

 クロノはるんるんだった。ソフィアという懸念が解消された上に、ずっと欲しかったモノが手に入ったのだ。人気商品で中々手に入らなかったのだが、運よく一個だけ残っていたのだ。


 袋を抱え、マリィの元へと向かう。昨日はあの出来事のせいでダメだったのだが、今日はイケるだろう。何故なら今日は彼女の誕生日。このプレゼントを持っていけば『素敵! 抱いて!』となるはずだ。クロノはそれを想像し、むふふと笑った。

 

 そんな彼に忍び寄る陰。

 

「……クロノ……」


 びくびくびくーっと体が震える。声の方を向けば、案の定ソフィアの姿。

 

「やっぱり諦めきれないよ。私、クロノが好き。大好き。駄目だって思ってもクロノの事ばかり考えちゃう」


 えーかんげんにせーや。クロノはそんな気持ちで一杯だったが、口には出さない。口に出した瞬間この世からサヨナラしそうだからだ。

 

「ソフィア。昨日も言ったけど、俺は……」

「分かってる!! 分かってるよ!! けど駄目なの! クロノがいないと、私……」


 涙を流す彼女。

 

 メンドクセー。そんな気持ちで一杯だったが、やっぱり口には出さない。口に出した瞬間チリ一つ残らず消滅しそうだからだ。

 

「ねえ、ダメかな。二番目でも……」

「えっ」


 彼女らしからぬ言動。恐怖のあまり自分の耳がおかしくなったのだろうか? 嫉妬深い彼女のセリフとは思えない。

 

「私、クロノがいなきゃダメなんだ。魔王を倒す旅も、クロノがいるから頑張れた。なのに帰ってもクロノがそばにいない。そんなの耐えられない」


 やっぱりそうだ。彼女の愛は重い。重すぎる。やはりさっき聞こえたのは幻聴だろう。しかし……


「……だけど、マリィさんに別れてっても言えない。卑怯だよね、私」


 自嘲の笑みを浮かべる彼女。本当に卑怯なのは目の前の男なのだが。そんな最低男は先ほどと違い、興味深々な様子。

 





 

 

「だから、二番目でもいい。二番目でもいいから、愛して欲しいの」








(来たああああああああ!!)


 まさかの愛人宣言。自分の耳は正常だった。嫉妬深い彼女だったが、三年の旅でかなりマイルドになっていたようだ。昔のソフィアなら無理心中してもおかしくなかったのだが、色々と都合のいい方向に成長してくれたらしい。

 

 クロノは歓喜していた。色々とおさかんな彼である。彼女の提案は嬉しい事この上ない。巨乳好きの彼ではあるが、決して貧乳が嫌いな訳ではないのだ。巨乳をステーキとすれば豆スープくらいには好きだ。たまには味わいたくなる。

 

 既に頭の中でパーティーナイトパーリナイが開催されている中、クロノは苦しそうな表情を作った。『うん、いいよ』と簡単に言う訳にはいかない。軽薄なのがバレてしまう。


「ソフィア。だけど…………君がそう望むなら」


(――しまった! 嬉しすぎて即OKしてしまった!)


 後悔先に立たず。だらだらと汗を流す彼。チリ一つ残らず消滅させられてしまう。

 

「本当!? 嬉しい!」


 しかし思ったよりソフィアは単純だった。特に疑念を持たず、嬉しそうな笑顔を返してくる。色々とギリギリだったのかもしれない。

 

 セーフ。ほっとして脱力する彼にソフィアが抱き着いてくる。支えられず尻餅をついてしまうが、それも仕方ない。まな板をこすりつけられても元気は出ないのだ。


「うん?」


 不思議そうな声を出すソフィア。彼女はクロノから離れると、何かをあさり始めた。

 

「ねえ、クロノ。これ、何?」


 何がだよ。そう思いメンドクサそうに目を向けると――

 

 

 





 大人のオモチャがそこにはあった。





 

 

 

 ソフィアの右手には、あるモノを模した二十センチ位の棒。何やらウインウイーンと踊るように動いている。さっき手に入れたばかりの人気の品だ。内部に魔道具が仕込んであり、スイッチを入れると勝手に動くスグレモノなのだ。

 

「クロノ。昨日つきあったばかりなんだよね。なのにこれ、どういう事かな?」

 

 その他、地面にはピンク色の卵、ボトルに入った液体、ロープ、数珠のついた尻尾など用途不明なものがたくさん落ちている。プレゼント用に包装してもらったのだが、抱き着かれた際に落としてしまい、中身が飛び出たらしい。

 

 凍った表情のソフィア。極寒のまなざしである。プレゼントを見て色々と察してしまったらしい。


 誤魔化さねば。どうにかして誤魔化さねば。クロノは考え、何とか思いついた言葉を紡ぐ。

 

「ソ、ソフィア、それ何か知ってるんだ。ソフィアのえっちー」

「いいから。答えて」


 ダメだった……。最早下手な言い訳は効きそうにない。どうしよう。どうしよう。必死に考えていると――


「貴様ぁ!! 二度とソフィアに近づくなと言ったはずだぞ!!」


 勇者様が現れた。怒りに顔をゆがめながらもこちらへ向かってくる。

 

(やった! 救世主降臨! 結婚したいんだろ!? 頑張って連れて帰ってくれ!)


 頭の中でお願いするクロノ。実際もうそれしかなかった。魔王を倒した勇者なのだ。聖女くらいどうにかしてくれるはず。

 

「……そういえば、勇者様もだったね。嘘ついたの」

「えっ。ソ、ソフィア! けどそれは、君の為を思って……」

「嘘はダメだよね。オシオキしなきゃね」


 ウインウイーンと動く棒を持ちながら勇者へと接近するソフィア。何やら怯えたような顔になる勇者。彼女は神聖魔法を唱え、光のリングで勇者を拘束。じたばたと逃れようとする彼のズボンを下げ――

 

 





 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!」








 ガタガタと震えだすクロノ。それはそんなところに入れるものじゃない。もっと別なところに入れるものだ。決して男に使っていいものじゃない。

 

 周りにはいつのまにか野次馬と化しているたくさんの人々。反応は様々だ。自分と同じようにおびえる者。汚いものを見たとばかりに目を背ける者。キラキラと輝いている者……。

 

 小便がチビりそうになりながらも逃げようとする。腰が抜けてしまっているので匍匐ほふく前進だ。幸い周りには人がいっぱいいる。人ごみにまぎれれば逃げられるかもしれない。

 

「クロノ。どこ行くのかな?」


 背中に圧力。見上げれば、ソフィアが足で抑えつけている。必死でもがき続けるも、一ミリたりとも進みはしない。――聖女からは逃げられない。そんな言葉が思い浮かぶ。

 

 口元に笑みを浮かべているソフィア。しかし目だけは笑っていない。もうごまかしは許さない――そんな表情だ。


 クロノは彼女に対し、最後の手段とばかりに真剣なまなざしで言った。

 





 

 

「ソフィア。結婚しよう」






















 こうして一連の騒ぎは終わった。

 

 後の歴史書は語る。

 

 魔王は倒れたが、戦いの傷のせいで勇者までもが倒れた。聖女は嘆き悲しむも、何とか立ち直り、故郷に帰って幸せに暮らした。

 

 一男一女に恵まれた彼女の血筋は千年経った今もまだ残っている。一般の歴史書には上記の事実が書いてあるだけだが、聖女の子孫によると、聖女は獣人と結婚したらしい。彼らにその特徴は無いが、代々受け継ぐ資料にこう記されているからだ。

 



 ――聖女の夫。その尻には尻尾が生えていた、と。

 

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