親と手紙
「新婦様。準備の方は大丈夫でしょうか?」
「……はい」
スタッフが私に声をかけてくれていた。
「――スゥ」
健太と恋人になって、こんな立派な結婚式を開いてくれた。
それでいて私たちを応援してくれるみんなが扉の向こうで待ってくれる。
それは嬉しかった。
けど、やっぱり不安という気持ちがあった。
「……」
この不安がなにかはわからないけど不安……。
『ほらアリス。しっかりとしてあなたの選んだ道なんだから。ね、お父さん』
『あぁ、母さん』
「……えっ」
知っている懐かしい声。
周りを見渡すと私とスタッフの従業員さんしかいなかった。
「新婦様。大丈夫ですか?」
「えっ……はい」
その場で頷いた。
私が好きな人の声……。
「それではドアを開きます」
スタッフさんがドアを開き目を開くと大勢の人が私の方を見ていた。
「新婦様のご入場です。皆様、盛大な拍手をおねがいします!」
スピーカーの声が聞こえたと同時に盛大な拍手が鳴り響いた。
「――っ」
物凄い歓声に一歩引いてしまった。
『大丈夫よアリス。私たちに見せて、あなたの素敵な瞬間を私たちに見せて――』
「――っ!」
小さく背中を叩かれ、私は一歩あるき始めていた。
改めて周りを見ると色々な方がいた。
高校の友達。健太のバイト先でお世話になった人。
「――っ」
私の腕の方に温かい。健太とは違う安心できる感覚があった。
そっちの方を見てみるとぼんやりと人の形をしているが私にはわかった。
「……パパ」
私のパパも駆けつけてくれたんだ。
『――っ!』
私がお父さんと言った瞬間。泣いている。そんな風にも見える。
『少しで良いからお父さんらしいことをさせてくれないか?』
「うん」
『……ありがとう。アリス』
そのまま私たちは健太の方に一歩ずつ歩いていく。
「アリス……」
そして健太が出迎えてくれた。
「うん。健太くん」
私は健太の手を取った。
するとパパが声をかけてきた。
『ありがとうアリス。アリスの婿姿を見れて幸せだよ』
「――っ!」
パパ!
振り返るとパパの姿がなかった。
『いつでもそばにいるよ』
「……うん」
そば居てくれる。そう言われただけで嬉しかった。
「……アリス?」
健太が首を傾げていた。
「うん。健太くん座ろ」
「あぁ」
主催席に席に着いた。
「……あっ」
席に座ると思った以上にみんなの顔がよく見える。
「凄いね健太くん。皆の顔が見える」
「……本当だな」
横顔を見てみると健太の方も驚いていた。
「………っ。――え?」
思わず声が出てしまった。
それは親戚のおじさんとおばさんが居たからだった。
私の反応に気づいたようでおばさんが手を振ってくれた。
「どうしたアリス?」
健太がこっちに顔を近づけて耳元で話をしてくれた。
「……イギリスで住んでいるはずのおばさんたちがここにいる」
「え?」
健太が周りを見渡していた。
「あの人たちがアリスの親戚で良いのか?」
「うん」
「……そっかきっとアリスを祝福するために来たんだよ」
「……うん」
驚いたけど、健太の言う通り祝福をしにわざわざ日本に来てくれたんだって思ったら嬉しかった。
「……ねぇ健太くん。もう一つ信じられないことを言ってもいい?」
「んっ?」
健太がこっちの方を向いてくれた。
「ママとパパがいた気がした」
「えっ?」
「……うん」
「そっか」
健太が頷いてくれた。
「アリスのところに来てくれたんだな。良かったな」
「――うん」
私のことを信じてくれる健太は物凄く嬉しかった。
◇
多分みんなが見えないところで、誰も知られないもうこの世界ではいない世界の住人だ。
親戚や、アリスの友達。色々なひとに顔を見せても気づかない。……けど、一人だけ違う。
それは自分と同じようにこの世に未練を残してしまった自分の唯一で最愛な人だ。
『どうだったあなた? アリスのウエディングドレスを見れた感想は』
『あぁ……良かったよ』
妻もやっぱりアリスのことが気になってしまい。未練の世界に舞い戻ってしまった。
『それにしても可愛い娘のアリスと自分の妹の甥っ子の健太くんと結婚するなんてな』
『あら不満?』
『少しは……お酒を酌み交わしながら飲めなかったのは不満だったかな。ママはやっぱりあるのかい?』
『……そうね。私はアリスの手料理は食べたかったわ』
『そうだね。それだけはやっぱり……悔しかった』
あっという間に喋っていたら式がどんどん進んでいき指輪の交換になっていた。
『まあ、次はキスね!』
ママが嬉しそうに喜んでいて誓いのキスでアリスと健太がキスをしていた。
『……』
娘が甥っ子とキスをしている。となると何とも言えないけど……。それよりも。
『今はアリスが幸せそうな顔を見れただけで満足かな』
『……そうね』
娘がこれ以上にない幸せな顔をしていたと同時に。アリスが初めて生まれた日。あの時と同じぐらいに幸せな気持ちが溢れていた。
『そっか……アリスが選んだ相手ならなにも言うことはないな』
これから苦労があるかもしれないけど可愛い娘のアリスに祝福を。
『I want you to be happy』
◇
『それでは続きまして、新郎新婦様よりお言葉をお願いします。それでは新郎様の方からお願いします』
司会者から私たちにバトンを流されてまずは健太からいうことになった。
「えっ⁉ あっはい。……えっとこのたびは自分とアリスのために来て下さり本当にありがとございます。彼女とはこうして結婚するなんて本当に幸せです……。大事にします。……これで私の言葉は以上にさせていただきます」
健太がお辞儀をした瞬間。色んな方が拍手をしていた。
『では続きまして新婦様お願いいたします』
「はい!」
思わず声が裏返ってしまった。
「大丈夫かアリス?」
そっと健太がマイクを渡すと同時に声をかけてくれた。
「……大丈夫かアリス」
「うん。ありがとう健太くん」
私は持っていた手紙を開き手紙を読み始めた。
「……みなさま。私たちの結婚式に参加をしていただき本当にありがとうございます。私と彼と会ったのは小さい頃でした。彼と遊んで友達のようにまた遊びたいとそう思って彼のことはずっと思っていました。
それから中学になって私は彼の家にホームステイという形で住むことになりました。
けど、そのある日私の両親が亡くなってしまった。悲しかった時に彼が家族になってくれる。そう言ってくれたことは今でも感謝で胸がいっぱいです。
私たちは高校生になり。私は彼に告白をし。恋人になって今、こうして結婚なんていう夢のようなことが起きました……」
今は、ただ嬉しいって気持ちだけが溢れていて涙が気づいたら出ていた。
「本当に私たちの結婚式に来てくださり本当にありがとう、……ほんとうにありがとうございます」
感謝の気持ちでいっぱいで私はみんなに対して頭を下げた。
「……――っ!」
頭を上げた瞬間。不思議なことがあった。
「……」
パパ、ママ。
涙を流している私の両親がその場にいて手を繋いでいた。
「……私も両親みたいな幸せな家庭を気づけるように頑張っていきたいです。私の言葉は以上とさせていただきます。本当にありがとうございました」
……パチパチ。
パチパチッ!
小さい握手からどんどんと大きい拍手になっていって会場に拍手が響き渡った。
「――っ! 嬉しい」
「……良かったなアリス」
「うん」
その後進行も続き。結婚式は無事に終了した。
◇
『おめでとうございますエルガードさん。アニメのおかげで売り上げが向上しています!』
「ありがとうございます……」
『それではまた、漫画が完成したら連絡をください!』
「はい。ありがとうございます」
私は担当さんの電話を切った。
「……私の漫画でアニメがやるなんて」
高校を卒業と同時に私は漫画を投稿し、25歳の時にアニメが放送をすることになり。
今も私の漫画がアニメで放送をしているらしい。ちょっと実感はわかないけどルナと同じ世界に立っているんだと思うと嬉しく感じる。
部屋の隅に置いてある額縁に飾ってあるパパとママの写真を手に取った。
この作家名は絶対に私の大切な苗字に使おうと思っていたから担当さんにお願いをしてこの名前でやらせてもらっていた。
「……やったよパパ、ママ。私の漫画、アニメになったよ」
不思議な気持ちで今にでも見て応援してくれているそんな気持ちだった。
「ねぇママ、パパ。私と健太との間に………」
続きは言いたいと思っていたけど今、なんだか見せたいと思った。
「……私と彼との宝物を見せてあげたいから少し待ってて」
私は動けるような格好に着替えて玄関の靴を履いた。
「……じゃあ行ってきます」
『いってらっしゃいアリス』
『あぁ、いってらっしゃい。アリス』
「――っ!」
懐かしいしくそして安心する声。……やっぱり聞き間違えじゃなかった。
「……うん。行ってきますパパ、ママ」
私は玄関の扉を開け。素敵な人に会いに向かった。
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