高校生 四章 告白

バイト

 祭りが終わり。昼休みの午後。ケンは学校の自動販売機の隣にあるベンチ座り込み、頭を抱えていた。

 まさか茉莉奈さんが……。

 ソウスケが近づいてきたのに全く気が付かなかった。

「おーい。ケン」

 俺のことを好きだってまさか……。

「ケン。聞いてっか?」

 ソウスケが目の前で手を振っていてようやく存在が認識できた。

「どうしたソウスケ」

「ケンがボーとしてるから生きてんのかなって」

「あー」

 頭が回らなく無意識に動いている状態だ。

「まあちょっとな。女の子から告白を受けてな」

「……おぃ。おぃ、おぃマジかよ。ようやくケンにも春が来たってことかよ」

 ソウスケがツンツンと突っついてきた。

「違うって。それに俺はアリスがいるから無理だって断ったよ」

 するとソウスケが首を傾げていた。

「あれ? アリスじゃないのか?」

「なんでアリスが出てくるんだよ」

「え、あー…………ほら、アリスって美人でケンと一緒に暮らしているだろ? だったらお似合いじゃないかって」

 なにを言ってんだコイツは……。

 もうため息が出てしまうほど呆れてしまう。

「アリスは妹だ。一緒に住んでいても家族だってことは知ってるだろうが」

「そんなにムキになるなって。悪かったって。告白がどうした?」

「その人にアリスがいるから無理だって伝えたんだ。でも……」

「でも? どうした」

「知っている子からの告白を断ってしまったのが本当に良かったのか心配になってきて」

 バイトの時、接したらいいのか分からない。それで彼女がやめてしまうかもしれないし。気まずさがある。

 ふざけていたソウスケの顔もどんどん真剣になって隣に座った。

「そっか。だったら付き合ったらよかったんじゃないか?」

「……今、中学の時にアリスが落ち込む過ぎて暗くて泣いているアリスを見て。兄になってやるって決めていたことだから。それで今、アリスから離れたら笑顔がなくなるんじゃないかってな」

 ソウスケはグッと握っていた。

「そっか……。そうだよな。アリスがいじめられて。さらに家族が急に亡くなっただもんな。色々と辛いよな」

「あぁ……だから。俺は今年だけでもアリスを色んな場所に連れてってやりたい」

「だったら答えがでているじゃないかよ。ケンが断った理由がそれなら。それが答えだ」

 それが答え、か……。

 ソウスケは同情なのかジュースを新しく買って俺に渡してきた。

「じゃあ頑張れよ」

「ありがと……」

 ソウスケは手を振ってその場を去って行った。

 本当にいい友人を持ったな……。

「そうだな。アリスのために今、出来る事をやろう! アリスを沢山連れてって笑顔にする! それだけだ」

 茉莉奈さんには悪いがこれが俺の答えだ。

「よし! やるぞ」

 空に向かってガッツポーズを決めた。


 放課後。ケンはいつもの喫茶店に向かい扉をあけた。

「あら、いらっしゃい健太ちゃん」

「こんにちはマスター」

「マスターじゃなくて。カ、ヲ、ルさんっていつも呼んでって言っているでしょ」

 そう言ってマスターはクネクネと動いていた。

「すいません。カヲルさんそれで話が……。他にもバイトをさせてください!」

 するとマスターのいつもの視線がガラリと変わって冷たい感じになっていった。

「どうしてなの? 健太ちゃん」

「妹を沢山の場所に連れてってあげたいんです。それでお金が沢山欲しんです! ですから他のバイトを紹介してください」

 するとマスターがポカンと拍子抜けされた顔になっていた。

「あら? ここが嫌になったわけじゃないの?」

「いいえ。楽しいですよ。嫌になる訳ないじゃないですか。妹を他の場所を沢山連れて笑顔にしたいという。ただの欲だけですけど……」

「なら良かったわ。嫌いになってなくて」

 マスターが店の奥に向かって行った。

「それだったら良いわよ。あまり無理しないで頂戴ね」

「はい!」

 帰り際ケンは茉莉奈を待っていた。

「健太さん。どうしたんですかこんな、所に立って……」

「俺、茉莉奈さんにどうしても言わなくちゃいけないことがあって」

「私にですか?」

 ケンは頷いた。

「両親を亡くしたアリスをどうしても放って置けないんだ!」

「え? 両親を亡くした?」

 茉莉奈があたふたをしていた。

「そう、今。アリスのそばで離れてしまうとアリスが悲しい顔をしてしまうかもしれないんだ。だから――」

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 茉莉奈が止めに入った。

「え? アリスさんが両親をってどうゆう……」

「アリスが帰ろうとした時。空き巣に入られてそのまま二人ともなくなってしまったんだ。おじさんが亡くなったて俺も信じられなかったが一番つらかったのはアリスなんだ。だから俺は兄になってアリスを絶対に笑顔にするって決めたんだ」

「そう、だったんですか……。それでアリスさんを笑顔にするって決めていたんですか……」

「だから、茉莉奈さん。返事は本当にごめん」

 頭を下げると茉莉奈が首を振っていた。

「いいえ! 事情を知らなかった私が悪かったんです! 本当にごめんなさい」

 そして茉莉奈も頭を下げた。

「それを聞いて納得は出来ました。頑張ってくださいね。健太さん」

「ありがとう……」

 二人とも頭を上げ握手をした。

「それじゃあ。聞いてくれてありがとね。茉莉奈さん」

 ケンはそのままアリスの待つ家に帰って行った。


 ケンの帰る背中を見て茉莉奈はケンに対してガッツポーズを決めていた。

「頑張ってください健太さん」

 そんな誰かの笑顔のために頑張れる強い背中を見て。この失恋は叶わないけど応援をする気力が増してる。

「頑張れ……」

 茉莉奈も自分の家に向かって帰るのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る