義理の兄に恋をした

香月 咲乃

 義理の兄に恋をした


「ただいまー!」

「りょうちゃん、おかえ……り」


 妹のひまりは、嬉しそうに学校から帰ってきた義兄の涼太を出迎えた。

 しかし、すぐに顔を曇らせる。


「誰?」


 ひまりは後ろにいた女子高生を見て戸惑っていた。

 涼太と同じ高校の制服を着ていた。

 ひまりよりもずっと大人っぽくて色気がある。


「ひまり、紹介するよ。俺の彼女の早希」

「はじめましてー。早希でーす。妹さん、涼太が言ってた通り可愛いね」

「だろ? 俺の自慢のだから」


 ひまりはその言葉を聞いて胸が締め付けられる。


「へー……彼女なんだ。いつから付き合ってるの?」


 質問したひまりの声のトーンは、かなり下がっていた。


「1週間前かな」

「そうそう、私から告ったんだよねー」


 ——なんでこの子なの?


 2人が玄関で楽しそうに会話する様子に、ひまりは我慢できなくなった。


「勝手に彼女なんて連れてこないでよね。小テスト近いのに……うるさくて勉強できないじゃない!」


 ひまりはそう言い捨て、階段を駆け上がった。


「ひまり!」


 涼太は慌てて呼び止めようとしたが、ひまりは大きな音を立てて自分の部屋の扉を閉めた。


「悪いな……」

「気にしないで。家に行きたいって言ったのは私だし。今日は親がいないっていうから、つい」


 早希は意味ありげな笑みを浮かべる。


「まあ、静かにしてれば大丈夫だと思う。部屋に行こ」

「うん」


 早希は涼太の腕に寄り添い、大きな胸を押し当てた。




 ひまりの部屋。


 隣の涼太の部屋から2人の話し声が聞こえ、ひまりは落胆する。


 ——なんで彼女を部屋に連れ込むの!? 私のりょうちゃんの部屋に!


 机に向かっていたひまりは勉強に集中できず、隣の部屋の物音に聞き耳を立ててしまっていた。

 しばらくして、涼太の部屋から早希の艶のある声が届く。


 ——嘘!? やだ!


 ひまりは慌ててベッド横の壁に耳を当てる。

 すると、ベッドの軋む音や早希の喘ぎ声が頻繁に聞こえてきた。


 ——やだ! こんなの聞きたくない!


 ひまりは泣きながら布団に潜り込み、手で耳を抑えた。





「お邪魔しましたー!」


 2時間ほどが経った頃、早希の声が聞こえた。


 ——やっと帰った……。


 ベッドでずっと泣き続けていたひまりは、ホッと息をつく。


 しばらくして、部屋の扉をノックする音が。


『——ひまり? ごはん用意するけど、もう食べられるか?』

「……うん」


 ひまりは起き上がり、涙を拭きながら答えた。


『じゃあ、30分後くらいには下に来いよー』


 涼太はそう言うと、階段を降りていった。


 ひまりは鏡の前に立ち、自分の顔を覗き込む。


 ——ひどい顔。泣いたのバレるかな……。でも、いいや。りょうちゃんが傷つけたんだもん。


 ひまりは洗面台で顔を洗った後、ダイニングルームへ向かった。





 ダイニングルーム。


 ひまりの顔を見た涼太は驚いてひまりに駆け寄る。


「ひまり! どうした!? 何か学校であったのか? さっき様子がおかしかったし……」

「もう、過保護。そんなに心配なら、彼女なんて連れてこないでよ!」


 ひまりは目を触ろうとしていた涼太の手を振り払った。

 涼太は動揺する。


「どうしたんだ?」

「パパもママもいないからって、隣の部屋でいやらしいことしないでよ! りょうちゃん不潔だよ!」

「……ごめん」


 涼太はひどく傷ついた表情を浮かべる。

 ひまりは怒りが収まらず、荒々しく椅子に座った。


 その後、涼太は無言のままサラダとカレーをテーブルに置いた。

 食欲のないひまりだったが、ずっと傷ついた表情をしていた涼太が可哀想になり、仕方なく食べ始める。

 涼太はずっと仏頂面のひまりをチラチラ見ていた。


「りょうちゃん、なんで彼女作ったの?」

「え……告白されたから」

「好きなの?」

「わからない……」


 ひまりの怒りは再び上昇する。


「は? 好きでもない人といやらしいことするんだ! 不潔だよ!」

「違うんだ! 早希が無理やりしてきたから……」


 ひまりはショックを受け、涙をぽろぽろとこぼす。


「そんなの聞きたくない!」

「ひまり……」


 涼太は慌てて立ち上がり、ひまりを抱きしめる。


「触らないで!」


 ひまりは涼太を突き放す。


「ごめん……」

「なんで謝ってばかりなの? 謝るくらいなら、私をりょうちゃんの彼女にしてよ!」

「ひまり……?」

「私はりょうちゃんのこと兄だって思ったことないもん! ずっと好きだった! りょうちゃんの隣にいていいのは、私だけだもん!」


 ひまりは泣きながら涼太に告白した。


「それ、本当か?」

「うん……」


 涼太はひまりを強く抱きしめた。


「俺だってずっと……ひまりが好きだった。でも、兄妹だし……」

「うそ……」

「本当だよ。最近、ひまりがすげー可愛くなって、見てられなかった。俺のものにしたいってずっと考えてしまうから……。ひまりに嫌われるのが怖かったから、諦めようとしてたんだ」

「だから彼女作ったの? あんなことまで?」

「そう。ずっとひまりだと思ってしてた」


 2人は互いを愛おしそうに見つめ合う。


「それ聞いたら許しちゃうよ……」

「嫌な思いをさせてごめんな」

「もう早希さんと別れてくれる?」

「あたりまえだろ。だって、ひまりが1番大切で、1番好きだから」

「私も……りょうちゃんが大好き」


 想いを通じ合った2人は、唇を重ねた。





 食事の途中だったが、2人はひまりの部屋に移動していた。

 我慢していた思いを吐き出すように、唇を合わせ続ける。

 感情が高ぶりすぎた2人の息は少し荒い。


「——ひまり、本当にいいのか? 俺はひまりを大切にしたいから、我慢できるぞ」

「大丈夫。本当の私がいいでしょ?」


 ひまりは早く早希を忘れてもらい、涼太を自分だけで満たしたかった。


「うん。ひまりの全部がほしい」


 涼太はひまりを優しくベッドに寝かせ、覆いかぶさる。


「ひまり……」

「りょう……ちゃん……」


 ひまりは涼太で満たされ、最高の幸せを感じていた。



***



 数週間後。


「——あ、ママ、私が食器洗うよ。先にお風呂はいったら?」


 ひまりがキッチンへ行こうとすると、涼太も立ち上がった。


「俺も手伝うよ」

「ありがとう、2人とも。最近よく手伝ってくれて助かるわ〜。お言葉に甘えてお風呂はいってくるわね」


 母親はダイニングルームから出て行った。


 ひまりと涼太はキッチンに2人きりに。

 シャワーの音が聞こえたことを確認し、涼太はひまりに抱きつく。


「やっとひまりに触れた〜」

「昨日は一緒に寝たでしょ?」

「えー、学校行ってる間ひまりに会えなかったもん」


 涼太はすねて唇を突き出した。


「もう……」


 ひまりはそんな涼太が愛おしくてキスをした。


「じゃあ、キスのお礼にひまりが食器洗い終わるまで俺はこうしてるよ」


 涼太はひまりの耳や首筋にキスを始める。

 敏感なひまりは体をビクつかせる。


「もう、それだと洗えないよ〜」

「じゃあやめる?」


 ひまりは顔を赤くしながら頬を膨らませる。


「もう、いじわる」

「それは、やめてほしくないってことでいいの?」


 涼太はひまりの顔を覗き込んだ。


「うん……」

 

 ひまりは目を泳がせながら答えた。

 涼太は満面の笑みを浮かべる。


「じゃあ、こことかはどうかな……」

「ちょっ……」


 ひまりは目をとろんとさせ、食器を洗うどころではなくなった。


 END


 


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