第47話:魔剣の魔王は、ようやく本気を出す?

「さあ、私は名乗りましたよ、フォッフォッフォッ。これでいいですかな? それではそろそろ、あなた方の命を奪い、そのエネルギーをいただくとしますかな」


 強大な魔力を持つ魔族の男。

 そいつがそんな恐ろしいセリフを吐いた。


 ──俺たちの命を奪う?


「魔族は人間の命を、エネルギーとして取り込むと言うのか……」


『ああ、そうだ』


 ──な、なんだってぇーっ!?


 魔族ってそんな怖い存在なのかっ!?


「……ということは、ぴ、ピースも俺たちの命を……?」


『それも可能だが、私はそんなことはしない』


 ──か……可能なんだ……

 怖すぎる……


 ピースは、そんなことはしないと言ってるけど……

 本気で怒らせたら、命のエネルギーを奪われる可能性もあるってことか。



『そんなことよりもアディ。敵から集中を切らすな』


 確かにピースの言う通りだ。

 剣を握れないキャティと、まだまだ弱い俺。

 今は思いっきりヤバい状況だ。


 でも俺は、この状況をなんとかしなきゃならないんだ。


『私を……いや、魔剣の力を信じろ』


「そうだな。ピースの魔剣のおかげで、さっきは強い魔物を倒せたんだからな」


『アディ、一つだけ言っておく。さっきまでは私はあえて力を抑えて、ほとんど私の魔力は使っていない。あれは君の実力だ』


「へっ……?」


 俺の実力……って、どういうこと?


『来るぞ、アディ! 気を抜くな!』


 ザギルと名乗った魔族の男が、身体の前で両手のひらを合わせた。

 まるで拝むようなスタイル。


 ザギルが合わせた手のひらを少し開くと、手のひらの間に眩い光が現れた。


 そしてそれが左右の手の間で、ボールのように丸くなる。


『アディ、横に避けろ』


「ハァッ!!」

 

 ザギルが叫ぶと、手の間の光が、すごい勢いでこちらに飛んできた。


 ──ヤバい! 当たる!!


 横に動いた状態でも、光の攻撃が当たりそうだ!

 慌ててさらに身体を横に傾け、避ける。


 その光は、俺の肩をかすめるようにして、後方に飛んでいく。


 後ろから『バシィィッッ』という衝撃音が鳴り響いた。


 振り向くと、大木の幹が途中で裂けて倒れている。


 ──危なかった。


 さすが魔王直属の部下魔人の攻撃力はハンパなく凄い。


 あんなのが少しでも身体に当たっていたら、ひとたまりもない。

 ピースが先に、避けろと言ってくれたおかげだ。


 あれはいかづち系の攻撃魔法か。


「ほぉほぉ、避けましたか。なかなかやりますねぇ」


『アディ、何をやってる。攻めろ!』


 ──そうだ。ホッとしている場合じゃない。

 

 俺は地面を蹴って、魔族の男に向かって走る。

 そして両手で魔剣を振りかぶり、横に大きく振るっ!


「そんなの無駄、無駄、無駄ですよぉー」


 ザギルは腕を顔の前に出して、俺の剣を防いだ。

 ガキンと音が鳴り、剣が跳ね飛ばされる。


 ──なんと固い腕だ……


「フフフ、効きませんねぇ、そんなのじゃ」


 魔族の男はニヤッと笑ってる。

 ダメージはゼロか……


 この魔剣を使ってもダメージを与えられないなんて。

 自分の非力さがほとほと嫌になる、



『ヤツは腕に強化魔法をかけてるな。私も本気を出すぞ。もう一度斬りかかれ、アディ』


 ──え?


 ピースはまだ本気を出していない?

 本気を出したらどうなるんだ?


『行けっ、アディっ!』


 ピースの声と共に、俺は地面を蹴って、ヤツに飛びかかった。

 右手に握る剣から、凄い力が溢れ出すのを感じる。


 確かにピースが、今まで本気を出していないというのは、本当のような気がする。


 ザギルまではまだ少し距離があるが、ピースが『振れっ!』と声を出した。


 再び剣を横に一閃する!


 しかしザギルが飛び上がって、俺の剣を避ける。

 剣はザギルの足の下で空を切った。


 ──くそっ、避けられた!


 剣を振ることで生じた衝撃波が、ザギルの足の下を抜けて後ろまで飛んでいく。

 その衝撃波は後方の大木を直撃した。


 バギャァァァァンと激しい音を立てて、大木は幹の途中で裂けて倒れた。

 振り返ってその様子を見たザギルが、「お前……何者?」と呟いて、俺の顔を見る。


「へっ……?」


 ──いや、驚いたのは俺の方だ。


 剣を振った衝撃波だけで、この威力?

 ピースが本気を出したらこうなるの?


 す……すげぇよピースっ!!

 これならなんとかなるかも……


 少し希望が見えた気がした。

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