第48話:希望が見えたはずの俺は、ピンチに陥る

 剣は相手に当たらなかったが、剣を振った衝撃波が後ろの大木を破壊した。


 これがピースの本気か?

 これならなんとか、魔神を相手にできるかもしれない。


 少し希望が見えた気がした。


「ほおほお。あなた、相当腕の立つ冒険者のようですね。面白い」


 いや、面白いとか言わないでほしい。

 魔人のヤツ、まだ余裕があるって言うのか?


 ──だけどアイツ。

 そうは言いながらも、じりじりと後ずさりして距離を開けようとしている。


 この剣の威力を目の当たりにして、あの凄い攻撃力と防御力を持つ魔人ですら警戒しているんだ。


 これはホントに……いけるかも。


「頼むぞ、ピース……」


『ああ、もちろんだ』


 俺はぎゅっと魔剣のグリップを握りしめる。


 ──大丈夫だ。


 俺自身もトレーニングでかなりスピードアップできた。

 そしてこの魔剣の破壊力。

 これがあれば、きっとヤツに勝てる。

 そう信じて戦おう。


 魔人はまた顔の前で、両手を合わせて拝むような動作を始めた。

 そして少し手のひらを離すと、両手の間に光の玉が現れる。


 ──また雷系の攻撃魔法か?


 あれは強大な攻撃力を持つが、軌道はストレートだ。

 よける方向と出足を間違わなければ、さっきのようによけられるはずだ。


 ──ん?


 魔人の手のひらの間に出現した光の玉。

 さっきの雷魔法とは少し色が違う。

 今度はなんの魔法だ?


「はぁぁぁっ!!!!」


 ザギルが叫ぶと、手の間の光の玉が、こちらに向かって飛んできた。

 俺は横っ飛びでそれをよける。


 今度もうまくよけられた……


 そう思ったのもつかの間。

 ザギルが両手をぐいっと捻じ曲げると、飛んで来る光の玉の軌道が変わる。


 これは……今まで見たことのない魔法だ

 やばいっ!


 光の玉は俺の顔に向かってくる!


『アディ! 剣で防げっ!!』


 ピースの声が聞こえて、俺は右手を前に出す。

 光の玉に向けて剣を振った。


 光の玉に魔剣が当たった瞬間、ガツンと大きな衝撃が右腕に響く。

 体はその衝撃で後ろに飛ばされる。


 光は剣のところで二つに裂け、左右に分かれて俺の後方へと飛んで行った。


 しかし同時に、魔剣が俺の手から弾き飛ばされ、体は後ろに背中から打ち付けれる!


 ──しまった!

 攻撃の衝撃に、俺の握力が耐え切れなかった!


 ピースを内包した魔剣は、少し離れたところまで飛ばされている。

 早く拾わなきゃ、素手であの魔族に勝てるわけがない!!


 立ち上がろうとした瞬間、胸の上にドンと重みを感じた。

 ザギルが俺の胸の上に馬乗りになって、見下ろしている。


 見た目はそんなに大きいわけじゃないがザギルの体重は重く、体をよじってもヤツはびくともしない。


「くっくっく……これで、勝負はつきましたね……この距離だと、あなたも攻撃魔法を避けようがないですよ」


 ザギルは醜く顔を歪めて、口角を上げてニヤついている。

 ムカつく笑いだ。


「くそっ!」


 しかしザギルの言うことを否定できない。

 胸の上に馬乗りにされたこの近距離では、いくらスピードがあっても逃げられない。

 そして俺の手にあった魔剣は……今は手の届かないところまで弾き飛ばされている。


「さあ、もっと恐怖に歪んだ顔を見せてくださいよぉ。私は、人が恐怖に歪む顔が大好きなんですよぉ」



 ──ピース、助けて……


 いや、ダメだ。

 サタッド王の配下であろうこの魔人に、ピースの姿を見せるべきではない。

 例え俺が命を落とそうと、ピースが姿を現すべきではないんだ。


 トレーニングの時にピースに叱られた言葉を思い出した。



『こらっ、アディ! 他人に助けを求めるなっ! 戦闘でいざとなっても、貴様は他人に助けを求めるのかっ!?』

『他人に助けを求めるんじゃなくて、貴様が他人を助けられるようにならないとダメだろう!』



 そうだよ。

 俺は、また他人に助けを求めようとしてしまった。

 ピースに教えられたことを、俺は全然わかっていなかったよ。


 もうそんな情けないことを考えるのはやめだ。

 俺がピースやキャティに助けてもらうんじゃない。

 俺がピースやキャティを助けるんだ。


 自分でなんとかしなきゃいけない。

 だけど、どうしたらいい?

 どうしたらいいんだ……?

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