第46話:女剣士と女魔王は、なぜだか仲が悪い?

 極めて強い魔力を持つ魔族がこの辺りにいる。

 ピースはソイツを探し出そうなんて言い出した。


 しかしそれは危険すぎる。

 いったい、どうしたらいいんだ?


「あっ、そうだピース。お前の魔力で、帰る方向を見定められないのか?」


『……』


 しばらくピースは無言だった。

 何を考えているのか?

 ピースの魔力でも方向を感知するのは難しいのか?


『ああ、できる。できるが、この剣の中に居ては無理だ。外に出てもいいなら、方向を探ってみよう』


「そうか、わかった」


「ちょっと待て、アディ! ダメだ! こんな所で魔王を表に出したら、コイツは何をしでかすかわからない!」


 キャティが慌てた声を上げた。


『ほお。やっぱり私は、キャティには信用されてないんだな』


「当たり前だ。この辺りに潜んでる魔族は、お前の仲間かもしれないし、そうでなくても逃げ出すかもしれない」


『何をバカなことを。こんな邪悪な魔力を放出する者が、私の仲間であるはずがない。それに逃げ出すつもりなら、とっくに逃げている。今は剣は二つに分かれていないのだからな』


 ピースの言う通りだ。

 剣を分離していない今は、ピースは自分の意思で表に出られる。


 しかしキャティは冷ややかに反論した。


「どうだかな。そんなフリをして、私達を全滅させる機会を窺ってるのかもしれん。アディ。こんな女の言うことは、信用してはいけないぞ」


『こんな女とはなんだ! アディ! キャティこそ……こんな疑り深い女の言うことを信じるなよ』


「疑り深い深い女? 私は慎重なだけだ、この邪悪女」


『邪悪女だとー!? お前こそ……』


「いや、待て待て二人とも! ケンカしないでくれ! 今はそんな場合じゃない!」


「あ、ああ。そうだな、アディ。私としたことが…… 冷静さを失っていた」


 そうだよ。

 いつもクールなキャティがどうしたんだ?


『あ、キャティのヤツめ。急に素直なフリをしやがって……』


「ん? なんだって?」


『いや、なんでもない。あ……アディ。私こそ、つまらぬことで言い合って悪かった』


「あ、ああ。二人とも、わかってくれたらいいんだ……」


 それにしても、キャティとピースは仲が悪いよなぁ。


 なんでだろ?

 性格が合わないんだろうか?


 まあ二人とも、気が強そうだもんなぁ。


 そんなことを考えていたら、突然低くて禍々しい声が辺りに響いた。


『ほぉほお。こんな所に、美味しそうな人間がいるじゃないかぁ。フォッフォッフォッ』


 目の前の空気が蜃気楼のようにゆらっと揺れる。


 ──なんだかヤバそうな雰囲気だ。

 こちらから探しに行くまでもなく、俺たちが見つかってしまったようだ……


 そして徐々に輪郭がハッキリして、全身真っ黒なマントを羽織った男が現れた。


 ソイツは今まで見たこともないような、邪悪な顔つきをしていた。


 頬がこけたどす黒い顔に、細くて吊り上がった鋭い目。


 そう。まるで死神のような陰気な顔つき。

 顔を見るだけで、ブルっと背筋が震えた。


「なんだ、お前は?」


「フォッフォッフォッ、あなた方に名乗る必要がありますかな? 私は魔王直轄の部下、ザギル」


 ──いや、名乗ってるじゃん。

 案外素直なのか、自己顕示欲が強いのか。


 ふざけたような態度だが、身体から発せられてる魔力は相当強大だ。

 あまり魔力が強くない俺でも充分わかるくらい。


 だからコイツにとっては俺たちなんて、敵として眼中にもないのだろう。


 正直、怖くて足が震える。

 チラと横のキャティを見ると、さすがの彼女も青ざめている。


『アディ、ヤツはサタッド王の配下だ。予定変更して、私は剣の外には出ない。万が一ヤツを取り逃して、私の存在がサタッドに知られたらマズい』


 万が一取り逃すって……


 あんな強そうな魔族を倒せるなんて、そっちの方が確率が低いだろ。


 ──でも確かに。


 サタッド王はピースに恋い焦がれて、落ち込んでいたと聞いた。


 もしもピースが見つかって、しかも人間の手の中にあると知れたら。

 ヤツは全力でピースを奪いに来るだろう。


 そうなれば、俺たちにとってかなり危険な状況になる。


 ここは──


 ピースには剣の中に、ずっといてもらった上で、あの魔族と対峙しないといけないということか。


 しかし相手はSS難度。


 ──これは、ホントにヤバい。


 ザギルと名乗った魔族の男は、唇の端を吊り上げて、陰気な顔でニヤニヤと笑っている。


「さあ、私は名乗りましたよ、フォッフォッフォ。これでいいですかな? それではそろそろ、あなた方の命を奪い、そのエネルギーをいただくとしますかな」


 強大な魔力を持つ魔族の男。

 そいつの吐いたセリフは、極めて恐ろしいものだった。

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