第45話:赤毛のクールな剣士は、なぜか道に迷う

 ピースの提言に従って、俺たちはまた森の中を歩き回った。


 今日は既に、C難度の魔物を3体、B難度の魔物を1体、俺一人の力で倒している。

 ピース魔剣の力のおかげとは言え、これは俺にとって、少しは自信となっている。

 そしてこれまでのトレーニングと異なり、実戦の経験値も少しは増えた。


 この経験値は、数多く積み重ねることで自分の実力が上がっていくのだが、より強い魔物を倒したほうが、より多く経験値が上がる。


 だから実戦で経験を積むことは、なにより大切なのだ。


 俺は自分にそう言い聞かせながら、歩いていた。

 すると突然、先導して歩いてくれていたキャティが、はたと立ち止まった。


「ん? どうした、キャティ?」


「アディ、すまぬ」


「なぜ突然、謝るんだ?」


「道に迷ってしまったようだ」


「へっ?」


 この森は、あまり奥に入り込みすぎると、危険な未開の地だ。

 だがこの辺りなら、ジグリットの家からそんなに遠くは離れていないはずだけど……


「もしかして、森の奥まで来過ぎてしまったのか?」


「いや……そんなはずはないのだが……」


 キャティはキョロキョロと辺りを見回す。

 同じような木々がたくさん立っているだけなので、俺にはさっぱりわからない。


「この辺りは何度か来たことがあるんだ。だけどなぜか、見覚えのない所に来てしまっている」


「じゃあ、引き返そうよ、キャティ」


「そうだな」


 俺たちは踵を返して、今来た道を逆に歩き出す。


 しかし、しばらく歩いていたら、またキャティは──


「すまんアディ。方向がわからなくなってきた。家の方に向かっているのか、逆に森の奥へと進んでいるのか……自信がない」


「えっ?」


 ──キャティって、方向音痴なのか?


「いつもはこんなことはないのだが……道に迷うなんて初めてだ。ホントにすまん、アディ」


「あ、いや。気にすんなよキャティ。俺なんて、もっとわかってないし。どこら辺にいるのか、さっぱりわからん」


 そう言ってキャティを励ましたものの。

 もしも間違って、森の最深エリアになんか足を踏み入れだら、それは洒落にならない。


 A難度や、下手したらS難度以上の魔物がいるかもしれない。


 この奥の森は未開の地で、どんな魔物が棲みついているのか、よくわかっていないのだ。


「と……とにかく、先に進んでみようよキャティ」


「いや……それはマズいよアディ。間違った方向に進んだらエラいことになる」


「でもこのままここで、じっとしてる訳にもいかないし……」


「そうだな……」


 俺とキャティが途方に暮れていたら、剣の中からボソッとピースの声が聞こえた。


『あやかしの魔力……』


「……ん? なんだって?」


『あやかしの魔力だ。その魔力の有効範囲内に入った者の、空間認知能力を歪める。邪悪な魔の力を感じるぞ。これは、魔族が近くにいるな』


「ま、魔族だってぇー!?」


『ああ。しかも結構強力なヤツだ』


 今まで魔物には出会ったことはあるが……


「本物の魔族なんて、俺は見たことがない」


『何を言ってるんだアディ。私は魔族だ』


 ──あ、そうだった。


 そう言えばピースは魔族も魔族、魔族の王だった。


 割と間抜けな部分とかも目にしたし、そう悪いヤツじゃないと思っているから、ピースが魔族だということをすっかり忘れてた。


「ど、どうすればいいんだ、ピース?」


『そうだな。ソイツを探し出そう』


「探し出すっ!?」


『ああ。どんなヤツなのか、私も知りたい』


 ピースの言葉に、キャティは即座に反論する。


「ちょっと待ってくれピース。危険すぎる! 魔族は強いのだろう?」


『そうだな。この魔力の感じだと……ファイアドラゴンよりも少し強い程度か』


 なんだって!?

 S難度のファイアドラゴンよりも、まだ強いだと!?


 ということは、SS難度の敵ということだ。


『まあ私は剣に封印されてるせいで、正確に感知できてない。だから少し誤差はあるかもしれないが……』


 いずれにしても、とんでもなく強い相手だということは確かだ。


「そんなのダメだ、ピース。キャティはまだ剣がしっかり握れない状態だし、魔族になんか出会ったら、俺たちはひとたまりもない」


「そうだぞピース。無茶を言うな!」


 キャティも猛反対だ。

 当然だ。


 だが今のままでは、帰るべき方向がわからない。

 このまま適当に歩くのも危険だ。


 いったい──どうしたらいいんだ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る