第42話:俺と赤毛の剣士は、互いに成長を喜ぶ

 俺が……この俺が。

 C難度モンスターを、一撃で2体倒せた。


 やっぱりこの剣のパワーは凄い!

 剣先に近いところでも、お構いなしに固い蜘蛛の身体を切り刻むことができる。


『まあまあだな、アディ』


 まあまあだと?

 ピースのヤツ、辛口な採点しやがって。


 でも……


「そうだな。ピースの魔剣の力のおかげだからな」


『ん……? いやアディお前……』


「ん? なんだ?」


『いや、なんでもない。そうか。フッフッフ……』


 なんだ?

 ピースのヤツ、何を笑ってやがる?


 自分のおかげって言われて、喜んでるのか?

 剣の中から声が聞こえるだけで、表情が見えないから、よくわからんが。


「アディ! 凄いじゃないか!」


 いつもクールなキャティが、興奮気味に息を弾ませて駆け寄ってきた。


「お、おう……俺も驚いてる」


「たった3週間だけど、充分鍛錬の効果が出てるよアディ!」


 確かにそうだ。


 敵に飛び込むスピード。

 その際のステップ。

 太刀筋とその速度。


 明らかに上達していると感じる。


「私は、もう置いていかれてるな……」


 そんなことない。キャティも充分強い。

 いや、キャティはA難度のキングリザードを事も無げに倒したんだ。

 まだまだキャティの方が、圧倒的に強いに決まっている。


 それに俺の戦いは、自分の実力だけでなくて、魔剣の力のおかげでもある。


「そんなことないよ、キャティ……」


 ふとキャティの顔を見たら、その背後に、もう一体。

 急に姿を現したビッグタランチュラが目に入った。


「キャティ、後ろっ!」


 素早く振り返ったキャティは大蜘蛛の姿を捕捉し、その瞬間背中の剣を抜いた。


 その動作の流れで、そのまま太刀を振り下ろす。


 キャティの剣は、大蜘蛛の固い身体をものともせずに、

 ビッグタランチュラを、縦に真っ二つに割った。


「おおっー! キャティこそ凄えよ!」


「アディに強化してもらった剣と腕のおかげだ。剣などは、さらに強化してもらったからな。前のときよりも、さらに攻撃力が上がってるのが実感できる」


 ──いや、それだけではない。


 キャティも俺と一緒に厳しい訓練をしている。

 その成果が出ているように思う。


「この前ダンジョンでキングリザードを倒したときよりも、さらにキャティの剣はスピードが増しているし!」


 そう言うと、キャティは少し照れたような態度を見せた。


『おいアディ。ほのぼのしてる場合か?』


 剣の中から、ピースの不機嫌な声が聞こえた。


 ──いいじゃないか。お互いの成長をちょっと喜ぶくらい。


『これくらいの強さじゃあ、おぬしらの相手にならんな。もっと強いヤツが生息する場所に行こう』


「えっ……?」


 ジグリットの計画では、今日は一日、これくらい──つまりC難度までの魔物を相手にすることになっている。


「そんなの……大丈夫か?」


『これくらいじゃ、訓練にならんだろ』


 それは、そうとも言えるんだが……

 本当に大丈夫なんだろうか。


 ちょっと不安もある。


「そうだなアディ。私もそう思う。もっと奥地に行こうか」


「きゃ、キャティまで……」


 でも、やる気に満ちたキャティの顔を見たら……


「そうだな」


 ──そう答えるしかなかった。


 そして俺たちは、更に森の奥深くへと歩みを進めた。

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