第41話:俺は、自力で強敵を倒す

「あっ、アディっ! 無茶するなよっ!」


 キャティの悲鳴のような声を背中で聞きながら──


 俺は、3体いるうちの、右端のビッグタランチュラに向けて突進した。

 するとそいつは俺に尻を向けて、白い糸を飛ばしてきた。


 コイツに絡み取られると、ジ・エンドだ。


『横へステップ』


 ピースの声が聞こえた。

 俺は走りながら片足で横にステップを踏み、糸を避ける。


 ──よし、うまく避けられた!


 森の中で足腰を鍛えた成果が出たのか。

 割とすんなりと糸を避けることができたぞ。


 そのままぐいぐいと走り、

 あっという間に蜘蛛野郎のすぐ目の前に到達する。


 俺は右手で、大きく剣を振りかぶった。


 そして胸と腹の間の関節を狙い、魔剣を振り下ろす!


 ──あ。


 その瞬間、ビッグタランチュラは身体をよじってよけた。

 そのせいで、太刀筋が狙った関節の位置がずれる。


 ──ダメだ!


 このままだと剣は大蜘蛛の太くて固い胸に当たるっ!



 ガキンッ!



 剣はタランチュラの固い身体で、止まった……


『アディ! 力いっぱい振りぬけっ!』


 そうだ!

 この魔剣の力を信じて、力いっぱい振りぬくっ!!


 ──バシュッッッ!!!!


 凄まじい音が響いた。

 そして俺の目の前で、ビッグタランチュラの胸が大きく裂ける!


 そんな信じられない光景が、俺の目に飛び込んできた。



「へっ?」


 呆然とするしかなかった。

 地面に横たわっている大蜘蛛野郎の身体は……真っ二つになって、ぴくぴくと痙攣している。


「やった……?」


 ほえっ?

 信じられない。


 固くて刃が通らないはずの胸の部分を、俺が一刀両断するなんて。


「やっぱり、この魔剣の力は凄いな、ピース」


『こら、アディ! まだ2体いるぞ! 早くやれ! ほっこりしてる場合かっ!?』


「あっ、そうだった」


『今度は2体を一度に斬れ!』


 ──いや、そんなご無体な!


 普通は一体でも、ビッグタランチュラの固い身体はなかなか斬れないはずなのに。

 それを2体一度に斬れなんて。


『いいからやれっ!! やらないとお仕置きするぞっ!』


 ──んもう。

 ピースったら、相変わらずドSなんだから。


 俺はお前を封印しているんだし、お前という魔剣のあるじなんだが。

 これじゃあ、どっちがあるじなんだかわからない。


 でもまあ、俺の力では斬れない相手を、ピースの魔剣のおかげで、斬れるんだ。

 コイツの言うとおりにやってみるか。


「わかったよ…… 行くぞ、ピースっ!」


 今度は2体の蜘蛛の、真ん中辺りを目掛けて飛びついた。


 しかし魔物に接近しきる前に、

 蜘蛛が俺に向けて、

 1体は糸、1体は炎を飛ばしてきた。


 ──ヤバっ! やられる!?


『アディ! 斬りつけろ!』


「いや、まだ剣が届かない!」


『いいから斬りつけろっ!』


 ──ピースの言葉を信じよう。


 ビッグタランチュラに向かって、力一杯剣を横一閃した。


 俺に向かって飛んできた糸は切れてバラバラになり。

 炎は振った剣の風で、俺の前で二つに分かれる。


 ──俺の前に、道は、できた。


 この剣の威力、凄ぇ!!


 勢いのまま進み、蜘蛛の目の前まで出た。


 剣が届くかどうか、

 ギリギリの距離だが……


 もう少し踏み込まないと、しっかりと体重を乗せて斬ることができない。


『何をやってるアディ! 躊躇するなっ! そこから剣を振り切れ!!』


「いや……届かな……」


『いいから振り切れぇぇぇぇっ!!』


 ──わかったよ。


 俺は、

 もう一度、

 魔剣を横一閃する!!


 バシュンッ! バシュンッ! と音が鳴る。


 ──どうだっ!?

 届いたか!?


 2体の蜘蛛は……

 揃って、その身体が真っ二つになっている!


 距離があるにも関わらず、この魔剣は凄まじい威力を発揮した。


 ──よしっ!!

 2体同時にぶった斬った!


 ──やったよ……


 俺が……この俺が。

 C難度モンスターを、一撃で2体倒せた。


 俺は、感涙にむせびそうになった。

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