第40話:俺とキャティは、魔物討伐訓練に出かける

〈アディ視点〉


◆◇◆◇◆


 打ち合わせの翌日──

 今日からは、魔物討伐の実戦訓練が始まる。


 昨日は一日ゆっくりと休んだので、だいぶ身体は回復している。

 久しぶりに軽い感じだ。


 俺とキャティは、計画通り魔物討伐へと出発した。


 ──もちろん、魔剣に封印したピースも一緒だ。


 車椅子のジグリットは、さすがに危険なので付いては来れない。


 ジグリットに教えられた魔物の出没地帯に向けて、俺たちは森の中を歩いた。

 ジグリットの家は森の中にあるのだが、そこから奥に行くと、どんどん森が広がっている。


 あまりに奥に行くと未開の地なので、どんな強い魔物が棲息しているかわからないから危険が大きい。

 しかしそれほど奥にまで行かなければ、適度な数の適度な強さの魔物がいるらしい。


 今日は実戦訓練初日なので、とりあえずはC難度以下のモンスター生息地に向かう。

 キャティが先導して歩き、そのエリアへと案内してくれた。


「とりあえず、なんてジグは言ってたけど……C難度の魔物でも、以前の俺には到底倒せない相手なんだよな……」


 森の中を歩きながら、キャティに向けてそう言った。


 俺のランクはDランク。

 つまりD難度の魔物で、ようやく一人で倒せるかどうか、ってとこだ。


 今までの実戦経験でも、俺の手では、D難度以下の魔物しか倒したことはない。

 しかも、四苦八苦して、ようやくって感じで。


 C難度なんて一人では無理だ。


 まあダンジョンでA難度のキングリザードを倒したキャティがいるから、危険はないと思うが……


「大丈夫だよアディ。この3週間の訓練で君の実力は上がっているし、何より手にしている武器が強力だ」


 確かにキャティの言うとおりではある。


 自分の実力が上がっているかどうかは、自分ではよくわからない。

 しかし武器が大幅に良くなっていることは確かだ。


 だがそれも、実戦ではピースの魔剣をまだ使っていないのだから、実感はない。

 実戦でどうなるのかは、まったく未知数だ。


 俺は少しビビって、手にした魔剣をギュッと握りしめた。


『アディ。ビビってるのか?』


「な、何を言うんだ? び、ビビってなんかいないさ」


『手が汗でビッショリだぞ』


 ──あ、バレてる。


『アディ、まあがんばれ。ふふふ』


 ……。

 ピースのヤツ……

 俺がビビッているのを、なんだか楽しんでいるみたいだ。

 このドS女め。


 まあ、でも。

 俺が手にしているのは、女魔王の力を内包した、最強の魔剣だ。


 ──なんとかなるだろ。


 そう自分に言い聞かせながら、森の中を歩く。


 じめっとした空気が肌を舐める。

 鬱蒼とした雰囲気は、いかにも何かが出てきそうだ。


「アディ! 気を抜くな! 魔物がいるぞ!」


 突然キャティが声を上げた。


 彼女が指差す方を見ると、木々の間に黒い身体のビッグタランチュラがぶら下がっている。


 毛が生えた長い脚が8本。

 気持ち悪い多眼で、こちらを睨んでるような気がする。


 ヤツは単体でC難度。

 そいつが──


 3体もいる!


 ヤツらはこちらに気づいたようで、3体とも地面に舞い降りた。

 そして殺気を放ちながら、ゆっくりと近づいてくる。


「ど、どうするキャティ?」


「そうだな。左右の1体ずつを、まずはそれぞれが倒そう。真ん中の1体は、その後だな」


「そうだな」


 それが常識的な戦術だ。


『待て、アディ。それでは訓練にならん。たかだかビッグタランチュラ。お前一人で一気に倒せ』


「はぁっ!?」


 ピースの言葉に、耳を疑った。

 C難度3体を同時に相手する。


 そんなの、Bランク冒険者じゃないと無理だ。


「無理だよ、ピース……」


『ほぉー…… いきなり弱気か、アディ? へたれだな、君は』


 ──くっそ、腹立つ言い方しやがって。


『いざとなったら、キャティがいるんだから大丈夫だ。まあ、女子に助けてもらう男子ってのも、情けないものだがな。とにかくやってみろ、アディ』


 キャティの顔を見た。

 苦笑いを浮かべて、こくんとうなずいている。


 まあ確かに、A難度2体を一瞬で倒したキャティがいるんだ。

 もしも俺が苦戦しても、キャティが助けに入れば大丈夫だ。


 いや、ピースがバカにしたように、キャティに助けてもらうことを、前提にはしないでおこう。


 俺が、

 自分ひとりで、

 やるんだ!


「わかったよ、ピース。俺がへたれじゃないって所を見せてやる」


 ──と、偉そうに言ったが。


 ピースの力を持つ魔剣。

 これを手にしているからこそ、そんなことを言えるんだけどな。あはは。



 俺はパーティ支援のために、魔物の特性の勉強はしてきた。

 幸いその知識はある。


 ビッグタランチュラ。

 その最大の武器は、尻から吐く糸と、口から吐く炎。

 万が一糸に絡み取られたら、炎によって一瞬で丸焦げだ。


 身体の表面は固く、弱点は細くなっている部分──つまり関節。

 そこに上手く斬りつけないと、なかなか倒せない。


『さあ、行けっ、アディぃぃぃぃ!』


 手にした剣から、ピースの進軍ラッパのような声が響く。

 俺は地面をダッと蹴った。

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