第37話:俺たち三人は、【接着スキル】をさらに深く知る

 特訓が始まって、3週間が終わった。

 今日は身体を少し休める意味もあって、昼から簡単なミーティングだけを行う。


 ジグリットの居間で、俺たち四人はテーブルを囲んでいた。


 そう。四人。

 ピースももう仲間のように、普通に打ち合わせに参加している。


 ジグリットが俺の顔を改めて見て、口を開いた。


「だいぶ疲れた顔をしてるな、アディ」


「そりゃそうだよジグ。毎日あれじゃあ、疲労のピークだ」


「でもどうだ? 成長の手応えはあるか?」


「いや……身体が重くて思うように動かないし、どうだかわかんない。あんまり自信はないな」


 ジグリットは「そうか」と笑っている。


 俺たちは明日から、訓練を兼ねて魔物討伐に出る。

 だから、どこに行って、どんな魔物を相手にするか、などを打ち合わせた。



 その後、俺の【接着スキル】をどう活かすか、ジグリットが色々と話をしてくれた。

 ジグこのスキルを活かす方法を、ずっと考えてくれていたらしい。


 まずジグリットは、少し実験をしたいと言い出した。

 彼が用意した、いくつかの武器や防具に、接着・分離を繰り返しかけるように指示された。


 ジグリットの指示通りに、俺は何度もスキルを発動する。

 そしてそれを、ジグが鑑定する。


「なるほどな、アディ、キャティ。なかなか面白い」


 その結果、わかったことは──


1.どの武器や防具も、際限なく性能強化されるわけではない。

 何度も接着を繰り返すと、いずれそれ以上性能が上がらない限界がくる。

2.その限界は、上がり方も、上がった性能の高さも、物によって異なる。

 同じような剣でも物によって違うから、物の種類によって限界が変わるわけではない。


「もっとたくさんの検証をしないと、確かなことは言えないが……」


 ジグリットはそう言いながらも、接着スキルによる性能向上は、元の性能の高さに左右されているのではないかと推測を立てた。


 つまり、何度も接着を繰り返すことで──


 元々の性能が高い物は、何十倍も性能が向上する。

 元々の性能が低いものは、数倍しか能力が向上しない。


 こういう傾向が見られるようだ。


 その話を聞いて、キャティは自分の剣と右腕をじっと見つめた。


「アディに接着してもらったおかげで、この剣と右腕は強くなった。でも私はもっと強くなりたい。だからどうせなら、限界まで強く……」


「いや、待てキャティ。それは危険だ」


「危険? どういうことだ、兄さん?」


「僕が鑑定したところによると、アディが接着したものは、性能の向上に比べて、耐久性の向上はそれほどでもない」


 ──ん?


 ということは、つまり?


「つまり……限界まで能力を上げてしまうと、その物の耐久性がその能力についてこれない。つまり壊れやすくなってしまう」


「えっ……?」


 キャティも俺も、同時に声を上げて絶句した。


「だから、なんでもかんでも、限界まで能力をあげるのはやめたほうがいい。特に人間の身体のように、壊れたら取り返しが付かないものはな」


「そっか……」


 キャティは自らの右腕を左手で、さすっている。

 もっと強くなりたいという気持ちを持つキャティは、とても残念そうな顔をした。


 でも、どっちにしても、人の身体を分離するなんて、俺は怖くてやりたくない。


「まあ、そう落ち込むなよ、キャティ。そもそも腕を分離して、再接着なんて……そんな怖いことは考えるなよ」


「あ、ああ。そうだなアディ」


「そうだぞキャティ。自分の身体は、自分で鍛えろ」


「はは、そうだな兄さん」


 キャティの腕はともかく、剣の方は、ジグリットの鑑定によると、まだもう少し耐久性に余裕があるらしい。

 そこで俺は、キャティの剣を、あと2回【分離】し、【接着】をかけた。


 これでまたキャティの剣は、大幅に威力が増したはずだ。




 さらにジグリットは、俺の【接着スキル】を戦闘で活かすアイデアをいくつか披露してくれた。


 その中には、なかなか面白い使い方もあった。

 俺のスキルは、攻撃や治癒など色んなことに使えるのだと、改めて気づいた。

 本当にジグリットのおかげだ。


「なるほどねぇ……でも実際に、そんなに上手くいくかな、ジグ?」


「さぁ。やってみないとわからないな。そのためにも、実戦でのテストが大事だ」


「そうだな」


「まあ何事もチャレンジだ、アディ。有効な手法は残して、これからも新しい手法は考えればいい」


「ああ、わかったよ」


 明日から一週間の実戦訓練。

 それが終わると、いよいよ勇者検定会がやってくる。


 明日からの魔物討伐訓練に向けて身体を休めるために、この日は打ち合わせだけにして、解散となった。

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