第38話:陰気なフード男は、ドグラス達に声をかける〈旧パーティ視点〉

 アディ達が成長のために、訓練をしていた頃。

 ドグラスとフォスターは、昼間から場末の酒場にいた。


 二人はテーブル席で向かい合って、不満をぶつけるように酒をグビグビと飲む。


「くっそ、アディとキャティのヤツ! 許せねぇ! だろ、フォスター?」


「ホントだよドグラス。ヤツらのせいで、俺たちは赤っ恥をかいた」


「おう。それだけじゃねぇ。俺たちがDランクに下げられたのは、アイツらのせいだ」


 それは自分のせいなのに、理不尽な不満をアディ達にぶつけるドグラス。


「だよねー ホント、腹が立って仕方がない!」


「くっそ! アイツら弱くて無能なくせに! ぶち殺してやりてぇ!」


「でも、なぜかキャティはめちゃくちゃ強くなってるからねぇ……」


「あ、ああ。そうだな……」


 ドグラスは、あのキャティの強さを目の当たりにしている。

 だから滅多なことはできないと思ったのか、意気消沈してしまった。


「あらあら、お二人さん。よっぽど酷い目に遭ったようですねぇ……」


 突然男の陰気な声が聞こえて、二人は振り向いた。


 そこにはいつの間に、フード付きの黒いローブを着た男が立っている。

 頭に被ったフードが目の辺りまでかかり、顔はよくわからない。


 しかし尖った鼻に、口角が上がった口。

 そして何よりどす黒い肌が、陰気な雰囲気を醸し出している。


「なんだ、てめぇは?」


「私はね。あなた方のような、理不尽な仕打ちを受けた、気の毒な方の味方ですよ」


「はぁ? なんだって? 何者なんだ?」


「私は、支援魔術師のギャガです」


「支援魔術師だぁ? 俺たちに何の用だ?」


「たまたまあなた方の話が聞こえて来ましてね。アディとキャティですか? あなた方を陥れる、酷いヤツがいたもんだと。そう思ったわけです」


 ドグラスの顔からは、さっきまでの怪訝な表情が消えた。

 そして大きくうなずく。


「おおっ? なんだお前。話がわかるじゃないか」


「ええ。私なら、あなた方のお力になれると思って、お声をかけたんですよ」


「俺たちの力になれる? どうやって?」


「それはですね……恨みや怒りの感情をパワーに変える『ヘイトレッド』っていう魔法。それを私は得意としてまして」


「ヘイトレッド……? そんなのがあるのか?」


 ドグラスは聴き慣れない言葉に、戸惑いながら尋ねた。


「ええ。非常にレアな魔法です。全国でも、数人しか使い手はいません。でもこれが、なかなか強力なんですよ。特にあなた方みたいに、強い感情をお持ちの方なら、とぉーっても強大なパワーを生み出せる」


「ほ、ホントかっ!?」


「ええ。あなた方を落とし入れたヤツらを、痛い目に合わせてやりましょう。協力しますよ」


 フォスターが心配そうに、横から口を挟む。


「ねぇドグラス。ホントにそんな旨い話があるのか?」


「あらあら。私はあんまり、信用されてないようですね。いいでしょう。証拠を見せましょう」


「証拠?」


「ところであなた方、冒険者ランクは何ランクですか?」


「うぐっ……」


 ランクを問われ、ドグラスは忌々し気に顔を歪めた。


「でぃ……二人ともDランクだよ。弱くて悪かったなっ!」


「いえいえ。その若さでDランクは立派ですよ。でも私の術を使えば…… そうですね。あなた方ならAランク。いや、もしかしたらSランク並みの力を引き出せるかも」


「ええっ!? ホントか!?」


「ええ。あなた方くらい、強い怨念と怒りのパワーを放出してれば、ね」


「ホントかなドグラス。信じられない」


 フォスターは、フード男とドグラスの顔を交互に見比べている。


「いいでしょう。試してみますか?」


「どうやって?」


「私の術を使って、あなた方をパワーアップし、ランクを上げて差し上げましょう。早速明日にでも、判定試験を受けてみませんか?」


 それを聞いて、ドグラスとフォスターは目を丸くして、見合った。

 そしてボソボソと話し合う。


「そうすれば、アイツの話がホントかどうかわかるな、フォスター」


「そうだね、ドグラス。それがもしも嘘だったとしても、俺たちには何の損害もない」


 ドグラスとフォスターは、フードを被ったローブの男に向かってうなずいた。

 それを見て、男はフードで半分隠れた目を細めて、ニヤリと口角を上げた。


 そして二人はギルドの受付で、ランク判定試験の申し込みを行なった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る