第33話:神経質な研究者は、案外大胆なことを言う

「よし、アディ。あとは勇者検定会の当日までに、その魔剣を使いこなせるように訓練しよう。それと君の【接着スキル】を戦闘で活かす方法も考えなきゃいけないな」


「兄さん。この魔剣をここから持ち出すのか? それはマズいのでは?」


「大丈夫だキャティ。僕の魔法で、この剣のレプリカを作って、ここに残していく」


「でも実物の方は? それを持って勇者検定会に出たら、不審がられない? 聖剣と同じ形だし」


 キャティが真っ当な疑問を口にする。


「こら、少女よ。この魔王様の魔剣だぞ。大きさや形を変えるなど、さもないことよ」


 そうなのか?

 やっぱ凄えな、魔王。


「そうか、助かるよピース。加工して色や形を変えようと思っていたが、ピースが変えられるならその方が楽だ」


 それにしても、ジグリットはなんとも大胆なことを言う。


「ホントにバレないか、ジグ?」


「大丈夫だ。ダッファード所長は、鑑定スキルは持っていない。この剣を管理しているのは、所長と僕だ。だから当日まではバレない」


 ──当日までは?


 その後はどうなるんだ?


「さすがに当日の優勝者の手に、このレプリカ剣が渡ったら……その者はこれが聖剣ではないことに気づくだろう」


 そうなった時のことを思い浮かべて、ヒヤリと背中が冷たくなる。

 政府保管の聖剣を盗んだ者として、ジグリットも俺も、罪人となるじゃないか。


「そ、そうなったら、どうするんだジグ?」


「心配するな、アディ。君たちが優勝すれば、なんの問題もない」


 ジグリットは、ニヤリとわらった。


 ──いやいやいや!


「そんなの、俺の責任が重すぎるじゃないかーっ!」


「大丈夫だ、アディ」


 心配する俺をよそに、ジグリットは俺の肩をポンポンと叩く。


 ──どうすんだよ。


 ホントに大丈夫だろうか?

 不安しかないよ、とほほ。


「じゃあ、帰る準備をするか」


 ジグリットがそう言ったので、俺はまた【接着】【分離】を使って、魔王・ピースを魔剣に封印した。

 そしてジグリットは、魔剣のレプリカを生成してから、ダッファード所長を起こす。


 所長は無事に修復された剣──実際にはレプリカだけど──を見て、たいそう喜んだ。

 そしてピースを封印した魔剣は手のひらサイズに縮小して、研究所から持ち出した。




 俺たちは、帰宅するために、また竜車に乗車した。

 竜車の中で、今後のことをジグリットと打ち合わせをした。


 ──これから1ヶ月間。

 毎日ジグリットの家に行って、キャティと共に、勇者検定会に向けた訓練をする。


 その訓練の一環として、実際に魔物討伐にも出かける。

 そうすることで、最近魔物が攻勢をかけている原因も同時に探る。


 研究所で話をした時に、ピースも調査に協力してくれると約束したのだから、ちょうどいい。


 だから訓練と調査で、一石二鳥だ。


 それがジグリットのアイデアだった。




 ──やがて俺たちの故郷に、竜車が着いた。


「今日は色々あったし、アディもキャティもゆっくり休んでくれ。訓練は明日からしよう」


 ジグリットがそう言うので、俺は孤児院に帰った。

 もちろん魔剣に封印した、ピースも一緒だ。


 これから勇者検定会までの1ヶ月の間、俺はピースと共に過ごすことになる。


 だが、不思議と不安はない。

 ピースの言動を見て、本当に信頼できると思い始めているからだ。


 コイツは──

 表向きは偉そうだし、ドSな感じだ。


 だけど中身は、ホントは優しいヤツのような気がする。


 平和主義者だと言っていたが、その言葉に偽りはないのだと思う。


 ただ……


 ちょっと……いや、かなりワガママだということは、想定外だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る