第34話:魔王・ピースの独白<ピース視点>

 私は、魔国・ルシフェル国史上最強の王と呼ばれる、ピースエルド・ルシフェルⅢ世。


 私は剣の中に封印され、アディという少年の家に連れてこられた。

 アディの部屋の壁に立てかけられている。

 アディは寝転んで、のんびりとしているようだ。




 私は──

 最強ではあるが、平和を愛する女。

 そして私の国、ルシフェル国は平和主義の国だ。


 だから私たちルシフェル国の魔族は、無為に人間を襲ったりしない。


 そして私の国に生息する凶悪な魔物は、決して国から出さないように厳重に管理している。


 人間を襲って、恐怖に歪む顔を見て楽しむなんてのは、あの脳みそ筋肉男のサタッド王が好むことだ。

 アイツは以前から、凶悪な魔物を人間国に放つということをしていた。


 ヤツの国、サタッドは、我々とは比べるべくもないほどに、強大な大国だ。

 だがその国土は荒れた砂地、岩地が多く、決して豊かとは言えない。


 だからヤツは人間国に多くの魔物や魔人を送り込み、資源や食べ物を強奪する。

 それが争いを好み、力で相手をねじ伏せることを喜びとするアイツのやり方。




 ──サタッド国王、アルベルト・サタッド1世。


 ガサツで下品な性格。

 ごつごつとした、いかつくてブサイクな顔。


 無駄にデカい、筋肉ゴリゴリの身体。

 ナルシストのヤツには自慢のマッチョだが、私にとっては気持ち悪いだけ。



 あーーーっっっ!

 思い出しただけで、身の毛がよだつぅぅっ!!


「キモっっ!」


 思わず、口にまで出てしまった。


 私は可愛いものが大好きなのだ。

 下品でブサイクなサタッドは大嫌いだ。


 なのにアイツは、しつこく私に求愛してきた。

 誰があんなヤツの求愛を受け入れるかっ!


 だけど鈍感なアイツは、何度私が拒否しても、こう言いやがった。


『嫌い嫌いも好きのうち』

『ホントは本心を隠しているんだろ?』

『自分でキライだと思っていても、お前は心の奥では俺を好きなのだ、グハハ』


 ──バカかっっっっ!!??


 それは自分に都合よくしか考えられない、ダメダメ男の典型的なタイプだっ!




 ──はぁはぁ、ぜぃぜぃ……


 いかん。思わず興奮してしまった。

 ちょっと落ち着こう。



 私は、可愛いものが好きだ。

 優しくて、心休まるものが大好きだ。


 だからあの時……60年前、卑劣な勇者の罠に、うっかりとはまってしまったのだ。



 当時、サタッド国の魔物が人間国に大量に放たれ、多くの人間が困っているという噂を聞いた。

 だから私はその実態を調べるために、隠密でこの人間国にやってきた。


 だが、今から思えば──単独行動をしたのがまずかったのかもしれない。


 当時は人間という者は善良な存在だと思っていた。

 だから危険はまったくないと考えたのだ。


 さらに言えば、我々魔族が複数で行動して、人間に我々の存在を悟られるのも避けたかった。



 そしてあの勇者と、ある町で出会った。

 ヤツは私が魔王であることに気づき、へこへことした笑顔で媚を売ってきた。


 勇者は私と仲良くなりたいから、プレゼントをしたいと言ってきたのだ。


 私が魔王だと気づくところは、さすがに勇者だと言えよう。

 確かにヤツの魔力や攻撃力は、並みの人間ではなかった。


 だがその下品で、何か裏がありそうなヤツを、ついつい信頼してしまったのは私の落ち度だ。


 あの時は、まだ──


 人間には、そんなに悪い者はいないと信じていたのだ。



 そして勇者が私にプレゼントしたもの。

 それは──


 柔らかな毛に包まれた、人間国の動物。


 仔ウサギとか、仔キツネと言ったか。

 ニャンニャン言うヤツもおったな。

 柔らかな毛に包まれたものばかり。


 そう。私は、可愛くて、柔らかくて、もふもふしたものが大好きなのだっ!!


 しかし魔国には、そんな柔らかい毛の生き物は稀少だ。

 だから勇者がくれた動物たちは、私にとっては衝撃的であった。


 私は勇者がくれた動物達に囲まれ、顔をすりすりして恍惚に溺れていた。


 ──ああ……あの時の感触は、今思い出しても幸せな気分が溢れてくる……



 私がそういう物を好きだと言うことを、なぜヤツが知ったのかは定かではない。


 しかし私が大好きな物をプレゼントしてくれた勇者に、私は気を許した。

 そして何より、可愛すぎるもふもふ達に心を奪われた私は、不意をつかれたのだ。


 急に態度が変貌し、攻撃をしてきた勇者が持つ聖剣で、私は大きな傷を負ってしまった。


 そこでようやく私は、勇者に騙されたのだと気づいた。

 よく『嘘つきは泥棒の始まり』と言うが、人間国では『嘘つきは勇者の始まり』なのか?


 そこからは私も応戦したが、その傷が元で、劣勢を強いられた。

 しかも勇者は、周りに落とし穴とか、足を引っ掛ける罠などを、そこら中にしこんでいやがった。


 卑劣なヤツだ。


 その罠に引っかかって、私が体勢を崩したときに、ヤツの剣に封印されてしまったのだ。


 そして私は剣に吸い込まれそうになりながら、ヤツに『なぜこんなことをするのか?』と問うた。


 すると勇者は、嫌らしく顔を歪めて笑って、こう言った。


『俺はすべての魔物を殺す。大人しい魔物であろうが、優しい魔人であろうが、殺す。なぜなら、そうすると私に富と名誉が入るからだ。そして魔王。お前を討伐すれば、最大の名誉と富が、俺の懐に転がり込んでくるのだよ、ガッハッハっ!』


 その時、私は初めて勇者が、極悪人だということに気づいた。

 しかしもう遅い。

 私はなす術もなく、剣に吸い込まれ、封印されてしまったのだ。


 ──だがヤツは自分でしかけた罠のせいで、自分自身も引っ掛かり、転倒して、頭を強打したのだ。


 策士 策に溺れるというヤツだ。

 ざまあみろ。


 ……あ、いや。


 私は平和を愛するピースエルド・ルシフェルⅢ世。

 いくら卑怯で下品なヤツだったと言えど、人の不幸を喜んではいけない。




 ところで……


 私が封印された剣のすぐそばにいる、アディを見る。


 コヤツは、いったい何者だ?

 私を簡単に封印してしまう力。


 そんな力を持つ者は、魔国にだっていない。


 あの勇者であっても、私の隙を狙ったからこそ、封印に成功した。

 しかも封印されるまで、それなりの時間、私は粘った。

 だがアディには、一瞬で封印されてしまう。


 しかも、何度もこの剣を分離し、接着する度に……

 周りに存在する魔力を一緒に取り込むからであろう。


 この魔剣の能力が、どんどん高まっているのを感じる。



 それにアディ……


 なかなか可愛い顔をしてるじゃないか。

 それに優しい感じがいい。


 コイツが最初に、私に向かって突進してきた時。

 その顔を見て、私は思わず『可愛い……』と思ってしまった。


 だから動きが止まってしまったのだが……

 あれは不覚だった。


 魔王としては、大きな不覚だ。


 だが、アディの顔を見ていると、なぜか心がときめくのだ。

 そしてキャティとかいうバカ女がアディと親しげにしていると、なぜだかムカつくのだ。


 魔王である私が、人間のアディにそんな感情を持つべきでないのはわかっている。

 いずれは、アディとは別れ、魔国に帰るのが私の宿命だ。


 だが、今は……


 どうせ私はアディから逃げられない。

 いや、彼らとの約束を破って、勝手に逃げるなど、するべきではない。


 ちゃんとジグやアディの納得の上で、私を解放してもらう。


 いずれ近いうちにそうなるであろうが……


 それまでの間は、アディに付き合ってやろう。

 でも私は、いくら簡単に封印されるとは言え、決してアディの思うとおりにはさせんがな。フフフ。


 まあ、しばらくはこの状況を楽しむのもいいか。



 ……それでいいよねっ!?


 ──いいでしょっ!?

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