第31話:知的な研究者は、無茶な提案をする

 俺とキャティが勇者検定会で優勝するなんて。

 確かにそうすれば、女魔王を封印した魔剣は、常に俺の手元に置ける。


 しかし、そんなのは絶対に無理だ。


「アディ、いいか。君は、この魔剣を使って検定会に出ろ。そしたら今までよりも、かなり戦える」


「えっ……? この魔剣を使って?」


「ああ、そうだ。今でもピースの強力な魔力を内包してるが……ピースを封印したまま使えば、さらに強力な武器となるはずだ。そうだな、ピース?」


「あ……ああ。そうだな」


「ちょっと待ってよジグ。さっきピースは……この魔剣の力を使いこなすには、ピースが認めた者でないとダメだと言ったよな?」


「そうだが、それが何か?」


「いや、そもそも俺なんて弱っちい剣士を、魔王が認めるなんてはずはないでしょ!」


 ジグリットはなぜか意地悪そうな笑いを口元に浮かべて、ピースを見た。

 なんでジグは、こんなに意地悪い顔をするのだ?


「さあ? それは……ピース自身に聞いてみれば?」


 隣に座るピースを見た。

 そしたら俺と目が合って、あたふたしている。


「あ、いや、それは……ま、まあ……【認証の儀式】をしないと、なんとも言えない」


「まあそうだな。ピースはそう答えるしかないな。クックック……」


「ジグ! 笑ってばっかじゃわからないよ。認証の儀式ってなんだよ?」


 今、俺たちの前には、魔王が現れ、

 聖剣であったはずの剣は、魔剣へと変貌している。


 そんな大変なことが起こっているのに……

 ジグリットは、何を楽しそうにしているんだ?


「聖剣や魔剣が、その使い手を認めるかどうかを試す儀式だ。教えるからやってみなさい」


「えっ? 今から?」


「ああそうだ。今からだ。ピースもいいな?」


「待て、ジグ! 勇者検定会とは何なのか知らぬが。私は貴様らの戦いに協力するとは、ひと言も言っておらん!」


 ピースは眉間に皺を寄せて、ジグリットを睨んでいる。


 そりゃそうだ。

 ピースが魔剣に封印され、魔剣として俺に使われることを承諾しなければ、その案は成り立たない。


 魔王であるピースは、俺たちに協力する筋合いなど……まったくない。


「まあ待て、ピース。君がアディの戦いに協力しなければ、君はこの剣に封印されたまま、誰か他の勇者候補者の手に渡る」


「それがどうした?」


「もしかしたらその勇者候補者は、君の嫌いなタイプかもしれないぞ。ガサツで乱暴な男」


「ウグっ……」


「それよりも、アディの柔らかな手でその魔剣の柄を握り、優しく扱われた方がいいと思わないかい?」


 ──あはは、バカだなジグリット。


 そんな理由でピースを説得しても、魔王たる女が納得するはずは……


「わかったジグ。協力しよう」


 ──ええっ!? 納得したーっっ!?


 驚いた。

 あんな理由でピースが協力を約束してくれるだなんて。


「くそっ、ジグめ……私の弱みにつけ込みやがって……」


 ピースは何かをぶつぶつ言ってるが、俺にはなんのことか意味がわからない。



「ちょっと兄さん、待ってくれ! こんな女魔王の魔剣をアディに持たせるなんてダメだ! アディが危険すぎる」


「まあ待て、キャティ。お前が嫌がるのはわかる」


「いや、私が嫌がるというのではない。アディを危険に晒してはダメだと言うのだ……」


「しかしキャティ。この魔剣を他の者の手に渡すのは、もっと危険だ。アディならいつでも魔王を封印できる」


「それはそうだが……」


「それにピースは、アディを殺したりしないよ。僕はそう信じてる。なあピース」


 ジグリットはピースにウィンクをした。

 ピースは頬を赤らめて、ゆっくりとうなずく。


「あ……ああ。私は、平和主義者だ。私は無為な殺戮なんて、絶対にしない」


「ほら、キャティ。ピースもこう言ってる。だから安心しろ」


「うっ……わ、わかったよ兄さん」


 ようやくキャティも納得してくれた。

 と言っても、随分と渋々な感じだが。


「それではアディ、ピース。【認証の儀式】をやってみようか」


「あ、ああ。わかった」


 俺はそう答えて、ジグリットにやり方の説明をしてもらった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る