第30話:恐ろしいはずの女魔王は、恋バナをする?
「サタッド王は、私に気があった。まあ、私はガサツで乱暴なアヤツが嫌いだから、相手にしなかったが」
──魔王の恋の……話?
ちょっとびっくりだ。
そんな話を聞く機会なんて滅多にない。
「これは単なる想像だが……だから私が行方不明になって、あやつは落ち込んでいたのかもしれない。それで勢いが落ちた」
「なるほど」
ジグリットがうなずく。
「でもようやく最近、その気落ちも癒えて、また活動が活発化してる」
「ろ……60年も、落ち込んでたーっ?」
「ああ。我々は寿命が長い。それにやつはしつこいやつだから、失恋で60年間落ち込んでいたことはあり得る。以前私がヤツを振ったとき、同じようなことがあったから、そう推察するのだ」
「マジかっ!? 魔王のコイバナなんて、始めて聞いた」
俺は思わず叫んでた。
そしてそのあと、思わず「プッ」と吹き出してしまった。
恋バナと言っても、恋をしているのは相手の男魔王ではあるけれど。
すると魔王は、両手を横にふるふるとふった。
顔中が真っ赤。
「いや、だからっ! だから私は、この話をするのが嫌だったのだっ! それをお前らが話せというからっ!」
「いや、笑ってごめん、ピース。それにしてもピースって……モテるんだな。まあそれだけ美人だもんなぁ」
俺は深く考えずに、ついそんなことを口にした。
「ばっ……な、何を言うんだアディ……」
ピースは顔を真っ赤にしてうつむく。
「だ……だから言いたくなかったんだ。なんだか私が、自分がモテると錯覚してる、勘違い女みたいじゃないか……」
「あ、いや。そうじゃないよ。本心で、モテるんだなって思ったんだ」
「ふぇっ……!? か……からかうな、アディ!」
それを見て、ジグリットが意地悪な笑みを俺に向ける。
「こら、アディ。あんまりピースをいじめるな」
「な、なにを言っておるのだジグ! 私は誇り高き魔王だ! こんな小僧にからかわれても、なんのダメージもないわっ!」
「小僧で悪かったなっ!」
大人っぽいピースからしたら、俺なんて子供なのだろうが。
急に小僧なんて言われて、ちょっとムッとした。
「あ、いや、アディ! 私はそんなつもりで……」
「じゃあ、どんなつもりだよ!」
「あ……す、すまぬ」
あれ?
予想外に、ピースは素直にペコリと頭を下げた。
「クックック……まあまあ、アディ。いいじゃないか。それよりも……」
ジグリットはくっくっと笑いを噛み殺しながら、話を元に戻す。
「……と言うことは、だ。ピースをここに封印したところで、魔物の攻勢は止まない、ということか」
「そうだ。私は関係ない」
ピースの話は本当なのだろうか?
嘘はついてないとしても、そもそも推察だし。
「よし、わかった。ピースの話が事実かどうかは、僕達で調査しよう。ピースも自分の無実を証明するために、協力してくれるよな?」
「あ、ああ。どうしてもと望むなら、協力してやらないでも、ない」
「ああ。どうしても、と望むよ」
ジグリットが笑顔を向けると、ピースはバツが悪そうに「わかった」とうなずいた。
「ところで兄さん。それともう一つ、気になることがある」
「なんだ?」
「勇者検定会の優勝者に、その聖剣を託すんだよね……」
そうだ。
確かにそういう話だった。
聖剣どころか、魔王を封印した剣。
こんな物を、勇者候補者に渡して、果たして大丈夫なのだろうか?
「そうだよジグ。キャティが言うとおりだ。そもそもこれは、聖剣と呼べるのか?」
「アディ。聖剣と魔剣の違いはわかるか?」
「えっと……強大な攻撃力と、聖なる力を持つのが聖剣。同じく強大な攻撃力を持つが、邪悪な魔力を持つのが……魔剣かな」
「だいたいそうだな。それに両方とも、それを使う者を選ぶ。聖剣も魔剣も、それらが認めた者にしか、扱えないんだ」
「あっ、ああ。そうだったな」
「世の中には、元々聖剣だった物が、邪悪な魔力に支配されて、魔剣に落ちる物もある」
「そうなのか……」
じゃあ、この剣は、どっちなんだ?
ジグリットは剣に両手をかざし、【鑑定スキル】を発動した。
剣の端から端まで、慎重に、その能力を探る。
「この剣は、やはり相当強大な攻撃力を持っている。そして長年ピースが封印されていたことで……恐ろしいほどの魔力を内包している」
──なんと!
これは、もはや聖剣ではない!?
「そうだな。どちらかと言えば、魔剣だ。しかも、史上最強の魔剣かもしれない。ただし、その魔力に、邪悪な気配は感じられないが……」
ジグリットの意見を聞いて、ピースが口を挟んだ。
「何を言っておる。魔王の力が宿っているのだから、それはもはや、間違いなく最強の魔剣だ。ただしその魔剣を使いこなせるのは、私が認めた者だけになるがな。フフフ」
ピースのヤツ、ちょっと得意げだ。
なるほど、やはりこれは魔剣か。
でも、そうだとすると……
「なあ兄さん。勇者検定会の優勝者には、この剣が託されるのだよな……聖剣として」
キャティは、クールで美しい顔を少し歪めた。
「そうだな、それはマズいな。さて、どうするか……」
ジグリットはあごに手を当てて、深く思考をし始めた。
確かに魔王を内包したままの魔剣を、勇者に託すなんてマズい。
何が起こるかわからない。
「仕方ない。キャティとアディ。君らが勇者検定会で優勝しなさい。アディが持ってるのが、この魔剣を安全に保つ唯一の方法だ」
「えっ? 私たちが勇者検定会で優勝だって、兄さん?」
「そして俺が、この魔剣を持ち続ける……だって!?」
「ああ、そうだ」
おーい!
優勝しなさいだなんて、簡単に言うなよーっ!
「いや、そんなの無理だろーっ!」
俺は思わず叫んでいた。
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