第28話:賢き研究者は、妙案を出す
「わかった。どうだ、アディ。君はいいか?」
「えっと……俺は……」
「わ、私は反対だ兄さん! アディがぴったりとそんな女……いや、魔王にくっつくなんて。あ、アディが……き、き、危険すぎるじゃないかっ!」
──ん?
今度はキャティがなんだかキョドってる?
「キャティ。まあ、そう言うな。僕は、この魔王……いやピースは、信頼できると感じている」
「わ、私は……そうは思わない」
キャティは訝しげな半目で、魔王が封印された剣を睨んでいる。
キャティって案外疑り深いんだな。
いや、慎重なのかも。
モア・トロールやキングリザードに、無謀に挑んでいた姿からすると意外だ。
『な……なにを言っているのだ、このクソ女は! わ、私は信頼できる女だぞっ!』
「なあキャティ。俺は、ジグと同じ意見だ。とりあえずは信頼していいんじゃないかな。いざとなったら、俺がまた封印するし」
「えっ……? あ……ああ。アディがそう言うなら……」
ようやくキャティも同意してくれた。
かなり渋々な感じではあるが。
「じゃあ、聖剣をまた接着して、封印を解くよ」
「ああ、頼む」
俺はテーブルの上の剣に手を当てた。
「接着……」
剣は眩い光を放ち、ピースが姿を現した。
「ハーッハッハッ! とうとう私を解放しよったなっ!!」
魔王は腰に手を当てて、テーブルの上から、俺たちを見回した。
やはりコイツ、騙したのかっ!?
──と思った瞬間。
彼女は照れたような顔をした。
「ありがとう」
──へっ?
なんか、拍子抜けした。
「で、私はどうすれば良いのだ?」
「ああ。ピースは、アディの隣に座ってくれ。そして……」
女魔王は大人しく椅子に座る。
その表情は、割と穏やかだ。
怒りくるった顔でなければ……やはり美人だ。
黒髪に生える小さなツノでさえ、ヘアアクセサリーのように見えて可愛い。
怒っている時とのギャップが凄い。
それからジグリットは、こんな指示を出した。
まず俺は、聖剣を二つに分離する。
そして切断面を合わせて、椅子に座り、自分の膝の上に置く。
──いつでも接着スキルを使えるように、だ。
そして俺の左隣の椅子に、ピースが深く腰掛ける。
ピースは右手を俺の方に伸ばして、聖剣に触れるようにして、俺の膝の上に手を置く。
その手首を、俺が片手で握る。
俺のもう片方の手は、剣の切断面に当てたままだ。
こうすることで、いざとなったら俺が【接着】を使って、瞬時に女魔王を封印する。
そのための体勢だ。
女魔王の手首を俺が握ることで、逃げにくくして。
椅子に深く腰掛けさせて、すぐに立ち上がれないようにする。
──女魔王は、素直にジグリットの指示に従った。
チラッと横目で俺を見るピースは、なぜか少し頬が赤くなっている。
そして俺に手首をつかまれた手の指を、居所が悪いように、もじもじと動かしている。
魔王なんて極悪非道で、無慈悲な存在だと思っていたが……
案外照れ屋なのか?
ちょっと不思議だ。
向かい側には、椅子に座ったキャティと車椅子のジグリット。
まるで四人で座談会でもするような態勢だ。
「では話の続きだ、ピース。君は、なぜ勇者が極悪人だと言うのか、教えてくれ」
「ああ、それはだな……」
その後ピースが口にした内容は、耳を疑うものだった。
ピースが言うには──
彼女と戦い、彼女を封印した勇者。
ソイツは私欲の限りを尽くしていたと言う。
その勇者は、人間を襲わない魔族までも殺す。
魔族の者が逃げようが、命乞いをしようが、殺す。
ピースが初め、勇者に会ったときには、そんな極悪人だと知らなかったらしい。
しかし彼女は勇者の罠に嵌められ、襲い掛かられた。
そして勇者自身の口から、彼があらゆる魔物を殺しまくっていることを聞いた。
ピースは勇者に『なぜ魔物を殺し、私を倒そうとするのだ?』と尋ねた。
すると勇者はは、金と名誉を得るためだと、不敵に笑ったと言う。
──これがピースが語ってくれた内容だ。
「ヤツは、魔物や魔人の命を、金づるとしか思っていない。まるで蟻に群がる砂糖のようになっ!」
「あのぉ……ピース。それを言うなら、砂糖に群がる蟻だ。砂糖は群がらない」
女魔王。
意外とおっちょこちょいだ。
「あ……そうだ。それだ、アディ。あはは。と、とにかく勇者は、酷いヤツなのだっ!!」
キャティはその話を聞いて、不快感をあらわにした。
「それはお前たち魔族が、訳もなく我々人間を襲い、殺すから悪いのだろう!」
「なんだと貴様っ! さっきも言ったが、私たちは、訳もなく人間を襲ったり殺したりしない」
「はぁっ? またとぼけるのか?」
「とぼけてなんかいない! 私と、私の国民達は、平和主義者だ!!」
「でも多くの人が、魔物や魔族に襲われている!」
キャティは興奮して、顔が真っ赤だ。
キャティの怒りはわかる。
「それは、ほとんどがサタッド国の仕業だ」
俺の手に触れるピースの手に、ぎゅっと力が入った気がした。
「サタッド国……?」
──なんだそれ?
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