第27話:誇り高き女魔王は、頑固に言い張る

 もしかしたら勇者が死んだのは、魔王の攻撃が原因ではないかもしれない。

 そんな衝撃的な話が、魔王・ピースの口から出た。


 60年前のことだから、確かめようもないけれど。

 ジグリットもそう思ったのだろう。


「だがピース。君はさっき、そこに倒れている所長を殺そうとしたな?」


「殺す? なんのことだ? 私は勇者に仕返しをするために『お尻百叩き』の魔法をかけようとしただけだ」


 お尻百叩きの魔法!?

 マジかっ!?


「くたばれ、とは言ったが、あれは言葉の綾だ。お前達でも、そんなことはあるだろう?」


 確かにコイツは、仕返しをする、くたばれとは言ったが、殺すとはひと言も言わなかった。

 それは事実だ。


「なるほど」


 ジグリットは苦笑いを浮かべる。

 魔王の言うことを、信じたようだ。


 そしてジグリットは話題を変えた。


「ところでピース」


『なんだ?』


「さっき君は、勇者は考えられないくらい極悪人だと言ったな?」


『ああ、言ったが。それがどうしたのだ?』


「君は、なぜそう言うんだ?」


『なんだ。貴様は、勇者の極悪人ぶりを知らないのか?』


 剣の中から聞こえる魔王・ピースの声は、俺たちを欺くという感じではない。


 心底、驚いているように聞こえる。


「ああ、知らない。そもそも君と勇者が戦ったのは、俺たちが生まれるずっと前だ」


『あ……』


 魔王・ピースはなぜか絶句した。

 どうしたんだ?


『そうか。君たち人間の寿命は短いからな。私たち魔族は、平均寿命が300歳だ』


 ──えっ?


 そうなんだ。

 長生きだとは聞いていたが。


 ところでピースは何歳なんだろ?

 見た目は人間ならば、20歳くらいのセクシーなお姉さんに見えるけど。


 ……聞かないでおこう。

 もしも、すんげぇおばあちゃんだったりしたら、なんだかショックだ。


「なぜ勇者が極悪人なのか、具体的に教えてくれないか?」


『おい、お前』


「なんだ?」


『とにかくここから私を出せ! そしたら話してやろう』


「それはダメだ。出したらお前は暴れる」


『暴れない』


「いや、暴れるだろう」


『いや、暴れないっ! 私を信じろっ!!!』


「ふーむ……」


 ジグリットは腕組みして、考え込んでいる。

 魔王を剣から出すなんて、そんな危険なことはあり得ない……よな?


「ダメだ兄さん! コイツは魔王だ。私たちを騙そうとしている」


『何度も言わせるなっ! 私は暴れたりなんかしないっ! 私は誇り高き魔王だ! 嘘などつかぬわっ!!』


「はっ? 貴様の言うことなんか、信じられるかっ!」


 キャティはけんもほろろだが、相変わらずジグリットは考え込んでいる。

 そして何かを思いついたように、顔を上げた。


「わかった」


「に、兄さん……!?」


「但し、もし君が暴れ出したら、いつでも再封印できるようにしておく。そのための条件を付けるが、いいか?」


『ほぉ……どのようにするかわからんが、いいだろう。二度も私が封印されるなんてミスはしない。まあそんなことをせずとも、私は暴れはしないがな。言ったとおり、嘘はつかぬのだ! ハッハッハ!』


 いつでも再封印できるために条件を付ける?

 なんだろ?


「わかった。君にはアディとぴったりくっついて座ってもらう。そして手を、アディに握ってもらう」


『ふぇっ……? アディって、そこの可愛い顔をした少年だな……? 彼と……くっつき、手を握るのか? 私が……? ぴっ……ぴったり、とな?』


 ──ん?


 なんだ、今の間は?

 やはりコイツ、俺たちを騙そうとしているのだろうか?


「そうだ。何か問題があるのか?」


『いや……も、問題はない。も、問題はないぞ。いや、むしろうれ……いや、問題はないぞ!』


 魔王のヤツ。

 いったい何回、繰り返してるんだよっ!?


 それに、なにか戸惑うような口調。

 ただし、俺たちを騙してやろうという、邪悪な感じではない。


 コイツの言うことは、信頼できるのか……?

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