第24話:俺の超地味なスキルは、本領を発揮する

「アディ……【接着】で封じ込め……【分離】で封印……」


 身体の自由を奪われたジグリットが、振り絞るように唇を動かした。


 その言葉で、今朝竜車の中でジグリットがしてくれた解説が頭に蘇る。


 俺の【接着スキル】は──


『空間に存在する魔力を物体に封じ込めることで能力強化をする』


 そして──


『魔力を物体に封じ込めるという点では、封印魔法に通ずるところもある』


 そうか。

 上手くいくかどうかわからないけど、やってみる価値はある。


 この女魔王は、長い間聖剣に封印されていた。

 また同じようにできるかもしれない。


 俺は目の前に転がっている聖剣に手を当て、再び【分離】した。

 そして気づかれないように、静かに立ち上がる。


 魔王は所長に対して、また鈍く光る指先を向けた。

 こっちに意識を向けさせなければ。


「おい、魔王。こっちを見ろ!」

 

「……ん、なんだ? 貴様、また痛い目に会いたいのか? やめておけ」


「いいや。ほら、コレ。また二つに分かれたぞ」


 俺は二つに分かれた剣を両手で持って、魔王に見せた。

 ヤツはギクリとした表情を見せる。


「そ……それがどうした?」


 二つに折ってしまうことで、何十年もの間、自らが封印されていた聖剣。

 それがなぜか、また二つに分離している。


 魔王はきっと、何かあると警戒し、怯えているだろう。

 強がっていても、顔が引きつってる。

 背中の羽も、ぷるぷると震えている。


 俺は渾身の力で床を蹴って、魔王の懐に飛び込んだ。

 ヤツは両手を前に出して、俺を防ごうとする。


 だけど俺は、斬りつける気はない。

 魔王が出した両手にできるだけ剣を近づけ、そこでスキルを発動する。


 俺は、今までにないくらい強く念を入れた。


「接着……」


 この力を理解した俺には、剣がすぐ近くある魔力を凄い勢いで吸収していくのを感じ取れる。


「うぉぉぉぉ! 貴様! 何をするっ!」


 魔王の身体がぐにゃりと曲がるように見えた。

 そしてかげろうのように揺らいだ魔王の身体は、一瞬で聖剣の切断面に吸い込まれていく。


「貴様は、新たな勇者なのかぁぁぁ!?」


「いいや、俺は勇者なんかじゃない。俺は【接着】なんていう地味なスキルしか使えない、しがない剣士だ」


 あっという間に切断面が繋がり、聖剣は一本の剣に戻った。


「貴様ぁーっ! こんなことをしても無駄だぁーっ! すぐに出てやるぅぅぅ!」


 剣の中から、恐ろしいくらいの怨嗟に満ちた声が響く。


 ──こわっ……!


 早く封印しなきゃ!


「分離……」


 剣はまた、二つに分かれる。


「あ……」


 剣の中から、女魔王のため息のような声が聞こえた。

 ちょっとセクシーな声だったから、ドキリとした。


 でもこれで、ちゃんと封印できたのだろうか?


「出れる……かな?」


 俺は思わず、間抜けな聞き方をしてしまった。


「出れ……にゃい」


 魔王は、間抜けな答え方をしよった。




 ──よっしゃ!


 成功だぁぁぁぁぁ!

 見たか、魔王めぇぇぇぇっ!




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