第21話:禿げ頭の所長は、聖剣の説明をする

 石造りの立派な建物にある『王立中央研究所』。

 その中にある、所長室に俺たち三人は居た。


 四方は重厚な色の木製の壁。

 調度品は立派なソファーや、彫刻が施されたテーブル。

 いかにも偉いさんの部屋という感じだ。


「ようこそ、ジグリット君の友人と、妹さん」


 ダッファードと名乗った所長は、長ーい白髭で、知的な丸メガネをかけたじいさんだった。

 そして頭はテカテカに、見事に禿げ上がっている。


「アディ君、だったな」


「あ、はい」


「君のことはジグリット君から聞いておる。では早速、君の能力を見せてもらおうか」


 所長は部屋の中央の大きなテーブルに、両手でごとりと二つの物を置いた。


「これが……」


 俺は伝説の聖剣を目の前にして、ごくりと唾を飲んだ。


 刃の途中で二つに分かれた長剣ロングソード

 つかには煌びやかな彫刻が施されており、つばは左右対象に伸びた部分が上に向かって柔らかな曲線を描いている。


 ただ……刀身部分には輝きがなく、曇っている。


「そうじゃ。これが伝説の聖剣じゃ」


 キャティもテーブルに近づいて、覗き込むように聖剣を凝視する。

 そして素朴な疑問を口にした。


「なぜこれが、聖剣だと言われているのですか?」


「これは約100年前に、史上最高の刀工と呼ばれる人物が作った物じゃ。能力鑑定をすると、他の剣を遥かに凌駕する、凄まじい攻撃力を持っておったらしい」


 そこで王政府は、それを代々、勇者認定を受けた者に託してきたそうだ。

 歴戦の勇者が強大な敵を打ち破ってきた剣。

 やがてそこには聖なる力が宿り、唯一魔王を倒せる聖剣となった。


 そうダッファード所長は語った。


 さらに所長は、前回の勇者がその聖剣で魔王を倒した時のことを話してくれた。



 約60年前。

 その頃魔族からの攻撃が激化していて、当時の勇者が魔王討伐に向かった。

 もちろん、その聖剣を手にして。


 魔王を見つけ出した勇者は、なんとか討伐に成功したが、勇者も頭に大きな傷を負った。


 勇者は息も絶え絶えで王都に帰ろうとしたが、途中でとうとう力尽きたらしい。


 道にうつ伏せに倒れた勇者が、近所の村人に発見された時には、もう息絶える寸前だった。

 頭に大きな傷を負って、大出血していたらしい。


 そして最期にひと言。

 村人に向かって、こう言い残した。


『コイツのおかげで、なんとか魔王を倒せた……』


 そしてその勇者の手には、先が折れている聖剣が握られていた……


 当時、多くの人を動員して近くを捜索したが、剣の先は見つからなかったという。


「その剣先が、最近見つかったのじゃ。勇者が倒れていた場所から少し離れた場所でな」


「60年も経って見つかるなんて、奇跡だな……」


 キャティが呟いた。

 俺もそう思う。


「たまたま土地を開墾しようとした村人が見つけたのじゃ。地面の中に埋もれていたので、それまで見つからなかったんじゃな。その辺りの者は、みな勇者の伝説を知っておるからな。すぐに王政府に連絡が入ったんじゃ」


 なるほど。

 でも目の前の剣には、土などはついていない。

 綺麗に手入れされた感じだ。


 俺は改めて、二つに分かれた聖剣の割れ目をじっくりと見る。


 柄に残った刃の部分と、そこから先の刃の部分。

 何か強い力がかかって、折れたように見える。


「同じ太さで、まったく同じ色の金属じゃろ。二つを繋げてみたら、確かに割れ目がぴったりと一致するんじゃ。だからワシらは、その剣先が伝説の聖剣のものであると確信した」


 その割れ目の周りには、溶接を試みた後がある。


 ──今まで何人かが、修復を試みたと言っていたが……その跡か。


「なるほど……」


「じゃあアディ君。そろそろその聖剣を、【接着】してもらおうかの」


 所長はテーブルの上の、二つに分かれた聖剣を指差した。


「はい」


 俺はテーブルの上に鎮座している聖剣を見つめた。


 ──うまくいくだろうか?


 緊張して、ごくりと唾を飲み込む。

 そして両手を、二つに分かれた聖剣に伸ばす。


 聖剣の切断面を両の手で合わせた。

 そしてその切断面に向けて念を送る。


「接着……」


 いつものように、難なく聖剣はピタッとくっついた。

 跡形はまったくない。


 ──よしっ! うまくいった。


「おおぉーっ! 素晴らしい!」


 所長が目を見開いて、唸るように叫んだ。


 その瞬間──


 聖剣はキラキラとした眩い光を四方に放ち始めた。


「なんだ?」


 同時に何か魔力のようなものが放出される。

 そのあまりの強さに、頭がクラクラして、吐きそうだ。


 向かいに立っていた所長は、ふらついて、「うぅ……」と唸っている。

 そして、崩れるように床に倒れてしまった。


「しょ、所長……大丈夫ですか……?」


 そう言うジグリットも上半身がゆらゆらしている。

 隣に立つキャティは、頭を痛そうに押さえてうつむいた。


 ──なんなんだ、これは……?


 その時、聖剣は一瞬、激しい光を四方に放つ。


「うっ!」


 眩しくて、思わず目を閉じた。

 そしてしばらくして、恐る恐る目を開くと……


 テーブルの上の聖剣からは、もう光は出ていない。

 そしてその聖剣の横に立ち、テーブルの上から俺たちを見下ろしていたのは……


 頭に左右対象の小さなツノを生やし、背中に黒い翼を持った、女だった。

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