第20話:クールな赤毛の女剣士は、動じない

◆◇◆◇◆


 俺たちを乗せた竜車が王都に着いた。


 さすが王都。俺たちが住む片田舎の村はもちろんのこと、ギルドがある町よりも何倍も大きい。


 町の入り口には門兵が何人も立っているし、町に入って竜車が通る大通り沿いには、数え切れないくらい多くの商店が立ち並んでいる。


 そこを行き交う人々の数も半端ではなく、今日は何かの祭りかと思うほどだ。


 もちろん事前に、ジグリットから教えてもらっていたから、祭りだと勘違いすることはないが。


 ──うん。絵に描いたような田舎者にならなくて良かった。


 俺たちは王立研究所に行く前に、勇者検定会のエントリーをするために、『中央ギルド』に向かった。


 王都には、ギルドだけでも複数あるらしい。


 その中でも最大規模のギルドで、勇者検定会のエントリー受付をしているというので、そこに向かった。


 中央ギルドの受付で、俺とキャティは参加申請書に記入する。

 ジグリットは王立研究所の身分証を見せて、「特別推薦枠で」と言った。


 受付を済ませて振り返ると、受付の順番待ちをしている大男と目が合った。


 全身の鎧姿からするに戦士か。

 だがその鎧は、白と黒のまだら模様で趣味が悪い。


 それにしてもコイツ、大柄なドグラスよりも、まだふた回りほどデカい。

 いかつい顔も傷だらけで、歴戦の戦士然としている。


 さすが王都だ。

 世の中には、こんなに強そうな人がいるのだと感心する。


「おい、お前ら。勇者検定会に出るのか?」


 ソイツは俺とキャティをギロっと睨んでから、フンと鼻で笑った。


 なんだコイツ。

 失礼なヤツだな。


 でもこんな柄の悪いヤツは、無視するに限る。


 ──と思って、立ち去ろうとしたら……


「そうだが? 何か文句があるのか?」


 キャティが見上げるようにして、大男に鋭い視線を送っている。


 いや、ちょっとキャティ……

 その挑戦的な目つきはマズいぞ。


「いや、文句はねえよ。ならば美人の姉ちゃん。同じ出場者として、一緒に酒でも飲もうや」


 大男はニヤニヤと笑っている。

 こんな真っ昼間から酒だと?

 ナンパしてるつもりか?


 それにコイツ、キャティの胸をジロジロ見やがって。

 絶対にスケベなことを考えてるに違いない。


「断る。私には、牛と酒を酌み交わす趣味はない」


「なぁにぃーっ! 誰が牛だとぉっ!?」


 キャティのヤツ、うまいこと言う。

 確かにコイツの鎧は黒と白のまだら模様だし、でかい身体だし、牛みたいだ。


「もぉぉぉぉっ! 俺はカチンと来たぞーっ!」


 ──いやいや、『もぉぉ』とか言ってるし。


 なんて笑いを堪えていたら、その男は腰を曲げて、いかつい顔面をキャティの鼻先にグッと近づけた。


 物凄い圧でキャティを睨んでる。

 これはちょっとマズいぞ。


 こんな強そうなヤツに絡まれたら、さすがにキャティも俺も、ひとたまりもない……


「お前、口が臭い……」


 ──いや、キャティ。

 まだ喧嘩を売るつもりか?

 マズいでしょ。


「はぁっ!? 大人しくしてりゃ、つけ上がりやがって! ぶっ殺してやるっ!」


 男はもの凄い形相で、怒りに任せて拳を振り上げた!

 うわっ、マズい!

 キャティが殴られるっ!


 ──バキャッ!


 骨がきしむような音がした。


「ふゴォっ……」


 ──あ……大男が仰向きにぶっ倒れた。


 泡を吹いて、白目を剥いている。

 偉そうにしていたのに、無様なやられっぷり。


 キャティの右手、正拳突き一発だ。


「さあ、行こうかアディ」


 キャティが何ごともなかったように、表に出ようと歩き出したので、俺は慌てて追いかけた。


「凄いな、キャティ! めちゃくちゃ強いじゃないか!」


「いや、アディのおかげだ。この右腕のパワーがあれば、あれくらいのヤツには負ける気がしない」


 まあ元々キャティは、腹がすわっているところがあるし。

 ビビることはないのだろう。


 だけども、あまり無茶はしないで欲しい。


 ジグリットは横で笑っている。

 この兄も、なかなか腹がすわっているな。

 妹のピンチを見ても動じない。


 そして俺たちはギルドから出て、ジグリットに案内されて『王立中央研究所』に向かった。

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