第19話:知的な研究者は、思いもよらない提案をする

 新しい勇者が現われる可能性について、ジグリットが「一つ、救いはある」と言った。

 その救いっていうのは、なんなんだ?


「聖剣は、勇者の資格を持つ者の、秘めたる力を引き出すという説がある」


「どういうこと?」


「勇者の資格を持つ者が聖剣を手にすると、その潜在能力を引き出してくれるんだ。だからアディが聖剣を修復してくれたら、それが可能になる」


「その、勇者の資格を持つ者って、どこにいるの?」


「今はまだ、わからない。けれども勇者の資格を持つ者は、今でも相当強いはずだ。だから現在王政府では、勇者候補者を探し出す『勇者検定会』を行なう予定にしている。1ヶ月後だ」


「勇者検定会?」


 ──なんだそれ?


「まあ言わば、強い者の武道会だな。今、王国中から、腕に自信のあるヤツのエントリーが届いている」


 なんか、凄くいかつくて、毛深い男ばかりが集まってきそうだ。

 その絵面を思わず想像して、少し気持ちが悪くなった。


「そして優勝した者に、聖剣を握らせるんだ。優勝者が勇者の資格を持つ者なら、そこで能力が引き出されて、勇者認定されるということだ」


「へぇ……そんなのが行なわれるんだな」


 そんな凄いイベントが企画されているなんて、全然知らなかった。

 まあ俺みたいに強くはない人間には、そんな募集の情報は届いてなかったってことだ。


 ──ん?


 ジグリットが、黙ってじっと俺を見ている。

 どうしたんだ?


「そうだ、アディ。君とキャティで、勇者検定会にエントリーしないか? 賞金も出るし、4人までならパーティでの参加もOKだ」


「パーティ? 勇者候補者なら、ソロで強くないと意味が無いのでは?」


「いや、そうでもないんだ。前回の勇者はソロだったが、歴史上を見ると、チームプレイで最強の力を発揮した『勇者チーム』というのも存在する。だからパーティでの参加もOKとなっている」


「ふーん……そうなのか」


 だからと言って、俺には関係ないよな。

 だからそんな、何かを期待するような目で見ないでくれ、ジグリット。


 キャティだって、いくら強くなったと言っても、勇者候補には程遠いだろうし。

 勇者候補者なんて、やっぱりSランク以上だろ。


「よし、いいな。じゃあ王都に着いたら、君とキャティで勇者検定会にエントリーしに行こう」


「いやいやいや、待ってよジグ! 冗談かと思ってたよ」


「いいや、僕は真剣だぞ」


「なんで? 俺やキャティが、勇者候補者なわけはないし」


「そうだな。君らが勇者候補者だとは、僕も思っていない。だけどいい経験をする機会だ。この戦いを経験することで、君らの経験値も上がる。ぜひ参加したまえ。僕の推薦があれば、予備審査なしに出場できる」


 ジグリットは極めて真顔で、そう言う。

 今まで彼のことを変人だと思っていたが、訂正だ。

 ジグリットは、めっちゃ変人だ。


「いや、でも……そんなとこに俺たちが出たら、怪我するのがオチだろ。遠慮しとく」


「そうか……」


 俺が苦笑いを返すと、ジグリットは少し残念そうな顔をした。

 諦めてくれたみたいで、俺はホッとした。


 だが、ジグの向こうに座るキャティが「私は出てみたい……」と、ボソっと呟いた。


 ──そっか……


 あの魔物との戦いっぷりからすると、キャティならそこそこいい所までいくかもしれない。


 キャティは、腕試しをしてみたいんだな。

 まあ優勝して勇者認定なんてことは、夢のまた夢だが。


 ……かと言って、キャティ一人で参加しなよ、というのは気が引ける。

 そんな大会に、いくら強くなってるとは言え、華奢な女の子一人を放り込むのは、男が廃る気がする。


 ──どうしたもんかな……


「いや……あのさ、ジグリット。俺なんかが出ても、あっという間にやられて終わりじゃないか? それこそ経験にもならないくらい」


「いや……アディのあのスキルは色々と使い途がありそうだ。だから上手く工夫すれば、なかなか面白い戦いができるんじゃないかと思っている」


「そ……そうかな?」


 ホントにこの地味なスキルが、戦いにも使えるのか?

 もしそうなら嬉しいけど。


「ああ。ただ、まだ具体的な戦い方を考えついてるわけじゃないけどな」


「えっ……そうなの……か?」


 ちょっと期待してしまっていた俺。

 簡単に図に乗りそうになるのは悪い癖だ。

 気をつけよう。


「ああ。でもアディ、そう心配するな。どうしてもまったく歯が立たないと思ったら、大きな怪我をする前に、早々に白旗をあげればいい。それもありだ」


 そうか……


 そういうことなら、記念参加もありかもな。

 そうすれば、キャティを勇者検定会に出してあげることもできる。


「わかったよジグリット。出てみる」


「おっ、そうか! それは良かった」


 ジグリットは笑顔を浮かべた。

 その肩越しに、ジグの後ろでキャティがコクリとうなずいたのが見える。

 キャティが嬉しそうな姿を見るのは、なんだか嬉しい気がする。


 そんなことで、俺は思いもよらず、1ヵ月後の『勇者検定会』とやらに参加することになった。

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