◆第2章:魔王復活編
第18話:思い込みが激しい白魔術師は、何か勘違いをしている
◆◇◆◇◆
翌朝。
ジグリットの家に向かうために、孤児院の建物の外に出た。
すると庭を歩くマリリアットと出くわした。
「おはよう、アディ。どこに行くのですか?」
「ああ、ちょっとな。マリリンは何してるんだ?」
王都に行って聖剣の接着をするなんてことは、トップシークレットだ。
マリリアットにだって言えない。
「朝の散歩ですぅ。アディは……またキャティと会うのですか?」
「えっ……? いや、あの……」
なんだ!?
マリリアットは、あの聖剣のことを何か知っているのだろうか?
「やっぱり……『ちょっとな』なんて言うから、怪しいと思ったですぅ。そうなんですね……」
──ん?
マリリアットは伏目がちになって、なんだか暗い顔をしている。
なんで俺が聖剣を修理しに行くのが、悲しいのだろうか?
「じゃあアディ。ゆっくり楽しんできてくださいね……」
マリリアットはそれだけ言うと、足早に建物の中に戻って行った。
──楽しんでくる?
聖剣を復活させるのは名誉ある仕事だし、ぜひやりたいとは思っているが……
楽しむって感じとは、少し違うと思うんだけど。
マリリアットって、ちょっと変わってるのかな?
「あ、いかん。早く行かなきゃ」
遅れちゃだめだと思い直して、俺は急いでジグリットの家に向かった。
◆◇◆◇◆
ジグリットの家の前から、彼が用意してくれた竜車に乗り込んだ。
竜車は、御者が操る竜が、屋根付きの車を引くタイプのものだ。
三人が並んで座れる椅子が付いている。
ジグリットを真ん中に挟み、両端に俺とキャティが座る。
ジグリットの車椅子は、荷台に積んである。
キャティはいつもどおり、剣士の鎧姿だ。
胸や腰でパーツが分かれている、セパレートタイプの鎧。
今日は戦いに行くわけでもないのに、コイツは普段着がコレなのだろうか?
そんなことをぼんやりと考えていたら、竜車が走り出した。
王都はかなり遠いが、竜車であれば2時間も走れば着くとジグリットは言った。
確かにかなり速い。
ガタガタと車輪の音を聞きながら、俺たちは雑談を始めた。
「なあアディ。君の【接着スキル】について、色々と調べてみたんだが……」
どうやらジグリットは、さらに様々な文献を調べ、自分の知識も総動員して、俺のスキルについて考えてくれたらしい。
「これはあくまで仮説だが……アディの能力は、周辺に存在する様々な魔力を集めて、壊れた物に一体化させることで、修復と能力強化をしているのではないだろうか?」
「えっと……?」
──正直、よくわからなかった。
どういうこと?
俺がきょとんとしていると、ジグリットは「できるだけ簡単に言うと……」と、苦笑いした。
それによると、つまり──
この能力は、俺自身の魔力で物を修復するのではなく……
空間に存在する魔力を物体に集めて物質化することで修復を行う。
そして同じく空間に存在する魔力を物体に封じ込めることで能力強化をする。
そんな感じだ。
それは一種の生成魔法ではあるが、新しい物体を作り出せるわけではない。
魔力を物体に封じ込めるという点では、封印魔法に通ずるところもある。
──ということらしい。
わかったようなわからないような感じだが……
とにかく俺の【接着スキル】は、極めて珍しい種類のものだそうだ。
「ところでジグ。今から聖剣を修理しに行くわけだけど……確か聖剣って、勇者しか扱えないんだよな?」
「ああ、そうだ。勇者認定を受けられるくらい、高い能力を持っていないと、聖剣の力を引き出せない」
「でも勇者って、今はこの国にはいないんでは?」
伝説の勇者が60年前に魔王と相打ちで死んでから、国から勇者認定を受けた者はいないと聞いている。
「そうだ。いない」
「じゃあ、せっかく聖剣を復活させても、それを扱える人間がいないんじゃ、意味がないだろ」
「そうなんだアディ。それが問題だ」
ジグリットは椅子の背もたれに背中を預けて、竜車の揺れに身体を任せるようにして天を仰いだ。
「新しい勇者が現われる可能性はあるの?」
「そうだな。一つ、救いはある」
「救い……? なにそれ?」
ジグリットは、また背中を起こして俺を見た。
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