第17話:知的な研究者は、驚くべき事実を伝える

 ギルド前の広場で大人しく待つ、大型の鷹。

 マリリアットはそれを指差し、「なにあれ!?」と目を丸くした。


「ああ、あれはジグリットが飼ってる大型の鷹なんだって。ビホークって名前だ。賢くて、ちゃんとジグリットやキャティの言うことを聞くんだ」


「へぇ……」


 俺とキャティはその鷹に歩み寄る。

 そしてキャティは背中を鷹の腹に向けて、ピタリとくっつけた。


「接着……」


 キャティの背中と鷹のお腹が触れ合ってる部分を俺が撫でると、そこがピタっとくっついた。


 俺はキャティの前に立つ。

 そして能力強化されている彼女の右腕で、俺の身体をぎゅっと抱えてもらう。

 背中にキャティのぷにっとしたモノが当たる。


 キャティは細身で華奢だが、それなりにあるモノはある。

 マリリアットに比べると控えめではあるが、俺はバストフェチでもなんでもないからそれは気にならない。


 背中の心地よい感触に、俺の意識はどこかに飛んで行きそうになるが……心頭滅却すれば問題ない。


 ──うん、問題ない。



 キャティが「ビホーク! お願い!」と叫ぶ。

 鷹は大きな羽を優しく羽ばたかせた。

 俺とキャティの身体がふわりと浮かぶ。


「な……なんですかぁぁーっ、それっ!?」


 マリリアットが目を丸くしている。

「ああ、これな。【接着スキル】で、こんなこともできることがわかったんだ。おかげでキャティの家から、ここまであっという間に来れた」


 どういう原理なのかはわからないが……


 俺の接着によって、衣服も身体も合わせて、キャティの背中は鷹の身体と一体化している。

 だから安心して飛ぶことができる。


「す……すっごぉーい!」


 マリリアットはまた叫んだ。

 しかし俺たちはどんどん上空に上がっていき、段々と彼女の声は遠ざかって、小さくなった。



◆◇◆◇◆


「お帰り、アディ。うまくいったようだな」


「ああ、うまくいった。ありがとうジグ」


「それは良かった」


 ジグリットは目を細めてうなずいた。

 そしてすぐに真顔になって、『俺に頼みたい』と言っていたことの説明をし始めた。


「まずは、アディ。今から約60年前に、伝説の勇者が聖剣で史上最強・最悪の魔王を討伐したという話は知ってるかな?」


 それは、この辺りの者なら、誰でも知っている伝説だ。

 勇者は魔王を討伐したものの、相打ちで命を落としてしまった。


「ああ、知ってる」


「ところが最近、魔王の復活の兆しがあるというのだ」


「ま……マジか?」


「確かなことは言えないが、出没する魔物が以前よりも増えているというデータがある。それにあちらこちらで、強い癪気が度々観測されたりもしている。だから、そう予測されているのだ」


 魔王を倒すには、伝説の勇者の聖剣でないと不可能だと聞いたことがある。


「そうだ、アディ。よく知っているな。だがその聖剣は、前回の魔王との戦いで真っ二つに折れてしまい、割れた剣先の部分はその後行方不明になっている」


「ああ、それも知っている」


 聖剣のつかの部分は、王政府機関のどこかに、厳重に保管されていると聞く。

 だがつかの部分だけでは、なんの役にも立たない。


 こんな状況で万が一魔王が復活したら、人間はあらがすべもないということだ。


「いいかい、アディ。ここから先はトップシークレットだ。絶対に誰にも言うなよ」


 ジグリットはぐっと眉間に皺を寄せて、より一層、真剣な顔つきになった。

 そして声のトーンを落として、慎重な感じで口を開いた。


「実は……その伝説の聖剣の剣先が、最近発見されたんだ」


「えっ!?」


 それは驚くべき事実だった。


 そして多くの鍛治職人や修理工が、その修復を試みたが、うまくいかなかったと、ジグリットは教えてくれた。


「溶接やビス打ちで接着しても、強度が全然足りないんだ。あれでは聖剣としての役目を果たせない」


「なるほど。それを俺のスキルでくっつけて欲しいと?」


「そうだ。ぜひアディを、王政府に紹介したい」


 実はジグリットは、1年前にキャティと二人で孤児院を出た後は、王立図書館に勤務していたらしい。

 そしてその豊富な知識と聡明さを認められて引き抜かれ、今は王政府直轄の研究機関に所属していると教えてくれた。



 ──俺の憧れである勇者。

 その勇者が60年前に魔王を討伐した聖剣。

 それを俺の手で修復することができる。


 それは、とても魅力的な依頼であるように思えた。


「わかった。やるよ、ジグ」


「そうか。それはありがたい」


 ジグリットは神経質そうな顔を少し緩めて、目を細めた。


「では早速明日、王都に向かおう。キャティも一緒に行くぞ。アディのスキルを使用した物を持つ証人になってもらう」


「ああ、わかったよ、兄さん」


「じゃあアディ。竜車を用意しておくから、明朝、ここに来てくれるかな」


「ああ、わかった」


 ジグリットとキャティに手を振って、俺は孤児院我が家へと帰った。


== 第1章:パーティー追放編 完 ==

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