第16話:尊大な重騎士は、泣きっ面に蜂

「おいおいキャティ。そこまでしなくても……」


「これくらいしないと、こいつのバカは治らない」


 キャティはそう言いながら、今度はまたドグラスに、冷たくて射抜くような視線を向けた。


「いや、あの、キャティ、待ってくれ。俺が悪かった。なぁアディ。また4人で一緒にパーティを組もう。そうすれば、丸く収まる。なあ、マリリンもそう思うだろ?」


 すがるような視線を向けたドグラスに、マリリアットは顔をプルプルと横に振って、嫌々をしている。


「イヤですぅ! 今回のことでドグラスは思ってた以上に性格が悪いってわかりましたし…… 思ってたほど強くないってわかっちゃいましたぁ。私も今まで我慢したけど、もうドグラスとは組みたくないですぅ!」


 ──へっ?


 あの、誰にでも優しいマリリアットが、そこまで言うなんて。

 よっぽど今まで我慢してたんだな。


「な……なんだって……ま、マリ……リン?」


 ドグラスはまるで魂を抜かれたみたいに青ざめて、へなへなと座り込んでしまった。

 ドグラス……かわいそうに。


 そこにスカイアードがすたすたと歩み寄って、ドグラスの肩をぽんと叩いた。


「さて、ドグラス。もちろん俺は、もう君のパーティとはさよならだ。そして君たちが本当はAランクの力がないってことを、俺がキチンとギルドに伝えるからな。いいな」


「なんだって? スカイアード、待ってくれ!」


「ダメだ。なんならもう一度、Aランクの判定試験を受けて合格すればいい。それならお前も文句はなかろう」


「あっ、いや……」


「まあ、あの実力じゃあ、Dランクがいいとこだろうがな」


 そう言ってギルドの受付に向かったスカイアードを、ドグラスは慌てて立ち上がって、ふらふらと倒れそうな足取りで、追いかけていった。


 ドグラス……さらにさらに、かわいそうに。

 ドグラスは、間違いなくDランクに格下げだ。

 泣きっ面に蜂ってやつだな、これは。


 そしてフォスターは気絶したままだ。


 目が覚めたら、コイツも自分がDランクに格下げされたことを知るってパターンだ。


 ──まあこの二人はどうでもいいか。

 ほったらかして帰ろう。


 ただ……


 プライドが高くて、人を見下し、自分が下になるのは我慢できないこの二人。

 いずれまた、仕返しのようなことをしてくるかもしれない。


 でも、まあいいさ。

 もしもまたコイツらが、俺たちに何かをしてきたら……


 そのたびに、打ち負かせてやればいい。


 今回はキャティのおかげで助かったが……

 次はちゃんと自分がコイツらをね返せるように、俺ももっと強くなろう。


 そんなことをぼんやりと考えていたら、マリリアットが声をかけてきた。


「アディは、これからどうするのですか……? もし良かったら、また私と一緒に……」


 ローブの袖口を両手の指先でイジイジといじりながら、マリリアットは上目がちに訊く。

 そこにキャティがマリリアットとの間に割り込むように、クールな口調で口を挟む。


「いや、ダメだ、マリリン。悪いけど、アディは私の家に行かなきゃならない」


「えっ……? キャティの家に……ですか?」


「ああ、そうだ」


「えっ? えっ? えっ?」


 マリリアットはなぜかオロオロしている。

 これはきっと、何か変な勘違いをしているに違いない。


「マリリン。キャティのお兄さん、ジグと話があるんだ。だから今からキャティの家に行かなきゃならない」


「あっ……そ、そうなんですね」


 マリリアットはなぜか、少しホッとした表情を浮かべた。


「キャティ。誤解を招くような言い方をするなよ」


「誤解ってなんだ? いったい何を誤解すると言うのだ?」


 ──あ、いや……それはそうなんだが。


 キャティは鼻からフッと息を吐いて、少し唇の端を上げている。

 コイツの意図はよくわからないけど、意地悪な顔つき。


「まあ、いいや。じゃあ、行こうかキャティ」


「ああ、そうだな。きっと兄が待ちわびている」


 俺とキャティはそう言い残して、ギルドの表に出た。





「なにあれ!?」


 俺たちについてギルドから出てきたマリリアットが、驚いた顔をした。

 彼女が指差す先には、人よりも大きな鳥が一頭、大人しく佇んでいる。


 ギルド前の広場にいる大きな鳥。

 それは、俺とキャティがここに来るのに使用した大型の鷹だ。


 ──そう。


 俺たちは、【接着スキル】を利用して、鷹の力を借りてここまで来た。

 だから短い時間で戻って来れたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る