第13話:赤毛の美人剣士は、高難度モンスターに挑む

◼️アディ視点◼️


◆◇◆◇◆


「なんとか間に合ったようで良かった」


 俺がそう言うと、ドグラスは眉間にシワを寄せた。


「はぁっ? 何しに来たんだ、お前?」


「ドグラス達が大変な目に遭ってるかもと思って、戻ってきたんだ」


「別にお前なんかに助けられることはない。さっきの攻撃を見ただろ? 俺たちは強いんだ! なあ、フォスター」


「ああ。俺たちは強い。大変な目になんか遭ってない。アディは何を言ってるんだ? バカか?」


 ドグラスとフォスターのヤツ。

 精一杯の虚勢を張ってるつもりだろうが、二人とも顔が引きつってるぞ。


 いつもいつも。

 あれほど強く見えていたドグラスが、なぜか今はそんなにふうに見えない。


 それはキャティの恐ろしく強い姿を目にしたからだろうか。

 それともドグラスやフォスターの強さの秘訣に、俺が接着した武器が関わっていたと知ったからだろうか。


「なあアディ。やっぱり帰ろう。こんなヤツらを助けようと考えた私たちがバカだった」


 キャティが不機嫌そうに、そう言ってきた。


「ああ、キャティか。お前みたいな非力な奴が、俺たちを助けるだって? バカかお前! なあフォスター」


「ああ、そうだよ。助けるなんて、キャティごときがなにを偉そうに言ってるんだ? ねぇ、ドグラス」


「ちょっとドグラスとフォスターぁ! せっかく二人が来てくれたんだから、そんな言い方しないでくださいよぉ。それにさっきのだって、アディのフォーメーション指示のおかげなんだし」


「ば、バカ言うなマリリアット! あんな指示がなくても俺たちはちゃんとやれた! アディなんか関係ない! 俺は強いんだ!!」


「まあ待てよ、リーダーのあんちゃん。あれを見ても、そんなことを言えるのか?」


 スカイアードが前方を指差す。

 みんなが指の向こうに視線を向けると……


 そこにはキングリザードが、ダンジョンの奥からもう一頭姿を現していた。


「うぉっ!」


 ドグラスは驚きのあまり身体をビクッと震わせて、そのまま座り込んでしまった。

 そして立ち上がろうとするが、腰が抜けたようで立てない。


「へっ! 情けねぇリーダーだ」


「なあアディ。ドグラスなんか置いて、マリリンと一緒に逃げよう」


 そう冷たく言い放ったキャティに、ドグラスは青ざめた顔を向けた。


「ちょっと待てよキャティ! 俺たち同じ孤児院出身の仲間じゃないか」


「はぁっ? 仲間だ? 貴様、どの口がそんなセリフを吐くんだ? やはり貴様に必要なのは、慈悲ではなくて天罰のようだな」


「まあまあキャティ、気持ちはわかるけど。弱っちいドグラスを、強いキャティが助けてやる……ってことでいいんじゃないか?」


 俺がそう言うと、キャティはぷっと吹き出した。


「そうだなアディ。君はホントに慈悲深い」


 そう言いながら、キャティは冷ややかに笑った目線をドグラスに向ける。


「はっ? 強いキャティだって? 非力なくせに、何を言ってやがる!」


 思わず叫んだドグラスを、キャティはクールな表情でキッと睨みつける。


「あ、いや……」


 ドグラスは、すごすごと下を向いた。


 小柄で華奢な女の子に睨まれて、大柄でゴツい顔のドグラスがしゅんとなる。

 それが、おかしくてたまらない。

 だが笑いが出そうなのを堪えて、キャティに囁く。


「どうだ? 二頭もいるけど、いけそうか?」


「わからんが、やってみる。力試しが楽しみだ」


 キャティは緊張した顔ながら、ニヤッと笑う。

 コイツ……なかなか肝が座ってる。


「は……早く逃げようぜ。おいフォスター。俺に、肩を貸せ」


 情けない顔のドグラスに、キャティが冷たく視線を投げた。


「いや、逃げない」


「はぁっ!? お前、何をするつもりだ?」


「私は、偉そうなくせに、いざとなったら腰砕けのヤツとは違う」


 キャティはニヤリとドグラスを見てから、剣を右手で握りしめる。


 そして勢いよく地面を蹴った。

 キングリザードに向かって駆け出す。


 早い!

 まるで疾風のよう。


 さすがキャティ。動きが俊敏だ。


「おい、お前! 無茶するな!」


 スカイアードが焦って叫んだ。

 しかしその時には、キャティは既に1頭目のキングリザードの目前にまで迫っていた。


「キャティ! 首だ!」


 俺の指示に、キャティは軽くうなずいた。

 ダンっと地面を蹴って飛び上がる。


 彼女の身体は、自分の背丈の3倍はあるキングリザードの長い首にまで浮き上がった。


 そして

 右手の剣を

 素早く横に振り抜く!


 ザシュっと音がした。


 キャティの剣がしっかりと魔物の首を捉えたことがわかる。


 キャティは軽やかに地面に着地し、キングリザードの頭を見上げた。


 リザードの頭はぐらりと揺れて、首から上がドサリと地面に落ちた。



 ──なんと、一撃だった。

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