第10話:優秀な頭脳は、奇妙な質問をする

「今まで、壊れた物を修理するんじゃなくて、元々別の物を接着したことはあるか?」


「ああ、あるな。子供の頃、遊びで二本の木の枝をくっつけたりしてた」


 いったい何の意図があって、ジグリットはそんな質問をするのだろうか?

 俺にはわからなかったが、彼はまた二つ目の奇妙な質問を口にした。


「なるほど。もう一つは……一旦接着した物を、スキルを使ってまた分離したことはあるか?」


「えっ? それはしたことがないなぁ。スキルで分離なんてできるのか?」


「確かなことはわからないが、文献によると、スキルレベルがアップすればできるようなことが書いてある」


「そうなんだ」


「アディ。君の話を聞いて、もしかしたら……と思うことがある。それは君が実戦経験を積んでるのに、なぜ剣士としてのスキルが成長しないのか、だ。もしかして、接着スキルが成長しているのではないか?」


 ──そんなことがあるのか?


 いや……確かに以前と比べて、最近は接着スキルを使うと、パワーが増しているような感じはしていた。


 単なる気のせいだと思っていたけど。


「確かなことはわからんが、とにかくアディ。一度くっつけた物の分離をやってみてくれ」


 ジグリットは俺にそう言ってから、キャティの方を向いた。


「えっ……分離? や、やめて!」


 キャティは青ざめて、俺が接着した右肘を、左手で庇うように押さえている。


「いや、キャティ……腕じゃなくて、剣の方だ」


 ジグリットは苦笑いしている。

 そりゃ、そうだろ。

 キャティって案外おっちょこちょいだ。


「えっ……? あ、ああ。そうだな。剣だよな。始めからわかっていたよ兄さん。ははは」


 キャティは自分の勘違いに顔を真っ赤にして、俺に剣を差し出した。


 いつもクールなキャティが、こんなにオロオロする姿を初めて見た。

 もともと相当な美人ってこともあって、案外可愛い。


「くくっ……」


「あ、こら、アディ! 何を笑ってるんだ?」


「いや、別にぃ……」


「別にってなんだ? 笑ってるじゃないか!」


 更に真っ赤になるキャティが可愛い。

 だけど今は、そんなことでじゃれ合ってる場合じゃない。


 俺は何も答えずに、キャティの剣を見つめた。

 そして接着した部分に手を当て、「分離……」と念じる。


 すると剣は、音もなくスッと接着した部分で分かれた。


「おおっー! できた!」


 そしてもう一度【接着】を使うと、剣はまた綺麗にくっついた。


「よくやったぞアディ。これで君は、くっつけたり離したり、自由にできることがわかった」


「なるほどっー!! それは凄い!」


 ──と俺は答えたものの。


 だからどうなんだ?

 なんの役に立つんだ、これ?


「よし、アディ。今からキャティと一緒に、ドグラス達を助けに行け」


「へっ? 彼らが今日行ってるダンジョンまでは、ここから歩いて半日近くかかるぞ。間に合わないよ」


「いや、間に合うかどうかはわからないが、最速で行く方法を思いついた」


「最速で? どうやって?」


「それはだな……」


 ジグリットはニヤリと笑って、その方法を説明してくれた。


 ──そんな方法で上手くいくのか?


 俺は少し不安になった。

 キャティも不安げな顔をしている。

 しかし彼女は、「とにかくやってみよう」と、クールに言った。


「アディ。それが終わったら、ここに戻って来てくれ。君に頼みたいことがある」


 ──俺に頼みたいこと?


 なんだろ?


 疑問には思ったけど、ジグリットには、このスキルの秘密を教えてもらった恩がある。


「わかったよ」


 だから俺はそう答えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る