第7話:赤毛剣士の兄は、仮説を立てる

 キャティは石を砕いた自分の右手のひらを、まじまじと見つめている。


「えっ……? 凄い! そんなに力を入れてないのに」


「なるほどな」


 キャティは唖然としているのに、ジグリットは至って冷静だ。


「接着された物全体に能力強化の効力があるわけじゃなさそうだ。右肘にかけたスキルで右手の力は強化されているが、左手はそうではない」


 ──なるほど!


 そうやって分析しているのか。

 ジグリットって頭がいいな!


「つまりだ、キャティ。お前の長年の課題、パワー不足を、アディのスキルで解消できるかもしれないということだ」


「兄さん……本当か?」


「ああ。但しキャティ。少なくともお前の両手両足は切り刻んでから、アディに接着してもらわないといけないな。首は……ちょん切ったら、接着する前に死ぬかもな」


「なに……? ふ、ふざけるな兄さん。私を殺す気か?」


「もちろん冗談だ、キャティ」


 ジグリットって変人だとは思っていたが……冗談が猟奇的だ。

 信頼しても大丈夫なのか……?


 そんなことを思いながらジグリットを眺めていたら、今度はキャティの剣を右手に握った。

 そして剣先からつかの底まで、すぅーっと左手のひらをかざしていく。


「何やってんの?」


 小声でキャティに訊くと「鑑定スキル」と短く答えた。


「この剣は、全体に威力強化がかかっているようだ。これくらいの大きさなら、全体にかかるようだな」


「へぇ、そうなんだ」


 俺は感心してうなずいたが、すぐにジグリットは少し首を傾げた。


「いや。素材にもよるのか? それともその物の種類が影響するのか……? まだまだ研究の余地がありそうだ」


 ジグリットは嬉しそうに、独り言を言っている。


「兄は知的好奇心をくすぐられるようなことが、大好きなんだ」


 確かに。

 孤児院にいた頃も、本を読んだり大人に色んな質問をしたり。

 ジグリットは、そんなことばかりしていた。


 強いということが全ての価値観に勝る周りの者達は、ジグリットを役立たずとバカにしていたが……

 俺は知的で穏やかなジグリットを尊敬していた。


 まあ、変人だとは思っていたが。


「アディ。君の特殊スキルは、なかなか万能かもしれないぞ」


「いやジグリット。それは大げさだろ。確かに武器や防具の性能をアップできるのは凄いけど……それだけでは万能なんて言えない」


「いや……工夫次第で、色々と使えそうだ」


「そうかなぁ……」


「まあ、いい。それはおいおい考えよう」


 ジグリットはそんなことを言うが……

 ホントに俺の【接着】なんて超地味なスキルが、万能になんてなり得るか?

 ちょっと信じられない。


 ──ところで。


 俺の接着スキルが物の性能をアップさせるのだとしたら……


 ドグラス達三人が急激にレベルアップしたのって、もしかしたら……

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