第5話:勝った赤毛の女剣士は、唖然とする

「キャティは何ランクだ?」


「Cだ」


「そうか。俺は……Dランクだ」


「私一人でなんとか倒せると思ったんだが。思いのほかヤツの防御力が高かった」


 モア・トロールはB難度の魔物。

 Bランク冒険者が、ようやく倒せる相手だ。

 通常はBランク冒険者でも、数人で挑む。


 冒険者のランクと魔物の難度は対応している。

 同じランクなら、1対1でなんとか倒せる相手。

 それでは危険なので、普通は複数人で相手をするというのが世間の常識。


 B難度のモア・トロールを、Cランクのキャティ一人で余裕で倒せると思う自信は、どこから来るのかわからないが……

 とにかく俺たち二人だけでは、少し荷が重い相手だ。


 だがヤツは、もう目の前まで迫って来ている。


 ──正直ヤバいんだが!


「とにかく二人がかりで攻撃して、ヤツが怯んだ隙に逃げよう」


 俺は自分の剣を構えながらキャティに声をかけた。


「そうだな」


 モア・トロールは大きな両手をガバっと挙げて、キャティに掴みかかってきた。


 キャティは地面をダッと蹴る。


 モア・トロールの両腕の間をすり抜け、懐に飛び込む。


 そして剣を斜めに一閃。

 ヤツの腹に切りつける!


「は……速い!」


 Cランクにしては飛び込むスピードも剣を振るスピードも速い。

 スピードや剣さばきだけなら、きっとキャティは既にBランク以上だ。


 しかし彼女は華奢な身体で力が弱いから、どうしても攻撃力が上がらない。

 そのせいで未だにCランクなんだろう。


 ──よし、俺も!


 モア・トロールが怯んだ隙なら、Dランクの俺でもヤツに傷を負わせることができるかもしれない。


 ……と思ったら。



 バシュンっ! と音がして。


 キャティが切りつけたモア・トロールの胴が、


 ずるり──


 と腰から真っ二つに分かれた。


 そして上半身が大きな地響きと共に、地面に落ちる。

 続いて下半身も大地に崩れ落ちた。



「へっ?」


 思わず素っ頓狂な声を出してしまった。

 いったい何が起きたんだ?


 Cランクのはずのキャティが、あっという間にB難度のモア・トロールを倒しちまった。


「キャティ……君ってホントはAランク? 俺を驚かせようとして、わざと嘘ついた?」


「いや、私のランクはCだ。嘘なんかついていない」


 確かにキャティ自身も、唖然として、信じられないという表情だ。


「じゃあ、どうしてそんなに強いんだ?」


「私にもわからない。アディが来るまで、あのトロールには苦戦してたのだから。何度か切りつけたが、ちょっとした傷を負わせるのが精一杯だった」


 キャティはさっき怪我をした右ひじを、左手でさすっている。


「やっぱり、私の腕のパワーが格段に上がっている。それに、もしかしたら……」


 彼女は俺が接着した剣の刃を、間近でじっと見つめている。

 俺の【接着】は、まったく元通りになるから、どこが接着した部分なのかは俺でもまったくわからない。


「この剣も、パワーアップしてるんじゃないか? そうなのか、アディ?」


「いや……そうなのか、って言われても。俺にはわからない」


「わからない? アディが接着した物は、性能がアップするとか、そういう効力があるんじゃないのか?」


「いや、そんなのないと思うぞ。少なくとも俺自身は知らん」

「ふーむ……」


 ──なんだそれ?


 今まで俺が接着してきたものって、孤児院にある椅子やテーブルや棚だ。

 だから、性能アップとか言われても、よくわからない。


「そうだ、アディ! ちょっと一緒に来てくれ!」

「どこに?」

「兄の所だ。兄なら何か、わかるかもしれない」

「おっとっと」


 キャティにいきなり手首を掴まれ、グイッと引っ張られた。





 しばらく林を歩いて進むと、徐々に木々の密度が濃く、背の高い木が鬱蒼と茂った場所に来た。

 そこを更に進むと、濃い木々の間に、ぽっかりと少しだけ開けたような所に出た。


「ここだ」


「ん?」


 キャティの指差す方向を見るが、低い草が生い茂る空間が広がっているだけ。

 なーんにもない。


「兄さん、ただいま。ほら、孤児院で一緒だったアディだ」


 キャティが何もない空間に向かってそう言うと、目の前の景色が蜃気楼のようにゆらっと揺れて、突然小さな小屋が現れた。


「どうぞ。ここが私と兄の家だ。普段は兄が魔法結界を張って、見えなくしてある」


「そ、そうなのか……」


 ──キャティの兄さん、すげっ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る