第4話:赤毛の華奢な女剣士は、ピンチに陥る
◆◇◆◇◆
──翌日。
ドグラス達が新しいメンバーを伴ってギルドを出発するのを横目で見ながら、俺も
草原や林を半日歩いて、あと1時間もすれば孤児院に着くという辺りまで来た。
林の中を歩いていると、突然──
「キャァァァァッ!」
という、女の子の悲鳴が聞こえた。
「なんだ?」
俺は息を切らしながら、声が聞こえた方に向かって、木々の間を駆け抜ける。
少し走ると林が切れて、草原が広がっている場所に出た。
草の香りが鼻を突き、風が俺の髪を巻き上げる。
その光景を目にして、俺の喉は一気に乾いた。
そこに居たのは……
人間の5倍はあるドデカい身体の人型の魔物。
人型ではあるが、顔はかなりブサイクだ。
「あれは、トロール……しかも普通のヤツより強い、モア・トロールだ!」
その足元に剣士の鎧を身に纏った、赤毛の女の子が立っている。
モア・トロールの腕には剣の刃が突き刺さり、女剣士の持つ剣は、途中で刃が折れている。
きっと彼女がモア・トロールの腕に斬りつけたが、剣が折れてしまったんだ。
──ヤバいな、あの女の子。早く逃げなきゃやられちまうぞ。
モア・トロールは痛そうに顔を歪めて、腕から剣の刃を引き抜いた。
そして忌々しげな顔で、それをぶんと放り投げた。
剣の刃はくるくると回転しながら、俺の方に向かって飛んでくる。
──うおっ、ヤバい。
女剣士は刃の行き先を目で追って振り向いた。
赤い瞳のクールな美人。
──あれは……キャティだ!
彼女も俺に気づいたようで、刃が飛ぶのを見て、俺の方にダッシュで駆け寄る。
俺に向かって飛んできた刃は、俺まで届かずに足元にポトリと落ちた。
ちょっとビビったけど、助かった。
そこに息を切らせたキャティが、走って目の前まで来た。
キャティは顔を大きく歪めて、左手で右肘を押さえている。
「アディ! なんでこんな所に!?」
「そんなことはあとだ!」
キャティの右肘を見ると、大怪我をしているようだ。
「キャティ! その腕!」
キャティが左手を離すと、右腕が肘の所で変な方向にぐにゃりと曲がり、骨が飛び出しているのが目に入った。
「ああ、ちょっとやられちまった」
キャティは痛みに顔を歪めて、フッと笑った。
「おいおい! ちょっとどころじゃないだろ! 大怪我じゃないか! 触るぞ!」
──なにがちょっとだ。
コイツ、なんて我慢強いヤツなんだ。
モア・トロールの方を見ると、傷ついた腕をもう一方の手で押さえながら、俺たちを睨んで立ちすくんでいる。
今のうちになんとかしなきゃいけない。
キャティの肘を両手で包み、「接着……」と念を入れる。
俺は今まで人の身体に【接着スキル】を使ったことはなかった。
だがキャティの酷い怪我を見て、思わずスキルを使った。
「え? なにこれ? 痛みがなくなった!」
キャティは右腕をぐるんぐるんと回して、驚いた顔になった。
普段クールな彼女の、こんな表情を見るのは初めてだ。
見た目も完全に傷がなくなり、キャティの肘は元通りになっている。
「なんだろね。俺もびっくりしてる。あはは」
人の身体がちゃんと治るか、正直あんまり自信はなかった。
しかしうまくいって良かった。
どうやら裂傷や骨折なら、皮膚や筋肉、骨を『接着』することで、治せるようだ。
──いや、驚いたなこのスキル。
今まで気づかなかった俺もバカだけど。
「ん?」
キャティは治った右ひじを、左手でさすっている。
「どうした? やっぱり痛いか?」
「いや、痛みはまったくない。だが何か違和感というか……力がみなぎるような感覚がする。アディ、肘を治すだけじゃなくて、他に何かしたか?」
「力がみなぎる? いや……特に何も……」
なんだそれ?
俺は治癒魔法や能力強化魔法が使えるわけじゃない。
キャティの言っている意味がわからない。
「モア・トロールが近づいてくる!」
急にキャティが上げた声に振り返った。
さっきまで立ちすくんでいたはずのモア・トロールが、ドシンドシンと足音を響かせながら、俺たちに向かって迫ってくる。
「ちょっとそれ貸して」
急いでキャティから剣の
「接着……」
あっという間に剣が元に戻る。
繋ぎ目は一切残っていない。
「よし!」
武器は直った。
さあ、これで……逃げる準備は整った。
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