第2話:クールな孤高の美少女は、俺に味方する

「久しぶりじゃないか出来損ないの妹。生きていたのか? 役立たずの兄ちゃんは元気か?」


 キャティには下半身が不自由で、車椅子生活をしている兄がいる。

 そして一年ほど前に、その兄と共に孤児院を出て、今はどこかで二人暮らしをしていると聞いた。


 ギルドや町中で時々顔は見かけていたものの、話すのは久しぶりだ。


「なにぃっ!? 兄の悪口は許せん! 言葉を撤回しろ!」


「わかった。言い直すぜ。兄ちゃんだけじゃなくて、非力な剣士のお前も役立たずだ。役立たず兄妹だ。これでいいか? クックック」


 キャティは剣士としての腕は確かなのだが、いくら鍛錬しても身体は華奢なままで、力の強い相手には勝てなかった。


 そのせいで孤児院でもバカにされることが多くて、まるで俺の鏡を見ているようだった。


「貴様っ! 許せん!」


 キャティはよっぽど腹に据えかねたのか、背中の剣を抜いた。

 そこにドグラスは飲みかけの酒を、彼女の顔めがけてバシャっと浴びせる。


「うぐっ!」


 ドグラスは真新しいサーベルを抜いて、怯んだキャティの鼻先に、その切っ先を突きつけた。


「手に入れたばかりのサーベル。切れ味を試すには、ちょうどいいなぁキャティよ。クックック」


 コイツ、もう新しい武器を買ったのか。

 これはヤバい。

 ドグラスのやつ、狂ったような目つきだ。


 俺たちの争いに、キャティまで巻き込むわけにはいかない。


「行こう、キャティ! 俺の報酬は、これでいい」


 テーブル上の1万ジルをくしゃっと掴み、もう片方の手でキャティの手首を握った。

 そしてギルドの出入口を目指して走る。



◇◆


 少しギルドから離れた所で、キャティの手を離した。


「アディ。バカにされたままでいいのか? 悔しくないのか?」


 キャティは顔を真っ赤にして、さっきまで俺が握っていた手首をさすっている。

 顔を真っ赤にするほど、コイツはドグラスの言動に腹を立てていたんだな。


「いや、よくはないけど……仕方ない」


「仕方ない?」


「ああ。ドグラスには腹が立つけど……俺がこのままあのパーティにいたら、マリリンにも迷惑をかける。彼女の成長を阻害したり、下手したら危険に晒してしまうかもしれない」


 キャティは無言で、じっと俺の顔を見つめている。

 コイツは元々孤児院でも無表情なことが多くて口数も少ないから、何を考えているのかよくわからなかった。

 孤高の雰囲気を漂わせて、兄以外とはほとんど話そうとしなかったからだ。


 だから今も、何を考えているのかよくわからない。だけど……


「俺を庇ってくれてありがとな。あのままだと、キャティにも被害が及びそうだったから……」


「ア……アディを庇おうなんてしてない。ドグラスが……あんなヤツがいるから、孤児院出身者は金に汚ないとか、信用が置けないとか、蔭口を叩かれるんだ。私はそれに腹が立っただけだ」


「そっか。でも今回は俺たちの問題だ。今まであんまり話をしなかったけど、キャティはホントは優しいヤツなんだな」


「ふぇっ……いや、あの……だから違うって……」


 キャティは真っ赤な顔になって、視線を横にそらした。


 今までこんな顔は見たことがないけど、案外可愛いところがあるな。

 元々顔はかなり美人だし。



「いいよいいよ。俺は勝手にキャティに感謝しとくから。じゃあな。気をつけて帰れ。そしてもうドグラスには絡むな」


 そうしないと、キャティの身が危険だ。

 コイツは華奢で力が弱い。

 どうしたってドグラスには敵わない。


「あ……ああ。わかった」


 キャティは真っ赤な顔のまま、立ち去って行った。


 キャティの背中を見届けて、俺は今夜の宿を取っている安宿に向かった。

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