第23話 僕と麗衣君は下着を下ろして股間を見る様な間柄という事で理解して貰えたかな?

「まぁ、僕と麗衣君は下着を下ろして股間を見る様な間柄という事で理解して貰えたかな?」


 織戸橘先輩はニヤニヤしながら私に言った。


「その言い方じゃ、まるであたしも姫野の股間見たがっている変態っぽく聞こえるだろうが! そもそも、あたしはアンタの股間何て見たことねーよ!」


 麗衣ちゃんは当然の事ながら抗議した。


「いや、君が望むならそうしてあげても良いんだけれどね。少なくても最後に君が僕に勝った時のお願いよりは良いんだけれどね」


 そのお願いって暴走族潰しに力を貸すって事かな?


「望む訳ねーだろーが! そんな事よりもよぉ、あたしは姫野が負けた事にまだ納得してねーよ。アンタの卒業式終わった後にやったタイマン。わざと負けただろう?」


 え? まさか麗衣ちゃんの暴走族潰しなんて危険極まりない事をしたがっているのを承知の上でわざと負けるなんて事があるの?


「いや。僕としては最後の最後になって君の気迫に負けたかと思っている。それに散々ヤキで良い想いをさせて貰ったしね♪ 少しはお返ししてあげなきゃね」


 麗衣ちゃんは「うげぇ」と声を出して嫌そうな顔をした。


「ヤキって……一体何をされたの?」


「……ノーコメントという事で」


 麗衣ちゃんが私から顔を背けてそれ以上言いたくないと言った様子を見せたら、織戸橘先輩は私に耳打ちした。


「麗衣君の貞操を汚す様な事はしていないから安心したまえ」


 耳打ちはわざとらしく麗衣ちゃんにも聞こえる様な声だった為か、麗衣ちゃんの蹴りが織戸橘先輩の背中に飛んできた。


「痛いよ麗衣君。こんなに元気ならもう退院しても良いんじゃないか?」


「あたしもさっさとこんな場所から退院してーよ。……それよりか姫野。今更聞くけど、どうしてアンタが来ているんだ? 高校の授業はどうした?」


 そういえば、私は出席停止処分だから麗衣ちゃんのお見舞いに来ても差支えが無いけれど、織戸橘先輩は高校の授業があるはずだけれど……。


「妹のたまきから麗衣君が大怪我をさせられたって話を聞いたら居ても立ってもいられなくてね……君の為ならば学校何て如何でも良いさ。まぁ環には放課後に行けばいいと呆れられたけれどね」


 織戸橘先輩は苦笑しながらそう言った。

 妹さんも私と同じ学校だったという事か。

 何年生だろうか?


「ああ。一個上の環から聞いたのか。わざわざ姫野を心配させるような事言わなくても良いのによ」


 中学三年生という事か。

 ならば阿蘇部長等と同学年だから事件について教師から聞かされた可能性が高い。


「僕が来たら迷惑だったかい?」


「迷惑なんかじゃねーよ。嬉しいに決まっているだろ」


 心底嬉しそうに麗衣ちゃんは微笑んだ。

 付き合いは短いけれど、こんな表情私にもあまり見せてくれた事が無いので少し織戸橘先輩が羨ましかった。


「そうかい。ありがとう。いつもそんな風に素直だとますます可愛いんだけれどね」


「心にも思っていねー事を言うな。それよりか、阿蘇って野郎を姫野はシメた事あるんだろ? 妹の環ってその事で阿蘇と揉めなかったのか?」


「心配はいらないよ。環は自分から強さを見せつける様な事はしないから喧嘩なんてしないけれど、彼女も日本拳法をやっているのは知っているよね? この前総合のアマチュアの大会に出場して慣れないルールでも優勝したからね。もしかしたら、日本拳法三位の僕よりも強いんじゃないのか? 僕に喧嘩を売って来たくせに一回で屈服した阿蘇君の性格では明らかに自分よりも強い相手には手を出せないでしょ」


 それは初耳だったけれど織戸橘先輩がここまで言うなんて。

 妹さんも凄く強いのかも知れない。


「マジかよ……今度タイマンやらせて貰っていいか?」


 麗衣ちゃんが包帯から覗く目を輝かせながら聞くので、織戸橘先輩は溜息をつきながら答えた。


「はぁ……何を言っているんだい? 入院している女の子が言う台詞じゃないだろ? それよりか君は自分の怪我を治す事に専念したまえ」


「そいつは残念だな。まぁアイツはあたしの事あんまり好きそうじゃないし相手にされなそうだな……」


「あの子は僕達と違ってプロを目指しているからね。空手経験者というだけで現在は素人の君を相手にはしないだろうね。それでも、あの子は僕が君の事を好きだから君が入院した事は教えてくれたからね。君の事を本当に嫌っていたら教えてくれないとは思うよ」


 さりげなく麗衣ちゃんの事を好きと言っているけれど、それって友達としてって事だろうか?

 それとも愛しているという意味なのか?

 真意は分からないけれど、麗衣ちゃんはその事に関しては追及することも無く答えた。


「まぁ……あたしが弱すぎて相手にされねーって事か。それについては実感したけどよぉ……このままじゃ確かに姫野に暴走族潰しに協力してくれなんか言えねーよな……」


 麗衣ちゃんは少し落ち込んだように言った。


「まぁ出来れば止めて欲しいというのが本音だけれどね……君がどうしてもやりたいというのなら微力ながら協力させてもらうよ」


「本当にわりぃな……折角協力してくれるのに、このままじゃあたしが姫野の足を引っ張っちまう。でも、考えている事があるから少し待ってくれねーか?」


「ああ。一人で突っ走るぐらいなら、遠慮なく僕を頼りたまえ。今回の様な事があるくらいなら環を通して僕に相談してくれても良かったのに……」


 織戸橘先輩は憂いを帯びた瞳で麗衣ちゃんを見つめていた。


「心配かけて悪かったよ……今度詫びに何かしてやるよ」


「じゃあ今度デートしてくれるかい? その時に二人でタピってみるかい?」


「タピってみるって何だよ?」


 硬派で世事に疎そうな麗衣ちゃんは困った様に首を傾げた。

 ……そういう私も意味が分からないかも……。


「ならばデートの時に教えてあげよう」


「ああ。そんなので良いなら付き合ってやるよ」


「えっ? 付き合う!」


 私が思わず声を上げると麗衣ちゃんはまたもや首を傾げ、織戸橘先輩は小悪魔っぽい笑みを浮かべた。


「良いのかい? 彼女の目の前で他の女とデートの約束なんかして?」


「何言ってるんだ? 勝子がお前みたいな目で女の事を見る訳ねーだろ? 勝子は親友マブダチだよ。なぁ勝子?」


「うっ……うん! そうだよ! 麗衣ちゃんは親友だよぉ~」


 そうだよね。

 麗衣ちゃんから見れば私は友達であって、恋愛対象じゃない。

 当然と言えば当然の事だ。

 私の想いを知ったら、きっとこの関係は崩れてしまうだろう。

 だから、私の想いは伝えないのが一番だ。


「ふーん……まぁ、良いけれど。何か面白くないね」


「何で、あたしの彼女が勝子ならオモシレーんだよ?」


「いや、勝子君に言いたいんだけれど、その内君の座を脅かすライバルが現れるかもしれないよ? このままで良いのかい?」


 目下のところ、最大のライバルが織戸橘先輩なんですけれど……。


 数年後、織戸橘先輩の台詞が的中する事になる。

 私と似たような境遇だった小碓武や麗衣ちゃんへの好意を隠そうともしない十戸武恵等が私の前に立ちふさがるとは、この頃の私には想像出来なかった。

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