第12話 私刑 *残虐な描写を含みます。

*残虐な描写を含む為、苦手な方はブラウザバックしてください。


「よく頑張ったけれど。こんなものかなー……。攻撃は殆ど真っすぐだし、動きは遅いし、フェイントも見抜けない。やっぱり喧嘩じゃ強くても格闘家としては小学生レベルだね♪ ねぇ、阿蘇君」


 麗衣を倒した空手男は、もう一人、阿蘇と呼ばれたワイルドツーブロックの頭をした不良の代表らしき男に聞いた。


「あの周佐がボディーガードにしているツレって言うからにはどんなものかと思ったが、俺が出るまでも無かったな。拍子抜けだぜ」


「所詮は女の子だからね。小学生の時は女子の方が身体的な成長が早いから、男子より強いって場合もあるけれど、中学になって男子の成長期になるとあっという間に逆転するからね。それに、空手をやめちゃったのは大きいよ」


 阿蘇は麗衣の事を侮蔑するように鼻で笑った。


「フン……。小学の時のままの感覚で男子に勝てると思い込んでいた訳か。笑わせるな」


「でも君の所の周佐ちゃんだっけ? あの子は本当に凄いんでしょ? 別格って聞いてるよ? この前もプロボクサー倒したとか、冗談みたいな話聞いたけれど本当なの?」


「……多分、あれは嶋津さんの調整が出来ていなかったかラッキーパンチが重なっただけだ。俺は一切認めねーよ」


「まぁボクシング部の部長としては自分より目立つのが許せないかな……って苦しい! 止めて!」


 それは余程気に入らない事だったのか?

 阿蘇は空手男の首を絞めると片腕で上に吊し上げた。


「口には気を付けろよ。葛城に止められているから周佐とはやらねーけど、スパーリングしたら俺の方が絶対上だからよぉ」


「わかった……分かったから放してよ……」


「フン! 雑魚のじゃじゃ馬シメたぐらいで良い気になるなよ!」


 阿蘇は空手男を放り投げるようにして、地面に下ろした。


「げほっ……ごほっ……分かっているよ。この学校で最強なのは君だって事ぐらい」


 驚くべきことに、麗衣をあっさりと倒した空手男ですら、ボクシング部の部長である阿蘇という男の方が強いと認めているのだ。

 自分の方が強いと認められ、ボス猿らしく阿蘇は満足そうに笑みを浮かべた。


「分かっていたら下らねぇ事ぬかすじゃねーよ」


「ハイハイ。ところで、約束通り美夜受ちゃん倒したけど、この後どーすんの? やっぱり輪姦まわしちゃう?」


 空手男が期待を込め下卑た事を口走った。


「まぁ早まるな。まずは俺達にご依頼して下さった御姫様がヤキ入れたいってよぉ」


 阿蘇はスマホを取り出すと、ある人物に電話を掛けた。


「もしもし。俺だけどよぉ……例のじゃじゃ馬はきっちりシメといたぜ。……言葉だけの礼はいらねーよ。それよっか後で約束通り身体で返してくれよな? お前とはちゃんとゴムしてやってやるから安心しろよ! はははっ! あ? ヤキ入れた後だって? それに……ハイハイ。分かったよ。じゃあ準備しておいて待っててくれよ?」


 阿蘇は不機嫌そうに電話を切った。


「何て言ってた?」


「周佐も連れて来いだとよ。美夜受もそうだけど、アイツにヤキ入れる方が本命だとよ。そしたら御姫様が股開いてくれるそうだ」


「なんか最近の女子中学生は怖いねー。気に入らない子にヤキ入れるだけの為に身体差し出すなんて」


「……お前も中坊だろうが? まぁ良いじゃねぇか。一度に上玉三人と思う存分ヤレるんだからよ」


「そうかも知れないね。はははっ!」


「テメーラ感謝しろよ? そろって脱童貞だからな。はははっ……イテっ!」


 阿蘇は後頭部に走る激痛に頭を抑えた。


「……テメー勝子の先輩だったのかよ! 何で苛められているアイツを助けてやらねーでこんな事するんだ!」


 失神したかと思われた麗衣はフラフラになりながらも辛うじて立ち上がり、石を阿蘇の頭に投げつけたのだ。


「……イテ―なコイツ。死にてーか!」


 怒髪天を衝く様子で阿蘇はいきなりの右ストレートで麗衣の顔面を打ち抜いた。

 麗衣は耐えきれず数歩踏鞴を踏み体育館の壁に背中をぶつけると膝を着いて屈みこんだ。


「ぐうっ!」


 麗衣はボタボタと鼻血が流れる鼻を掌で押さえるが、阿蘇はそんな麗衣の髪を掴み、身体を無理矢理引き上げると体育館の壁に押し付けたままボディブローを麗衣の腹にぶち込んだ。


「おえええっ!」


 幾らフルコンタクト空手の経験があるとはいえ、男子ボクサーの本気のパンチを受けては堪らず、膝を着いて胃液を地面に戻した。


「オイオイ阿蘇君……これじゃあ、お楽しみの前にボロ雑巾みたいになっちゃうよ?」


「あ? 何言ってんだ? いきなり石をぶつけてきたコイツがわりぃだろ?」


「でもさぁ? 折角の可愛い顔が蛙みたいな膨れ上がったらヤリ甲斐が無いじゃん?」


「顔は駄目だよボディボディって奴か? ありゃあ腹パンの方が拳痛めやすいのも知らない素人トーシローの発想だろ? まぁ俺の拳はそんなに貧弱じゃねーから、もう何発かいっとくか?」


「あーでも、阿蘇君の絶妙なボディブローで既に悶絶してるし、次殴ったらでもだしちゃいそうだから、それも気持ち悪いし止めとこうよ」


「そうか? 試してみるのもオモシレーんじゃねーか?」


 空手男は流石に阿蘇の悪趣味に辟易とした表情を浮かべたが、学校最強を称する男の機嫌を損ねてまで止めようとは思わなかった。


「まぁ周佐ちゃんだっけ? そっちの子も結構可愛いんでしょ? だったら美夜受ちゃんは壊しても構わないか……まだ、懲りてなさそうだし」


 空手男は麗衣の方を指さすと、麗衣は体育館の壁に手に当て寄りかかりながら、辛うじて立ち上がっていた。


「……はぁ……はぁっ……ぜってー……勝子に……手は……出させねぇー」


 麗衣はシュシュを巻いた手の甲で顎を伝う胃液と鼻血を拭いながら、阿蘇を睨みつけていた。


「随分、タフな女だな……それだけは褒めてやるぜ」


「はぁ……はぁっ……てっ……テメーのパンチが……へなちょこなだけだぜ……。はぁ……はぁ……テメーの……一個上の……姫野……織戸橘……姫野は……テメーよりか……全然……強かったぜ!」


「織戸橘だと?」


 阿蘇は姫野の名前を聞き、顔を顰めた。

 阿蘇の態度を見て、思い当たる節があったのか?

 麗衣は少し元気を取り戻したかのように言った。


「ハッ! その反応で……思い出したぜ! ボクシング部の阿蘇……って言ったら去年姫野に……ボコボコにされた奴じゃねーか! あたしもアイツには何回も喧嘩売って……その度にボコられたり……ヤキ入れられたけどよぉ……、アイツは……一回ボコられただけで……服従した……阿蘇よりか、何回も……立ち向かってきた……、あたしの方がぜってー強くなるって言ってたぜ!」


「黙れ! その名前を出すんじゃねーよ!」


 激高した阿蘇はボクシングの打ち方も忘れ、素人の喧嘩風の大きく振りかぶるパンチで麗衣の頬を殴りつけた。

 普段の麗衣、あるいは多少なりとも格闘技の心得がある者なら、まず喰らわないような大ぶりのパンチであったが、立つのもやっとの状態の麗衣は分かっていてもパンチを避けられず、まともにパンチを喰らい、大きく首を捩じり地面に倒れた。

 阿蘇はそれでも麗衣を許さず、山乗りになり雨の様にパンチを振り下ろし続けた。

 阿蘇が拳を振り上げる度に赤いペンキを無造作にバラまいたかのように鮮血の飛沫が壁を濡らす。

 白目を剥き、当に意識を飛ばしている麗衣は左右の頬を殴られる度に逃しきれぬ衝撃で体を弾ませる。


「ストップストップ! 阿蘇君! ストップだ! それ以上やると本当に死んじゃうよ!」


 空手男は流石に阿蘇を羽交い絞めにして止めた。

 麗衣の美しい顔は見る影もない程無残な状態になっていた。

 目元と両頬を大きく晴らし、何箇所か切れた唇と骨折したと思われる鼻から大量の血を流し、完全に失神していた。


「ちっ……やり過ぎたか。これじゃあ輪姦まわす気にもならねーな……あとは連中に任せるか」


 まるで見るに堪えないとでも言いたげに、サッカーボールの様に意識の無い麗衣の顔を蹴り、横を向かせると麗衣の口から唾液交じりの鮮血が流れ血溜まりが広がり、一本の折られた歯が零れ落ちた。

 阿蘇は忌々しそうに麗衣の耳を踏みつけると、不良達に命じた。


「オイ! お前等はこの雌豚を御姫様が待っている屋上に運べ! おっと……その前に、お前はコイツを取れ!」


 不良の一人は嫌そうな顔をしながらも阿蘇には逆らえず、麗衣の拳に巻かれた彼女の血や胃液に塗れたシュシュを取り外した。


「周佐にはコイツを持って行って屋上に来いって伝えろ! もし逃げたら美夜受がどうなるか教えてやれ」


 阿蘇は酷薄な笑みを浮かべた。

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