第24話 彼女をたずねて三千里

 これだからメンヘラはめんどくさい。僕と結婚したい。頑張って結婚する未来を引き当てた。そしたら後は僕と結婚して、ハッピーエンドで終わりだろ?とか言って、もしかしてその原因が僕にあるかもしれないから、あんまり大きな声では言えないけど。でもさー、ぶっちゃけ、僕と結婚できる状態になった時点で、ADS drive使えなくしとかなかったのが悪くない?

 それに若干引っ掛かるのは、事件の真相を知った時に、僕の中にあった沙織との結婚に対しての拒否感は消えていた事だ。僕によって多少未来が変わって結婚がチャラになっていたとしても、それこそ数回ADS driveを回せばまた結婚する未来に変わる気がするし、僕らの前から姿を消す理由にはならない。

 なんにせよ、それらは本人から直接聞けば良い。東雲の情報網をもってして見つかってないと言うことは、少なくとも生きてはいるのだろう。山の中で行方不明とかでない限りは。


 僕はまた愛手波さんの車に乗って東雲家へ向かう。もはやお馴染みとなったDSシステムを使って、僕や愛手波さんの未来で沙織が生きている事を確認するためだ。深夜近く、家に到着するとそこには見慣れた人影があった。中山敦、竹田京子、中央院真之助だ。今までの敵が味方になったみたいでちょっとテンションが上がる。……よく考えなくても僕が騙されてただけだけど。あ、竹田京子もか。

 中山敦と竹田京子は、事情を知った中央院さんに連れてこられたらしい。確かに、できるだけ沙織をよく知る人が多い方がすぐに安否確認できるだろう。さすが中央院さん。

 挨拶もそこそこに、一先ず、今後の行動について居間で相談することにした。道中僕は竹田京子に聞いてみる。


「沙織が生きてるって、いつ知らされたの?」


「あなたたちが帰ってから間もなく、沙織からね」


「怒ってないの?」


「怒るよりも、沙織が生きていた事が嬉しかったから。でも、電話で謝られただけで、まだ直接会って話をした訳じゃないの。早く見つけて、その時はいっぱい文句を言ってやるわ」


 竹田京子って何気に良い子だよね。宗教も無理に勧誘してこないし。


「そして、二度と悪さしないように、一緒に神様の教えを勉強するの」


 ……まぁ、多少はね?実際、悪いのは沙織だし?


 居間に着くと人数分のお茶やコーヒーが置かれている。若干種類が違うのって、もしかして僕らの嗜好を把握してたりする?


「相変わらず、東雲の執事は超一級だな。うちに欲しいくらいだ」


 言いながら中央院さんはコーヒー(無駄に金箔が散りばめられてる。金箔いる?)の席に座る。やっぱりここの執事さんって、執事界でも有名なのだろう。いや、執事界ってなんやねん。


「今日は皆集まってくれてありがとう。既に話していた通り、現在沙織は行方不明で安否がわからない。集まってもらった目的は、DSシステムで各々の未来を見て、沙織の無事を確認することよ」


「事情は分かってるけどよぉ。お姉さん、沙織は未来を変えてるんだろう?システムにそれは反映されているのか?」


「その点に付いては問題ないわ。二週間前の時点でシステムの再計算を実行しているので、もう終わっている」


 ああ、元々、罪滅ぼしのためにやるって言ってましたもんね。


「今日はもう遅いから、明日から行動に移りましょう。まずはそうね、一ヶ月おき程度で未来を確認することにしましょう。一人でも沙織の姿が発見できれば、それで調査は完了よ。生きていることさえ分かれば、後は待てば良いのだから」


 この間のペースで考えると、それなりにじっくり見ても一日で一年は確認できる。自分探しの旅に出てるのか知らんけど、流石に二、三年も見れば見つかるでしょ。


 ということで、今日のところはお風呂に入って寝ることにする。大浴場で中山敦と中央院さんと一緒になる。そりゃそうだ。実のところ僕は人見知りだし、彼らともそこまで親しい訳でもないのでどうしようかと思ってると中央院さんが話しかけてくる。


「前よりはマシな顔になっているな。沙織の思惑通り、吹っ切れたか?」


「まぁ、未来を変えてまで僕と結婚したいという想いを見たら、来るものはありますね」


 実際にはそんなでもないけど。ただ、凄い根性だとは思う。


「そう、それだ。沙織は未来を変えている。勿論、愛手波という天才がいてこその話ではあるが。実に面白いな。俺は中央院家の跡継ぎとして、自分の将来に関して多くを聞かされている。前にも言ったが、だからと言って日々を全力で生きない理由にはならないが、同時に退屈さを感じていたのも確かだ」


 中央院家の跡継ぎともなれば、遺伝子選択時の条件指定は間違いなく沙織の時の比ではないだろう。恐らく、一切の挫折を知らないまま、成功者としての人生を終えるはずだったのだろう。


「しかし、それに沙織が穴を空けた。俺がそれを為してないことに若干の悔しさを感じるがな。これで未来は分からなくなった。もしかしたら、俺は明日死ぬかもしれん。楽しみだな。ああ、俄然楽しくなってきた」


 いや、あんたはまず死なんでしょう。でも、言わんとしていることは分かる。ただ、結局のところは、愛手波さんがADS driveを破棄して、DSシステムの脆弱性を改善してしまえば、同じことなんだけどね。一時的な話でしかない。


「現状を鑑みると、敦よ、お前が沙織と結婚する可能性だってあるのだぞ?考一をブッ飛ばさなくて良いのか?」


 いやいやいや、余計な事言わないで?別にブッ飛ばさなくても良いでしょ?


「そうだな。考一とはいつかケジメを付けたいと思っているし、真之助とも、今度はプロレスじゃなくてガチでやりあいたいと思ってる。ただよぉ、俺は、どうしたって最後は沙織の想いを優先しちまう」


 そう言われてみれば、あのガチバトルも実は茶番だったんだよね。なんなの?お前らスタントマンか何かなの?


「馬鹿者。ならば考一以上に、お前を沙織に惚れさせれば良いだけだろうが」


 うん、僕もそう思うし、正直そんなに難しくないと思う。


「貴様らが本気にならないと、俺が沙織を手に入れるとき、つまらないではないか」


 えー?そういうこと?バトルジャンキーって恋愛でもそうなの?


「俺は考一、貴様にも期待しているぞ」


「皆さんせいぜい頑張ってください。僕は、強いですよ」


「くはははっ。良くぞ言った!そうでなくてはな!」


 僕にしては無駄に強気。沙織に関してはそもそも大分有利だし、なんたって、東雲の執事が掛かってますから。

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