第23話 メンヘラ彼女が何考えてるか分からない件
昨日はですねぇ。結局沙織さん、出てこなかったんですねぇ。僕も寝不足だったし、疲れていたもんだから、ウトウト~、ウトウト~ってね。気が付いたら、朝になっていました。いやぁな雰囲気を感じる。愛手波さんはベッドで寝てるし、他に人の気配はないんだけど、なんだか、視線だけを感じるんですねぇ。おっかしいなぁ、おっかしいなぁ、と思って、視線を感じる方に振り向いたんですよ。そしたら……。
目を向けたテーブルの先には出来立ての紅茶が置かれていました。はい、東雲の執事さんです。いつもありがとうございます。お陰様で今日も一日元気に過ごせそうです。
愛手波さんはまだ寝てることだし、紅茶を飲んで一息付いた僕は、誰もいない空中に向かって喋ってみる。
「執事さん、沙織ってこの家のどこかにいるんですか?」
「いえ、昨日の夕方頃に、外にお出になられました」
!?
ええ!?執事さん、質問したら答えてくれるの?なんか、話したら駄目なルールなのかと思ってた。愛手波さん、全く話しかけてなかったし……。声聞いたの、最初に罵倒された時以来じゃん。
調子に乗った僕は色々聞いてみる。
「執事さん、執事さん、今日の天気は?」
「午前中に若干パラつきますが、午後からは快晴、過ごしやすい天気になるでしょう」
「今日の双子座の運勢は?」
「気になるあの子に近付けそうで近付けない。ラッキーカラーは赤。ラッキーアイテムはヘルメットでございます」
「沙織の両親は僕の事どう思ってる?」
「考一様を実際に知られたのは最近ですので。すぐに認めれるのは難しいですが、そこは頑張り次第かと。少なくとも、私は応援しております」
何でも答えてくれるやん。相変わらず姿は見えないけど。
「いつも、美味しいご飯をありがとうございます。今までお世話になりました」
「いえ、こちらこそ。とても美味しそうに食べていただけるので、私も作りがいがありました。そして何より、お嬢様がたに良くしていただき、考一様には感謝しております」
僕らの話し声で、愛手波さんがモゾモゾ起きる。
「話は聞こえていたわ。執事、どうして昨日の時点で沙織がいなくなったことを言わなかったの?」
愛手波さん、執事さんの事、「執事」って呼ぶんだ!?僕も名前知らないけども。
「沙織様から、口止めされていましたので」
「沙織の行き先は?」
「申し訳ありませんが、存じておりません」
「そう。なら仕方ないわね。一先ず、朝食を取ったら考一君をアパートに送るわ」
朝食を食べた僕は、久々に自分のアパートに戻ってきた。今日は大学どうしよ……。ま、行かなくていっか。去り際に愛手波さんが言う。
「今まで、付き合ってくれてありがとう。また会うだろうけど、その時はよろしくね。大学はサボらないでちゃんと行くのよ。食事も栄養バランスを考えること。あと、出来れば人類幸福統制局に就職するのが良いわね。東雲に入ってからの当たりがマシになると思う」
なんか、最後にお母さんみたいなこと言ってくる愛手波さん。
「愛手波さんもお元気で。婚活頑張ってください」
「そうね。でも、DSシステムで決まっているのは一度結婚することだけで、離婚するかどうかは未指定なの。だから、案外適当に結婚して、適当に離婚して、その後独り身の可能性もあるわ」
ああ、そういう可能性もあるのか。
「もったいないですねぇ。僕で良ければ、お付き合いしますよ」
「考一君の事は気に入ってるけれど、それは無理ね。姉のモラル的に」
「まぁ、そうですね」
そんなやり取りをして、愛手波さんと別れる。
僕にとっていつも通りの日常が戻ってきた。といっても、サークルには所属してないし、バイトをしている訳でもないので、家と大学を往復するだけの生活。後は適当に読書とかゲームをして暇潰し。はぁ、一人暮らしの家事めんどくせ。ご飯も美味しくないし……。最近は愛手波さんか執事さんが何でもやってくれたからなぁ。待てよ?沙織と結婚するってことは、もれなくあの超絶執事が付いてくるってこと?リターンでか過ぎない?沙織のプロポーズ断ってた僕、馬鹿過ぎない?え?もしかしこの未来で僕が沙織と結婚する一番の理由って、あの執事の存在を知ったからだったりする?
変わった未来に対しての考察はともかく少しだけ日常と異なる点があって、それは沙織から連絡が来ないこと。と言っても、連絡はいつも向こうからだったし、別に毎日来ていた訳でもなかったし、今回の件があるから、沙織としても若干の気まずさを感じているのかなと思った僕は特に気にしていなかった。
それから二週間が経った。夜遅く、僕はいつものようにネットサーフィンしていて、そろそろ飽きてきてウトウトしていたらインターホンで起こされる。身なりの良い美人さんが立っていて、なんと沙織のお姉さんらしい。デジャブかな?意外と早い再会。
「沙織が行方不明なの。警察にも既に事情は話して捜索中なのだけれども、あなたの所に連絡が来てないかと思って」
うーん。来てないんだよなぁ。
「またドッキリじゃないんですかぁ?」
僕はもう騙されないぞ!
「分からないわ。もしかしたらこれも、あなたと一緒になる上で必要な過程なのかもしれない。けれども、そもそもあの日、事件の真相を話した後で、あの子はあなたに謝罪する予定だったのよ。少なくとも、私にはそう話していたわ」
まぁ、確かに。事件の真相を聞いても僕は怒ってなかった訳だけど、それはそれとして、普通は謝るよね。あ、そう考えるとなんだかムカついてきた。
「当然、アパートには帰っていない。京子ちゃんやその他の友達の所にもいない。中山君や真之助君も知らない。そして、あなたに連絡も来てない。もっと言えば端末の電源も切られていて、後が追えない」
「お金は持っているんだから、適当にやってるんじゃないんですか?大体この未来では、僕と沙織は結婚するんでしょ?少なくともそれまでの間に、沙織が大きな事故や事件に巻き込まれる心配はない」
「ああ、違うのよ。私が焦っているのはそこなの。もしかしたらこの世界で、あなたと沙織は一緒にならないかも知れない。最近まで、沙織はADS driveを使っていたようなのよ」
は?意味が分からん。なんで?二年も掛かって辿り着いたんじゃなかったの?んー?あれ?そういえばADS driveってなんか聞き覚えあるなって思ってたけど、沙織の部屋を調べた時にPCに入ってた変なソフトがそうだったような……。でも、あの時は文字しか出てこなかったし。
え?もしかして僕のせい?
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