第19話 事の真相と疑念

 ……眠い。超眠い。案の定寝苦しかったし、何より執事から感じるプレッシャーがヤバかった。心配しなくても何もしないっつーの。対して愛手波さんの方はとても調子良さそう。心なしか、事後に肌がツルツルになるみたいな感じになってる。だから何もしてないっつーの。朝食のオムライスには血だらけの僕をイメージしたであろう絵がケチャップで描かれている。執事さん勘弁してください。あ、でも味は美味しい。旨すぎる。


「考一君、執事さんに気に入られたようね」


 そうなの!?


「ほら、私のオムライス見て」


 本当だ……。こっちはこっちで某貞子みたいなの描かれている……。絵心ないだけだったのか。一晩殺意に耐えた甲斐があったぜ。



 調査四日目、眠気により若干ペースは落ちたものの、昼までには予定通り沙織と出会った頃までを確認できた。その結果、やはり沙織との出会いの仕方からして僕の記憶と若干違う事が分かった。


 午後から暇になってしまった僕は「Destiny Slave system ; Logical Encyclopedia」の続きを読むことにする。元々超超超天才児の僕にとってはこの程度の読解は朝飯前で、今まで知らなかったシステムの事が色々分かった。

 それによると、どうやらDSシステムは完璧に動作するまでに稼働開始から30年の調整が必要だったらしい。基本ロジックは東雲博士の頭の中身そのままで特に問題はなかったが、計算に使われている環境変数の数が膨大であったため、ほんの少しの足らずによって博士の見える未来とシステムによる計算結果に差が生まれてしまった。その抜けを把握するのに長い年月を要した訳だ。DSシステムで未来が見えるということは、この空間を占める全ての物質の性質及び、それらに作用する物理法則が完全に解明されたということだ。遥か昔はダークマターと言って観測できない物質で溢れていたようだが、システム立ち上げ時点では99.99%の物質は把握されていた。抜けといってもほんの僅かであり、最終的にはそれも観測できた訳ではなくて、ただ、抜けがあると仮定してそれに適当な性質を当てはめて、後はひたすらシステムの計算結果と博士の見える未来との差を見るという超絶ローラー作戦によってこの偉業は達成されている。地獄かな?

 まぁ、博士には途中でシステムが完成する事が見えていたらしいから、案外気楽に適当にやっていたのかもしれない。それこそ、漫画でも読みながら。っていうか、東雲亭に漫画喫茶作ったのって間違いなく博士だよね。

 他に分かった事と言えば、どうやら僕らがシステムで見ている未来や過去は、DSシステムを本格的に稼働した時に計算した結果をなぞっているだけであり、実の所、毎回計算してるわけではないらしい。また、地球の始まりまで遡っていることから想定はしていたけど、人類の行き先も既に見えているらしい。その詳細までは書いてない。中央院さんとか知ってそうだけど。あとは、プログラムコードを見た所、現実に発生するランダムな挙動を計算で再現するのが一番大変だったみたい。多分、東雲博士の頭の中身を最も参考にしたのがここだと思う。ありとあらゆる暗号を一瞬で解くためのロジックみたいな感じ。PCの性能に頼った力業っぽいけど。


 コンコン。個室の扉が叩かれる。


「考一君、今日は先に夕飯にしましょう」


 多分、沙織の死の真相が分かったんだろうな。

 大広間に入ると既に前菜が用意されていた。いつもと順序違うのになぜこのタイミングで用意できるのか……。東雲の執事恐るべし。


「昨日話した通り、私の方は沙織が生まれた直後付近の確認を行ってみたわ。考一君の方もその様子だと……」


「ええ。僕の方は、沙織と出会った所まで遡りましたが、やはりシステムで見る過去と僕の記憶には齟齬がありました」


 沙織の死の原因は、この時点でほぼ確定したようなものだ。


「昔の事だからそこまで記憶に自信があるわけではないのだけれども、私の方も自分の記憶とシステムによる過去に違いが見られた。そして、沙織の死亡鑑定の結果から得られた遺伝子情報を元にシステムで再計算した所、システムの結果と、今の現実は一致したわ」


 東雲の管理者権限ってやつか。おそらく、システムの不具合調査のために死人に関しては見れるんだろうな。


「ということはつまり」


「ええ。両親が選択した遺伝子情報と、現実の沙織の遺伝子情報が違う。なんらかの操作ミスがあって、最終的な遺伝子選択を間違えていた、というのが事の真相ね……」


 僕の予想②が正解だったわけだ。


「今日は、とても疲れたわ。ゆっくりお風呂に入って、ちゃんと睡眠を取って、考一君をアパートに送るのは明日で良いかしら」


「はい。全然良いですよ。明日からこの料理が食べられなくなるのが残念です」


「私といられなくなる事についてはどうかしら?」


「僕のアパートでよければ、居候して貰っても構いませんよ」


「それも良いかも知れないわね」


 そんなやり取りをして、そこからは適当に談笑しながら夕食続行。お風呂に入ってリラックスしていると寝不足だった頭が冴え渡ってきて、DSシステムへの理解も相まって段々とこれまでの流れに違和感を感じ始める僕。あれ?もしかして、愛手波さん、僕に嘘付いてない?

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