第18話 Destiny Slave system ; Logical Encyclopedia

 三日目、DSシステムで過去をチラチラ確認しながら同時に僕はこのシステムに関する本を読み始める。本は三部で構成されていた。一部目は全体の構成がざっくり書かれているようでページ数は少なめ。二部目は一部目の詳細。三部目にプログラムコード。二部目と三部目はそれぞれが行き来できるように、お互い対応するページが至るところに書かれていた。コードは古めだけど、読めないこともない。

 なになに?はじめに。


【はじめに。人類の繁栄、いや、滅亡回避のためにこのシステムの完成が不可欠である事は理解している。一方で、未来が見えるようになってしまった世界で発生しうる不幸の可能性を私は否定できない。だが許してほしい。私には既に、システムが完成する未来が見えてしまった。もはや、私自身にさえどうすることもできないのだ。せめて人類がこのシステムを正しく使い、人類により良い進化を促すこと祈る。そしてもし、運命に絶望した者が本書を読んだならば。私には出来なかったが、本書がそれを覆すヒントになれば幸いである。 - 東雲章吾】


 東雲章吾って。例の未来が見えていたDSシステムの開発者っておもいっきり愛手波さんの先祖じゃん。だからこそ、代々システムの管理統括を任されているわけか。

 それにしても随分ネガティブだな。そりゃそうか。多分この人、システムを完成させるデバック作業の過程で何度も未来を見ているはずで、人生の後半なんか、一つも面白くなかっただろうなぁ。ただ全て知っている事しか起きない毎日。地獄だったろうなぁ。他人事だけど、共感はできる。多分、世界で僕だけは。


 中々分厚い本だから、過去の確認をしながらだと読み切るのにちょっと時間掛かりそうだな。まぁ、良いか。焦る必要もない。ご飯は美味しいし、身の回りの事はいつの間にか終わってるし、愛手波さんと話すのも楽しいし、美人だし。


 ということで三日目も特に収穫はなし。僕の確認も手慣れてきていて、今日の時点で二年半分の確認が終わっている。今のところ、システムで見える過去と僕の記憶にはまだズレが生じている。待てよ?僕と沙織の付き合いって三年くらいなんだから、この時点で僕の予想①と②の可能性が高くないか?中山敦の話によれば、沙織が自分の未来を見たのは二年前の筈だし。という話を夕食時に愛手波さんにしてみる。


「そうね。分かったわ。そうなると、確認すべきは沙織が生まれた直後になる。それは考一君には確認できない事だから、明日は沙織と出会った辺りまでを確認して貰えればそれで良いわ」


「そうですか。多分、明日の昼までには確認できると思うので、それで僕はお役ごめんですね。今までお世話になりました」


「何を言っているのかしら?考一君、まさか帰るつもり?」


「そりゃまぁ、大学生ですから。無闇に休むのも良くないでしょう」


「休んで良いわ」


 良いの!?


「今回はそうね、論理的な説明はできないわ。ただ、原因が分かった時に、それをあなたにも直接聞いて欲しい。駄目かしら」


「冗談ですよ。最後までお付き合いするつもりでいます」


 そうなると思っていたし、あと東雲家の居心地が良すぎる。寧ろずっといたい。やっぱり時代は執事みたいだ。一体いくらで雇えるのだろうか。


 夕食を終えた僕らは愛手波さんの部屋に戻り、就寝の準備に入る。


「多分、明日か明後日には真相が分かると思う。そしてそれが終わったなら、私は沙織の死を受け入れて日常に戻ることになる。姉として、そうなる前にもっと何か出来なかったのかって、一生後悔しながら」


「未来は変えられません。だから、沙織の死を回避することは誰にも不可能でした。愛手波さんが責任を感じる必要はないと思います」


 ついでに言えば僕にも責任はない。どうしようもない。起きることは、どうしたって起きる。


「私はHWCAの研究員だし、東雲でもあるのだから、その辺りのことを頭では理解しているつもりだったのだけれども。全然、駄目ね。考一君のように達観できないし、真之助君みたいに強くもない。あなたは何も動じない。今なら沙織の気持ちが少し分かるわ。あなたといると、安心する」


 愛手波さんが僕の布団に入ってくる。


「10歳も離れた子に甘えるなんて、我ながら情けないと思うけど、今夜はここで寝ても良いかしら」


 中央院さんが言っていたように、心のままに生きる事は、幸せを実現する上で重要だと思う。そして時には自分の弱さを認められる強さが必要だ。愛手波さんにはそれができる。ただ達観してるだけの弱い僕は、せめて彼女の幸せに一役買う必要があるだろう。


「本当は寝づらくて嫌ですが、良しとしましょう。僕と愛手波さんの仲ですからね。ただし、エッチなことはなしです」


「どうして?」


「あの超有能な執事が、どこで見てるか分かりませんから」


 っていうか、絶対今も見てるよね。今時点で割りとヒヤヒヤなんですけど。万が一やらかそうものなら、明日、僕が目覚めることはない気がする。それはちょっとだけ、嫌だなぁ。

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